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今週の PEP Think:グリーン転換の三重苦、経済安全保障の実装

作成者: PEP 事務局|2026/2/20 (金)

海外シンクタンクの議論を日本語で読み解き、日本のビジネスや政策への含意を考えるポッドキャストシリーズ 「PEP Think」。​
今回は、「"グリーン転換の三重苦"が国際秩序の再考を促す」と「経済安全保障の実装へ──国家と市場の新しい境界線」という2つのテーマから、気候・エネルギー政策と経済安全保障の制度設計を考えるエピソードをお届けします。

"グリーン転換の三重苦"が国際秩序の再考を促す

1 本目のエピソードでは、気候適応への投資、EU の気候目標と対中デリスキングのジレンマ、そして気候正義と排出責任という3つの論点から、グリーン転換がもたらす構造的な課題を読み解きます。
脱炭素・エネルギー安全保障・開発金融がどのように絡み合い、日本のビジネスや政策にどのような含意を持つかを整理します。

グローバルサウスの気候適応投資──コストではなく安全保障と成長の投資(Atlantic Council)

Atlantic Council の「Climate adaptation: The investment the Global South cannot afford to delay」をもとに、気候ショックが医療・電力・物流・食料などを止める「安全保障リスク」になっている現状と、それに対する適応投資の重要性を紹介します。

1ドルの適応投資が平均 10 ドル超の便益を生むとされるにもかかわらず、民間気候ファイナンスのうち適応向けは最大でも 5 %程度にとどまり、保険カバー率も約 10 %と低いこと、気候ショックが財政悪化と信用力低下を通じて借入コストを押し上げる悪循環を生んでいることを整理します。そのうえで、都市・システム単位での連鎖的な便益に着目した案件形成、ブレンデッドファイナンスやリスクシェアを通じた民間資金動員、適応を「人道支援」ではなく財政安定・成長・信用コストの観点からの投資と捉え直す意義、日本の ODA や民間金融が果たし得る役割について議論します。

欧州の対中デリスキングとクリーンテック依存──「重力」からどう抜け出すか(ECFR)

ECFR の「Don't look down: How Europeans can escape China's clean-tech gravity」を手がかりに、中国が世界の製造業の 28 %、とくに太陽光パネル・EV バッテリー・風力発電部品などクリーンテック分野で圧倒的な供給力を持つなかで、欧州グリーンディールの「船体」が Made in China になっている現状を取り上げます。

脱炭素を進めるほど中国依存が深まり、依存を減らそうとするとコストと政治的反発が増えるというジレンマ、EU 内部で気候目標・産業競争力・対中観が異なる 4 つの陣営に分かれている構図を紹介し、長期リスクの可視化、レジリエンス・プレミアムのコスト負担を誰が担うのかという透明な議論の必要性を整理します。日本においても、脱炭素と経済安全保障を切り離さずに設計し、クリーンテック供給網の多様化・リサイクル・代替材開発をどう進めるかを考えます。

32社が世界排出の半分──気候正義と企業責任・国際支援(Lowy Institute)

Lowy Institute の「Climate change is a shared problem that needs shared solutions」をもとに、2024 年の世界の CO2 排出の半分がわずか 32 社の化石燃料企業に由来し、その上位 20 社中の 17 社が国有企業であるという分析を紹介します。

責任を「みんなの問題」としてぼかすのではなく、特定の生産者・国有企業に引き寄せることで企業責任・課税・規制・訴訟など具体的な政策ツールに結びつける視点、同時に UNFCCC の「共通だが差異ある責任と各自の能力」の原則に立ち返り、歴史的排出・一人当たり排出・能力の違いを踏まえた負担配分が必要だという議論を整理します。化石燃料企業への責任追及と先進国による気候ファイナンス・技術移転・損失と被害への拠出を「抱き合わせ」で進める必要性、日本がエネルギー安全保障や開発戦略と結びついた国有企業問題をどう捉えるべきかを考えます。

経済安全保障の実装へ──国家と市場の新しい境界線

2 本目のエピソードでは、経済安全保障を実装していくうえで、国家と市場の境界線がどのように引き直されつつあるのかを取り上げます。政府による株式取得、重要鉱物の官民備蓄、そして中堅国としての産業ポジション確保という 3 つの論点を、制度設計とガバナンスの観点から整理します。

政府が戦略企業の株主になる──エクイティ投資のガバナンス設計(CSIS)

CSIS の「Understanding Federal Equity Investments in Strategic Companies」を手がかりに、米国の産業政策が補助金・融資中心から、政府が株式を取得する段階に入っているという論点を扱います。

Intel への投資(約 100 億ドル、持分約 9.9 %)を例に、政府が株主になると生じる配当・経営関与・失敗時の責任の所在、政治化やえこひいきの懸念、規制当局としての役割との利益相反をどう避けるかを整理します。議決権や取締役会の扱い、出口の条件、成功指標の設計、さらに同盟国や第三国からどう見られるかまで、実装上の論点を確認し、日本の半導体・経済安全保障投資への示唆を考えます。

重要鉱物の官民備蓄を保険にする──Project Vault の制度設計と論点(CSIS)

同じく CSIS の「Project Vault: A Pillar of Economic Security」をもとに、重要鉱物の供給途絶リスクを、単なる在庫ではなく保険型の仕組みとして扱う発想を紹介します。

国防備蓄ではなく民生製造業の経済安全保障を想定し、OEM が必要な品目や品位、量を定義し、コミットメントとフィーで費用を分担するという制度設計を整理します。放出条件の透明な基準、在庫回転の制度的組み込み、同盟国への拡張可能性といった特徴に加え、ガバナンス、損失負担、価格や保管費のリスク帰属、60 品目を運用する現場の複雑さ、大手中心になりやすい構造、中小サプライヤーへの波及、モラルハザードの抑制といった実装上の課題を検討します。

中堅国の産業戦略──戦略的不可欠性と選択の制度化(ITIF)

ITIF の「Strategic Indispensability or Strategic Irrelevance」をもとに、中堅国が自給自足でも資源依存でもない形で、同盟国から見て不可欠な地位をどう築くかを扱います。

あらゆる機能を国内で複製する誘惑と資源だけを掘って外に出す道の両方を避け、少数の領域に集中して交渉力をつくるという整理を紹介します。何を作るかだけでなく、何を作らないかを明確な基準で決め、声の大きい分野に資金が流れる事態を避けることの重要性、レアアースなど重要鉱物の中流工程を担うために必要な国家の実装能力(許認可、電力、技能人材、社会的合意など)を確認し、日本にとっても戦略分野の選定を「指定」だけで終わらせず基準とプロセスを制度として組み込めるかが焦点になることを議論します。