海外シンクタンクの議論を日本語で読み解き、日本のビジネスや政策への含意を考えるポッドキャストシリーズ 「PEP Think」。
今回は、「政策実装を左右する政治力と国のオーナーシップ」と「ロボット・デジタル規制・デジタル主権の議論に潜む死角」という2つのテーマから、地政学・気候政策・社会実装、そしてデジタル経済と規制の設計論を考える2本のエピソードをお届けします。
1本目のエピソードでは、2036年の世界像をめぐる専門家調査、脱炭素を動かす政治力の設計、そしてグローバルヘルスの社会実装が続かない理由という3つの論点から、政策が実装され続けるための条件を読み解きます。
制度や技術があるだけでは不十分で、誰が意思決定し、誰が資産を持ち、誰が予算と人員を動かすのかという政治経済の構造が、実装の持続性を左右することを整理します。
Atlantic Council の「Welcome to 2036: What the world could look like in ten years, according to nearly 450 experts」をもとに、72か国447人の地政学・将来予測の専門家への調査結果を紹介します。
63%が世界は今より悪化すると回答するなかで、米中パワーバランス、台湾有事リスク、NATOの将来、ウクライナ戦争の凍結紛争化、AIとAGI、核拡散、気候変動と水リスク、多国間主義の弱体化、ドル体制と暗号資産といった論点が同時に語られます。加えて、専門家の属性や直近ニュースの影響など、調査の読み方そのものに関わるバイアスにも触れながら、リスクが高まる一方で、それを抑える制度の筋力が弱まっているという見取り図を確認します。日本にとっては、複合リスクを前提にしたシナリオ設計と、制度的な抑制装置の弱体化を踏まえたリスク設計が論点になります。
Noema Magazine の「It’s Time to Target the Political Power of Polluters」を手がかりに、気候政策を排出量の技術的管理ではなく、化石燃料資産オーナーとグリーン資産オーナーの政治力という観点から捉え直します。
国際課税やISDSの見直し、産業政策や補助金、保護主義の設計などを通じて、化石燃料側の政治力を制約し、グリーン資産側の政治連合を育てるという提案が語られます。その一方で、政治対立の先鋭化や国際制度との整合性といった副作用も論点になります。日本にとっては、GXを排出削減の技術導入に還元せず、資産と政治連合の形成という観点で、補助金・税制・ルール設計をどう整合させるかが焦点になります。
Stanford Social Innovation Review の「Scale That Lasts: A framework for moving from government partnership to country ownership」をもとに、グローバルヘルスの現場で一度スケールしたデジタル施策が数年後に止まる現象を取り上げます。
政府とのパートナーシップは必要だが十分ではなく、意思決定権、データ統制、予算、人員、業務プロセスの組み替えまで含めた国のオーナーシップがなければ持続しないという主張です。6つのシフトによる段階整理、タンザニアの事例、調達や予算化だけでは所有にならないという指摘、信頼と運用能力の重要性を確認します。日本においても、社会実装を補助金や実証で終わらせず、行政の運用設計と責任移転をどう組み込むかが、政策の持続性を決める論点になります。
2本目のエピソードでは、ロボット導入、デジタル規制の通商化、デジタル主権と生産性の優先順位という3つの論点を、見落とされがちな評価軸や設計要件の観点から整理します。
雇用の数だけでは捉えられないキャリア経路の変化、国内規制が同盟国間の摩擦へ転化するメカニズム、そして主権を供給側の国産化と同一視しない整理を通じて、日本の政策・事業戦略の盲点を点検します。
Brookings の「Robotization and occupational mobility」をもとに、ロボット化の影響を雇用や賃金の変動だけで捉えると見落とされる変化として、より良い職種へ移動する確率、すなわちキャリアの上昇経路が細くなる現象を紹介します。
研究はキャリアバリューという指標を用い、移動確率と賃金を組み合わせた期待生涯獲得の代理指標として分析しています。キャリア価値の低下の3分の2は賃金、3分の1はキャリア経路の劣化によるものとされ、その影響は住宅投資、教育投資、政治行動にまで及ぶ可能性が示されています。日本への含意として、失業率や賃金だけでなく、職業移動やキャリアの隣接性を定点観測する統計設計、離職せずに学べるリスキリング支援、企業内キャリア設計の再検討が論点になります。
ITIF の「Washington Should Draw a Line in the Sand on Korea to Defend U.S. Tech Leadership」を手がかりに、国内規制として正当に見える措置が、特定の外国企業に集中したときに通商カード化する構造を取り上げます。
ITIFが提唱するNon-Tariff Attacksという概念を軸に、国内規制が通商摩擦へ転化し得る実務的ルートと論点を整理します。一方で、差別的意図の立証の困難さ、報復の常態化が同盟国間の規制協力を傷つけるリスク、企業の国籍や位置づけの見え方のずれといった点も検討します。日本にとっては、透明性・比例性・一貫性の実装を通じて規制の正当性を担保しつつ、通商化を前提とした経済安全保障との整合性をどう点検するかが焦点になります。
Research Money の「Productivity, not flag waving, should drive Canada's digital strategy」をもとに、デジタル主権の確保を急ぐ前に、デジタル技術の活用能力を底上げすべきではないかという問題提起を扱います。
国産クラウドやデータの国内保管、半導体の内製化といった供給側の議論が盛り上がる一方で、企業のデジタルツール導入率そのものが課題になっている状況を踏まえ、主権を国内基盤の構築と同一視せず、グローバル市場のベストインクラスの技術を国内企業や機関が統合して生産性を上げる方向で設計すべきだと主張します。エピソードでは、主権をアクセス制御、監査、暗号鍵、法域といった設計要件として捉え直す視点や、需要側の生産性を基盤とした層構造の考え方も議論しました。日本にとっては、主権の議論を供給側施策に偏らせず、需要側の導入能力とガバナンス要件を同時に満たす制度設計が論点になります。