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ホームレス支援団体が成功の指標を変えれば、より多くの人々がホームレス状態を克服できるだろう(モルヴァリド・ラフマニ)

作成者: PEPPEP|2024/12/3 (火)
PEP では、政策起業に関連した英語記事を翻訳して発信する翻訳コンテンツを定期的に発信しています。
今回は、非営利のオンラインメディアサイト The Conversation から、以下の記事をお届けします。
翻訳元:Morvarid Rahmani. Homeless service providers could help more people overcome homelessness if they measured success differentlyThe Conversation. 2024/7/25.

ホームレス問題はアメリカにおける重大な課題であり、日々深刻化しています。アメリカ住宅都市開発省(HUD)が発表した最新の定点調査報告によると、2023年1月のある一晩で記録された米国のホームレス数は65万人に達したことがわかりました。これは、国全体で500人中1人がホームレスという計算になります。

私の住むジョージア州では2017年以降、ホームレスが増加し続けています。州のデータによれば、2022年には、路上や車中で寝泊まりする人の数が、緊急シェルターを利用できる人の数を上回りました。

政治家もこの問題に注目しています。連邦政府は毎年、ホームレス対策として、地方自治体や非営利団体に数十億ドルの資金を提供していますが、残念ながら状況を改善するには至っていません。なぜこのような結果になっているのでしょうか。

ホームレス問題の背景には、失業住宅価格の高騰健康問題など、複雑な要因が絡み合っています。しかし、オペレーション・マネジメントを専門とする私の目から見ると、見過ごされている重要な問題があります。それは、非営利団体を中心とするホームレス支援団体が、どのように成果を評価しているかという点です。現在のシステムは、長期的な解決よりも、その場しのぎの対応を優先してしまう傾向があるのです。

 

非営利団体による広範な支援網の限界

アメリカ全土で、非営利団体はホームレスの人々に対してシェルター、住宅提供、リハビリ、職業訓練、カウンセリングなど、様々な支援サービスを展開しています。このような団体は全国に12,000以上あり、アトランタ都市圏だけでも50以上存在します。

他の非営利団体と同様に、ホームレス支援団体も活動の成果を示すために様々な指標を公表しています。これは自分たちの活動の効果を把握するだけでなく、政府や寄付者、一般市民に対して団体の価値を示す役割も果たしています。

研究によると、多くの支援団体は「提供した食事の数」「用意したベッドの数」「開催した講座の数」といった数字を成果として掲げています。しかし、これらの数字は本当の意味でのホームレス削減につながっているとは言えません。

これらはアウトプット(結果)の指標であって、インパクト(影響)の指標ではありません。アウトプットは活動の直接的な成果を表しますが、インパクトは活動がもたらした長期的な変化や利益を指します。支援を受けた人が自立し、ホームレス状態から抜け出せたかどうか——このような本質的なインパクトを測定している支援団体は、驚くほど少ないのが現状です。

これは大きな問題です。ビジネス研究が示すように、非営利団体が何を成果として測るかは、その活動の優先順位に直接影響を与えます。支援対象者やサービスの性質によっては、支援する人数を増やすことよりも、一人一人の問題解決に注力したほうが、社会的インパクトを高められる、つまり、社会へより良い影響を与えられる可能性があります。

誤解のないように申し上げますが、ホームレス支援団体はアメリカ全土で素晴らしい活動を展開しており、それを批判するものではありません。ただ、多くの団体が目に見える数字(アウトプット)にとらわれ、本質的な成果(インパクト)の測定を軽視している傾向があることを指摘したいのです。この姿勢は、彼らの活動とその成果に自然に影響を与えています。

 

より良い支援のために

では、非営利団体はホームレス支援においてどのように成果を測ればよいのでしょうか?

まずは、自立を達成した人の数や、リハビリ、職業訓練、就職にかかる平均期間、就職支援を受けて仕事を得た人の初任給といった長期的な成果に注目することから始めてもよいでしょう。

さらに踏み込んで、支援後1年以上雇用を維持できている人の割合や、1年以上養育費を支払い続けている人の割合、1年以上刑事事件に関わっていない人の割合なども重要な指標となります。

まずは、サービスの持続的な成果を考慮することから始めることができます。たとえば、自立した人の数、リハビリ、職業訓練、職探しにかかった平均期間、支援を受けた人の就職時の初任給などです。

さらに踏み込んで、支援後1年以上雇用を維持できている人の割合や、1年以上養育費を支払い続けている人の割合、1年以上刑事事件に関わっていない人の割合なども重要な指標となります。

これらの指標を測定するのは確かに簡単ではありません。しかし、実際にそれを実践している団体もあります。

例えば、Georgia Worksは1,000人以上の人々のホームレス状態からの脱却を支援してきました。この団体のウェブサイトを見ると、上記のような指標で成果を測定していることがわかります。まさに「自立支援」に焦点を当てた活動を展開しているのです。

成果の測定とともに重要なのが、その指標を資金提供者である政府機関や寄付者に効果的に伝えることです。適切なコミュニケーションがなければ、表面的な数字だけを追う団体のほうが生産性が高く見えてしまい、結果として、本質的で長期的な変化を生み出している団体よりも多くの資金がそのような団体に配分されかねません。

インパクト指標を重視し、その測定方法を標準化し、資金提供者と明確にコミュニケーションを取ることで、アメリカはホームレス問題の解決に向けて前進し、より強靭で回復力のあるコミュニティを築いていけるはずです。

この記事の翻訳にあたり、翻訳許可を本記事の著者から取得しています。
 
著者:
モルヴァリド・ラフマニ (Morvarid Rahmani):ジョージア工科大学准教授

 
翻訳:児玉(PEPインターン)
監修:野澤