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ニャンガラ・ゾルホ、エステル・チボール、アレックス・グレニー「実験的アプローチで公務員が不平等に取り組む4つの方法」

作成者: PEPPEP|2024/9/9 (月)
PEP では、政策起業に関連した英語記事を翻訳して発信する翻訳コンテンツを定期的に発信しています。
今回は、英国の研究機関Nestaによって設立された政策研究機関Innovation Growth Labから、以下の記事をお届けします。
翻訳元:Nyangala Zolho, Eszter Czibor and Alex Glennie, Four ways public servants can tackle inequality with experimentation, Innovation Growth Lab, 2021/2/23

Image by Matthias Grießhammer from Pixabay

多くの公務員が何十年にもわたって不平等の解消に取り組んできましたが、依然として多くの課題は残っています。そこで、新たなアイデアの試行や、情報収集、政府の介入の影響を検討することにより、平等、多様性、包摂性を向上させることができると考えられています。これは実験的アプローチと呼ばれる方法です。

多様な労働力を惹きつけることや、コミュニティを平等に資する政策を確実に実行することは、多くの公務員が目指すところですが、依然として、何が効果的かについての十分なデータ、エビデンスを集めるのは極めて難しいと言わざるを得ません。イノベーション・グロース・ラボにおいては、政策立案者と協力してイノベーションへのアプローチの設計・検証を行っています。世界中からの研究を集め、政策アイデアの共有・検討をしています。

実験的アプローチは公務員が直面するすべての問題を解決する万能薬ではありません。しかし、政府の意思決定や、平等、多様性、包摂性を向上するために提案された解決策について、より良いエビデンスをもたらすようなやり方のインスピレーションが得られる情報を以下にお伝えします。

 

実験的アプローチが有効になる場合

実験的アプローチは未知のものを探索するためのツールです。私たちは新しいアイデアを試し、それがどのように機能し、どのような効果があるかについての情報を集めるために、実験をします。そのためには、学ぶ機会を得るために実験の計画を練り、構造化する必要があります。実験にはしばしば何らかの形の対照群が含まれます。言い換えれば、指定した変数の影響を分離できるよう、プロセスの一部を一定に保つように実験が設計されます。実験的アプローチを用いることは政策や介入の全体的な影響を評価するため、あるいは何が、いつ、誰に対して効果があるかを見出すために特定の要素をテストするために用いることができます。

実験的アプローチを使用したい公務員にとっての最も重要な重要な懸念事項は、バイアスをどのように取り除くかです。そのため、実験者はランダム化比較試験(RCT)を最も重視します。この実験手法は選択バイアスを取り除くので、プログラムに参加することを選択した人々と選択しなかった人々の間の既存の差異と、プログラムの影響を混同しません。RCTを使用することで、政策や介入の有効性に関して、実験者が実験前からすでに抱いている考えを支持するような情報を恣意的に選択すること(いわゆるチェリー・ピッキング)がより困難になります。平等、多様性、包摂性に関する問題は、特に無意識のバイアスの影響を受けやすいものです。これにより、RCTというアプローチが更に有用になります。

これらが適切に行われた場合、実験は政策や介入の設計と実施のあらゆる段階を改善するのに役立てることができます。

 

問題の深い理解につながる実験的アプローチ

政策や介入を設計する前提として、解決しようとしている問題や検討中の解決策を理解する必要があります。例えば、最近の実験では、里親機関の同性カップルに対する差別について調査が行われました。研究者は、架空の同性カップルおよび異性カップルとして里親になることを希望する旨のメールを里親機関に送りました。その結果、すべての申請に対して回答があったものの、男性同性カップルに送られてきた回答は他のカップルに送られてきたものよりも短く、また回答を受け取るまでにかかった時間も長かったことが分かりました。

他の人がすでに試し検証した内容から学ぶことが、平等、多様性、包摂性を向上する上で非常に重要です。

この実験により、この事例では、子どもを里親として育てたいすべての同性カップルではなく、特に男性同性カップルに対して差別が発生していることが確認されました。したがって、すべての同性カップルに対するバイアスに取り組む介入よりも、男性同性カップルに対するバイアスを減らすことを目的とした介入の方が効果的であると考えられます。

 

仮定の検証に役立つ実験的アプローチ

問題の存在を認識すると、すぐに解決策を適用したくなりますが、果たしてそれで良いのでしょうか。実験的アプローチを使用して、問題を生み出したメカニズムを探ることが可能です。提案された解決策の背後にある暗黙の仮定を明らかにすることができます。例えば、カナダ連邦政府は、スポンサー付きの賃金補助金を通じて採用における差別を減らそうとしました。企業が補助金にどのように反応したかを探るために、研究者はランダムに架空の応募書類を民間企業に送りました。一部の応募書類では応募者が車椅子使用者であることを示し、他の応募書類では示しませんでした。また、一部の応募書類では車椅子使用者に対する政府の補助金について言及し、他の応募書類では言及しませんでした。

この研究では、企業から折り返し連絡を受けた架空の車椅子使用者の応募者の割合は、障害を開示しなかった応募者のわずか半分だったことが分かりました。政府の補助金に言及しても、このギャップを埋めることはできませんでした。この実験は、企業が車椅子使用者を雇用しない理由が既存の補助金を知らないからだという仮定を反証するのに役立ちました。したがって、障害者に対する差別をなくすためには、補助金制度を再設計するか、他の介入で補完する必要があると思われます。

 

より良い介入設計に役立つ実験的アプローチ

新たに提案された介入が不平等の根本的な原因に対処していると判明したとしても、実施する前には多くの設計上の決定を行う必要があります。実験により、本質部分は同じ介入の異なるバージョンを試し、どれが最も効果的かを確認することで、プログラムの詳細を磨き上げ、微調整することができます。この「A/Bテスト」アプローチは民間セクターで非常に人気があります。また、例えば税金の遵守を促進するなど、公共政策においても低コストで印象的な結果をもたらしています。しかし、このアプローチの限界を意識しておく必要はあるでしょう。

すべての実験には事前の計画と、結果を意思決定に活用するというコミットメントが必要です。

勤労所得税額控除(EITC)の利用を増やすことを目的とした最近の情報キャンペーン実験から得られた、注意すべき教訓を紹介します。EITCは、低所得から中程度の所得で働くアメリカ人、特に子どものいる家族を対象とした連邦プログラムです。実験では、対象となる家族に送られるメッセージのほぼすべての側面—内容、デザイン、発信者、方法—を変えてみました。しかし、実験で送られたメッセージのどれも、控除を申請する世帯の割合を有意に増加させることはできませんでした。これは、接触が難しいコミュニティにサービスを提供するには、実施と提供の微調整よりも、基礎となる政府システムを簡素化するための懸命な取り組みが必要であることを示す説得力のある事例です。

 

私たちの行動のインパクトを示す実験的アプローチ

実験的アプローチは一般的にプログラムのインパクトを測定するために使用されます。ノーベル賞を受賞した経済学者のアビジット・バナジー、エステル・デュフロ、マイケル・クレーマーが有名な例を挙げています。しかし、平等、多様性、包摂性を向上させたい公務員は、学生による評価での差別を減らすことを目的とした啓発キャンペーンのインパクト評価からインスピレーションを得ることができるかもしれません。

以前の研究では、女性教師は男性教師と同等のパフォーマンスを上げているにもかかわらず、低い評価スコアを受けていることが示されていました。しかし、ジェンダーバイアスに対する意識を高めるトレーニングがこの問題に取り組むのに役立つかどうかを知るための十分な証拠がありませんでした。フランスの大学で行われた実験では、2種類のEメールキャンペーンの有効性をテストしました。1つ目は教師を評価する際に差別しないよう学生に求めるもの、2つ目は評価におけるジェンダーバイアスに関する研究結果を共有するものでした。実験の結果、2つ目の情報提供型の介入のみが成功したことが明らかになりました。これにより、大学管理者はより公平な評価プロセスを作り出すためのシンプルかつ強力なツールを使うことができるようになりました。

 

実験的アプローチは世界をより公平な場所にするのに役立つか?

実験的アプローチは公務員が不平等に取り組むのに役立ちます。問題を理解し、証拠に基づいて解決策を設計・改善し、介入の実際の影響を評価することの手助けになるためです。すべての実験には事前の計画と、結果を意思決定に活用するというコミットメントが必要です。不平等の問題に取り組みバイアスを懸念する公務員にとって、特に価値のあるエビデンス収集方法はRCTです。しかし、特にRCTでは堅牢な実験構造を早期から設計する必要があります。政策の設計や実施の最後に追加することはできません。

他者がすでに試し、テストしたことから学ぶことは、平等、多様性、包摂性を向上させるために不可欠です。これは課題のさまざまな側面に取り組み、同じことを繰り返さないようにするのに役立ちます。

実験的アプローチは、公務員が世界をより公平な場所にするために必要な多くのツールの1つに過ぎません。しかし、正しく使用すれば、望ましい目標に近づき、より良い結果を得るのに役立ちます。皆様の業務で実験を活用し、公共サービスにおける実験の実施についての詳細情報を得るために私たちに連絡していただけることを願っています。

画像を除いたこの記事の文章は、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際の下に提供されています。
翻訳:渡部(PEPインターン)
監修:野澤