EUの5つの社会的ミッションにおける政策実験と市民参加を促進する欧州委員会と共同の取り組みを通じて、私たちは6つのEU加盟国の4600人を対象とした調査から、市民参加に対する動機や態度についての洞察を得ました。このブログでは、その調査から得られた主要な洞察のいくつかを概説します。
2024年には世界人口の40%以上が投票に向かうため、民主主義の健全性に注目が集まるのは当然です。しかし、今年の選挙がどれほど注目を集めようとも、投票箱だけでは代議制システムへの課題に対抗するには不十分です。実際、気候変動に対処するために必要な私たちの生活と仕事の大幅な変更などの最も重要な選挙の争点の多くは、日常の行動と意思決定に国民を参加させることができるかどうかで決まるでしょう。これがうまく行われれば、必要な変化に対する市民の当事者意識や賛同を高めることができます。これに失敗すると、意見が二極化し、必要な変化について合意を得ることが困難になる可能性があります。
市民参加を増やし、衰退しつつある多くの民主主義に活力を与えることができるような革新的なアプローチが緊急に必要とされています。
欧州委員会は、EUミッションにおいて市民参加を重要な要素としています。EUミッションは18億ユーロのイノベーションプログラムで、5つの「厄介な (wicked) 」問題を対象とし、個人の健康と私たちが住む環境の健康の両方を改善することを目的としています。ヨーロッパ全土で、がんと闘う新しい方法の開発、土壌の健康状態の改善、河川や海の浄化、気候中立な「スマート・シティ」の建設、気候変動への適応などに市民を参加させる最善の方法を探るプロジェクトが行われています。
しかし、人々はどのように参加したいと考えているのでしょうか。なぜ人々は参加したいと考えるのでしょうか。そして、大規模で野心的な参加プログラムを欧州市民の関心、熱意、動機に基づいて確実に設計するにはどうすればよいのでしょうか。
Nesta の集合知デザインセンター (Center for Collective Intelligence Design) とイノベーション成長研究所 (Innovation Growth Lab) は、欧州委員会と協力してこの難しい問いに挑戦しました。私たちは共同で、6つのEU加盟国(フィンランド、フランス、アイルランド、イタリア、ポーランド、ルーマニア)の4600人以上を対象に調査を行い、これらの大きな課題に対する市民主導の解決策を開発する政府のイニシアチブに参加する意欲がどの程度あるかを測定しました。
市民は5つの社会的課題( EU ミッション)への取り組みに自分たちが関与することをどの程度重要だと考えているか
良いニュースは、ヨーロッパ全土の人々が社会的課題の解決により多く関与したいと考えていることです。3人に2人が、5つのEUミッションへの取り組みに市民が関与することはとても重要または極めて重要だと考えています。
悪いニュースは、公的機関への信頼の欠如、認知度の低さ、意思決定へのアクセスの欠如です。これらが人々の参加に対する最大の障壁となっており、市民による問題解決の可能性を最大限に生かすことを妨げています。
我々が最近公開した政策概要では、私たちの調査から得られた主要な洞察と、これがEUミッションのような野心的な政策の形成と実現における市民参加にとって何を意味するかを概説しています。
この概要には詳細な洞察とデータが盛り込まれていますが、4つの大きなテーマが際立っていました。
概して、ヨーロッパ全土の人々はすべての課題に対して高い関心と懸念を持っていました。これらの課題のいずれにも懸念していないと答えた人は10%未満でした。がんに対する懸念が最も高かったものの(52%が非常に懸念していた)、最も懸念が低かった土壌保護の問題でさえ、相当数の人々が問題に関心を持っていました(39%が非常に懸念していました)。しかし、憂慮すべきことに、すべての年齢層の中で、若者が最も懸念を抱いていない傾向にありました。気候変動を例にとると、気候変動への適応に「非常に懸念している」と答えた18歳から24歳は35%にとどまり、65歳以上の51%と比べて低くなっています。
私たちは、どのようにすれば人々が市民参加活動に取り組みやすくなるのかを理解したいと考えました。そのために、6つの仮想的な活動(以下参照)への参加可能性について尋ねました。各シナリオは、特定の参加方法とEUミッションに関連する特定の課題を組み合わせたものです。例えば、あるシナリオでは、自治体が設置した気候変動に関する市民会議への参加に対する人々の関心に焦点を当てました。このシナリオでは、会議の提言を実施するために自治体がどの程度政治的にコミットしているか、といった違いや、金銭的補償の額の違いに言及することが、人々の参加意欲に影響を与えるかどうかを実験しました。
すべてのシナリオにおいて、回答者の過半数が機会があれば参加に関心があると表明しました。しかし、彼らのコミットメントのレベルは、特定の問題に対する懸念の程度だけでなく、活動の種類によっても異なりました。当然のことかもしれませんが、これはさまざまなタイプの人々にとって、それぞれ別々のタイプの取り組みが魅力的であることを示唆しています。例えば、市民会議に参加する可能性が高いと答えた回答者の中には、市民科学プロジェクトに参加する可能性は低いと答えた人もいました。
ある問題がその人にどれだけ直接的な影響を与えるかによって関与の度合いが変化すると思われるかもしれませんが、私たちの調査では、人々は自身よりも他者に利益をもたらすこと、特にコミュニティにポジティブな影響を与え、知識を共有し、政治的決定に発言権を持つことによって動機づけられると答えています。唯一の例外は、新しいスキルを学ぶことが重要な動機づけ要因として挙げられたことでした。
これに加えて注目すべきは、地元レベルでの利益を見出す必要性が重視されていたことです。例えば、自分の住んでいる地域に直接利益をもたらすようなプロジェクトにボランティアとして参加する可能性が「ややある」または「非常にある」と答えたのは全体の60%であったのに対し、ヨーロッパ全体に利益をもたらすようなプロジェクトに参加する可能性が「ややある」または「非常にある」と答えたのは48%でした。
社会的課題に取り組む活動への参加を決定する上で最も重要な要因
参加の最大の障壁は何だと思うかと尋ねたところ、人々は認知度の低さと公的機関への信頼の欠如を最も重要なものとして挙げました。参加への関心の欠如や時間の不足は、ほとんどの場合、最も重要度の低い障壁と見なされました。
良好な参加を実現することは難しく、リソースの確保と、公的機関と市民の間で権力と意思決定を共有するコミットメントが必要です。簡単な解決策はありません。このことを念頭に置いて、私たちの調査は市民参加について考える政府や公的機関にとって多くの洞察を提示しています。
参加の機会を作れば人々はやって来る:おそらく私たちの調査から得られた最大の教訓は、人々は参加に高い関心を抱いているということです。欧州委員会から市の行政に至るまで、公的機関が参加の機会を作れば、人々は参加します。特に地元にメリットが見込める場合はなおさらです。
若者を対象に認知度を高める:若者は市民参加に関心を示しましたが、5つの課題に対する懸念レベルは最も低いものでした。若者の深いコミットメントなしには、気候変動やその他の大きな社会的課題に取り組むことはできません。例えば、市民会議、市民科学、参加型予算などを通じて、若者を中心に市民参加を促すための更なる努力が求められています。
多様な参加方法への投資:市民会議など、最もよく言及される1つか2つの方法にデフォルトで頼りがちですが、私たちの調査では、人々が関心を持つ参加活動の種類や方法(個人かグループか、オンラインかオフラインかなど)が実に多様であることがわかりました。つまり、参加への万能なアプローチはない、ということです。どのようなプログラムでも、大規模で多様な人々の集団にリーチするために、多様な方法を採用する必要があります。
市民会議や参加型予算から市民科学まで、人々の関与を高めるアプローチが必要です。なぜなら、私たちの研究では、ヨーロッパ全土で人々の参加意欲があることがわかったからです。これがうまく行われれば、投票所での投票率を上げ、公的機関への信頼を高めるだけでなく、気候変動のような複雑な課題を理解し解決する能力も高めることができます。社会や私たちの生活様式に必要不可欠な変化について決定を下す際に、市民に当事者意識と主体性を与えることで、EUの最大の課題のいくつかに対してさらに効果的で持続可能な長期的解決策にたどり着くことができるでしょう。
このブログ記事は、"Peter BAECK, Rob FULLER, Christopher EDGAR, Andrea BLASCO, Edoardo TRIMARCHI, James PHIPPS (2023) 「EUミッションに対する市民の認識と市民参加の機会:複数国調査の結果 (Citizens’ awareness of EU missions and opportunities for citizen engagement: Results from a multi country survey) 」欧州委員会、R&I政策シリーズ"で展開された調査結果の要約です。