全国からたくさんのご応募をいただき、誠にありがとうございました!
頂いた応募案を私たちで審査する中で、「政策という形で提示されていないため、政策としての評価ができない」という応募が複数ありました。普段の生活の中で政策をつくる機会はなかなかありませんから、学生の皆さんにとっても応募用資料を作るのは難しいことだったのではないでしょうか。
アイデアも良く、実現のための行動も伴っているのに、「政策」の形になっていないため評価ができない、というのは私たち審査側としても大変心苦しく、学生の政策起業を応援する立場として私たちは今回のコンテストを通して可能な限り皆さんの取り組みを支援していきたい、と考えています。
そこで、今回の記事では「そもそも政策とは何か」ということについて紹介し、応募アイデアの中で「政策になりきっていない」ものに関して多く見られた問題とその解決策を提示しました。ぜひ参考にしていただけますと幸いです!
政策とは、社会の問題を解決するために「政府」が行う活動のことを指します*1。ここでは、どのようなことが政策になりうるのか、具体例をもとに考えてみましょう。
例えば、あなたは今定期試験を控えているが、数学の試験対策がうまくいっていない、としましょう。「試験対策がうまくいっていない」というのは、社会の問題ではなくあなた個人の問題ではあるかもしれませんが、少なくともあなたは今問題に直面していて、どうにかしてこれを解決したい、というのは確かです。
まず、この問題に対して「復習方法を工夫する」「友人と勉強会を開く」「試験対策のための塾に通う」という解決策を取るのは政策でしょうか。これはもちろん政策ではありません。どの解決策もあなた個人やあなたの友人が行動するだけで実行でき、政府が活動する必要はありません。
塾に通うにはお金がかかるし、友人と勉強会を開いても気が抜けてしまい勉強に集中できない。そこであなたは、「試験対策のため勉強会をオンラインで開き、やる気のある全国の学生を集める」というアイデアを思いつきました。少し話の規模が大きくなって「政策っぽさ」が出てきたかもしれませんが、これもまだ政策ではありません。政府の力を借りずとも、あなた個人が仲間を集めてオンライン勉強会の仕組みを作ったり、全国の学生を集めてくることは(大変ではありますが)実行可能かもしれません。
それならば実際に自分でやってみよう、ということでオンライン勉強会を開催しようとしたあなたでしたが、準備や運営が想像以上に大変だったとしましょう。これでは自分の試験対策どころではありません。そして、「政府にオンライン勉強会を主催してもらおう!」と思い付いたとします。これは政策でしょうか。
これは政府が行う活動の提案、という形になっているので、政策という形式になりました。
ただし、この政策が実際に実現することはおそらくないでしょう。なぜなら、この提案はあなたの困りごとを解決するものであって、社会の問題を解決するものとはなっていないからです。政策について議論する国会議員や税金を納める国民から「いいね!」と思ってもらえるように説得できなければ、政策は実現しません。中には、「単に勉強をさぼっているだけじゃないの」と思う人もいるかもしれません。そのような人を説得するためには、政策としてこの問題を解決するべき理由を探す必要があります。試験対策がうまくいかないことで困るのはあなた自身だけかもしれませんが、実は社会にとっても大きなマイナスがあるのだ、ということを示す必要があるわけです。
試験対策がうまくいかない理由を振り返る中で、あなたは「塾に通うお金がないのが問題ではないか」と考えるかもしれません。経済的な理由で勉強の機会が奪われている人は、あなたの他にも社会に多くいるでしょう。また、「教育格差を是正する」というテーマと結びつけることで、あなた一人の問題ではなく社会の問題として提起することができそうです。そこで、例えば「生徒が塾に通うためのお金を政府・自治体が支援すべき」という政策のアイデアを提言することかできるでしょう*2。
もしくは、試験対策がうまくいかない理由として「学校での授業が自分にとっては難しすぎて、ついていけない」からではないか、と考えるかもしれません。本当はそれぞれの生徒の理解度に合わせて授業を行ってほしいのに、あなたの学校ではそのような柔軟な授業が行われていません。その理由を調べる中で、あなたの学校にはそのような授業を行うための教師の数が足りておらず、そして教員の数が足りていないのはあなたの学校に限らず実は全国的な現象なのだ、とあなたは気付くかもしれません。試験対策がうまくいかない、というあなた個人の問題を「教員不足」という社会の問題として捉えなおして、その問題を解決するための政策を提言することができるでしょう。
ここまで見てきたように、政策を考える上では「今取り組んでいる課題を、あなた個人の問題だけではなく社会全体の問題として捉えてもらうためにどうすればよいか?」という視点も重要です。このトピックについて行ったPEPゼミの動画も合わせてご覧ください。
ここからは、いくつかの応募で共通して見られた問題と、そのアイデアを「政策」にするためのヒントをお伝えします。
→政策の力を借りて、より効率よく大きなことができないか考えてみましょう
「社会の課題を自分たちの力で解決する」こと自体は、間違ったことではありません。実際にNPO法人などの活動によって課題の実態が明らかになり、課題の解決につながった事例は数多くあります。
しかし一方で、学生「政策起業」コンテストに応募するアイデアとして、その提案が政策の形になっていることは必要です。政策の形にするにあたり、あなたがやろうとしていることを政策の力を借りてより大きく・より効率よく達成できないか、を考えてみるとよいでしょう。
政策の力を借りる方法はいろいろと考えられます。取り組みを行うための資金や場所などの面で支援をしてもらう、ということも考えられますし、自分たちの取り組みを全国規模に拡大するために政策の力を借りる、ということも可能です。
もしあなたのアイデアが「私/私たちが〇〇をする」という形になっている場合、政策の力を借りてよりよいアイデアにできないか考えてみるとよいでしょう。いきなり政策と言われてもあまりピンとこない場合、実際に行動をしてみるのも一つの手段かもしれません。
例えば、自治体の中には市民活動と行政が協働するための仕組みを整備しているところが多くあります(例:港区区民協働ガイドライン)。あなたが住んでいる市区町村の「協働」の仕組みについて調べてみて、自分がやろうとしていることに対してどのような支援が受けられそうか確認してみる、ということは考える一つのきっかけになるかもしれません。
→地方自治体、国など、誰に対して訴えかけるのがよいかを考える
今回いただいた応募の中には、アイデアを誰がどのように実行するのかが明確になっていないものもありました。いくら政策を提言しようとしても、それを提言する相手がいなければ意味がありません。
「政策」「政治」と言われると、国の政治、いわゆる「政治家が国会で議論しているもの」を思い浮かべるかもしれませんが、「政策」の提言先は国政だけではありません。あなたの住んでいる市区町村や都道府県へ訴えかけることもできるでしょう。そのアイデアは法律として国会で制定されないと意味がないようなものなのか、それとも自身が住んでいる自治体から始めることが現実的なのか、考えてみてはいかがでしょうか。
また、アイデア実行の全てを国や地方自治体に任せる必要もありません。「アイデアの実行は自分たちで行い、その支援を政策として行ってもらう」「アイデアの実行は各地の市民や団体が行い、その実行をしやすくするための補助や規制を政策として行う」など、アイデアのどの部分を誰が行い、政策をどのように活用するのかを考えてみるとよいでしょう。
とはいえ、いきなり白紙の状態から考えるのは難しいかと思います。そこで、自分が考えているアイデアと似たような政策の例が存在しないか調べてみるとよいでしょう。関連する分野の書籍やニュースを調べてみることで、考えるヒントが得られるかもしれません。インターネットで調べられる政策の事例集として、例えば全国知事会の先進政策バンクや株式会社サイバーエージェントのEBPMデータベースがあります。
今回の「学生政策起業コンテスト」は、私たちにとっても初めての取り組みです。今回のコンテストやその他の活動を通して、学生の皆さんに「政策」「政策起業」といったコンセプトを伝える難しさを私たちも日々痛感しています。
今回のコンテストを通して、政策起業という活動が学生の皆さんにとって少しでも馴染みのあるものになれば、と思っています。
そのためにはもちろん、学生の皆さんのご協力が不可欠です!
学生政策起業コンテストの決勝大会は12月15日(日)に都内で行われます。
現在、決勝大会の観覧者を学生限定で募集中です。
ぜひご友人などをお誘いください!
*1: ここでの政策はいわゆる公共政策 (public policy) のことを指しています。また、厳密に言えば活動を行う主体は政府に限定されず、企業や市民団体が活動の実施を担当することもありますし、政府が活動を「行わないこと」を政策として捉えることも可能です。この記事では政策の厳密な定義を目的とはしておらず、学生政策起業コンテスト応募の際のガイドを意図して書かれたものであることをご了承ください。
*2: このような政策の例として、東京都は一定所得以下の世帯に対する学習塾受講料等の貸付を行っています。