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今週の PEP Think: 「埋め立て2.0」「Productivism とは何か」「地域・交通・観光政策の最新論点整理」

作成者: PEP 事務局|2026/7/24 (金)

海外シンクタンクの議論を日本語で読み解き、日本のビジネスや政策への含意を考えるポッドキャストシリーズ 「PEP Think」
今回は3本のエピソードをお届けします。1本目「埋め立て2.0」では、都市用地・自然環境・安全保障の3つの角度から埋め立てを捉え直します。2本目「Productivism とは何か」では、良い仕事を生む産業政策という構想を整理します。3本目「地域・交通・観光政策の最新論点整理」では、公共サービス網・地域交通・観光の受入能力という3つのテーマをまとめます。

埋め立て2.0 ― 都市用地・自然環境・安全保障から条件を設計し直す

かつて都市拡張のために用いられた埋め立ては、目的や条件を設計し直せば、現在でも現実的な政策手段になり得るのでしょうか。1 本目のエピソードでは、米国で1970年代以降に止まった都市埋め立て、土地開発による価値の上昇分を生物多様性や気候適応に還元する土地開発利益還元、南シナ海で常態化しつつある人工島造成という3本の記事を取り上げます。

埋め立てを一律に解禁するか禁止するかという二者択一ではなく、土地、海、自然、人に生じる便益と負担を測り、どの事業を、どのような条件で認めるのかが問われます。

米国で消えた都市埋め立て ― 環境規制は何を止めたのか(Works in Progress)

Works in Progress の「Why San Francisco isn't bigger」をもとに、米国の主要沿岸都市で1970年代以降に大規模な都市埋め立てがほぼ行われなくなった背景を紹介します。記事は、埋め立てに適した浅い水域や技術が失われたのではなく、NEPA をはじめとする環境法や、長期にわたる審査、訴訟対応、保全措置に伴う費用が主因だと主張します。

エピソードでは、都心近くの土地が住宅供給、雇用、生産性、交通、防災にもたらす便益を確認しました。その一方で、記事が示す因果関係には十分な裏付けがあるのか、近年の制度変更後に事業が実際に増えるのか、生態系、水の流れ、液状化、海面上昇、長期的な維持費をどう評価するのかを議論しています。あわせて、埋め立てを既成市街地の高密度化、工場跡地の再開発、公共交通への投資などと比較し、一律の解禁ではなく、候補地の厳格な選定、期限を定めた審査、土地価値の公共還元を組み合わせる必要性についても論じています。

土地開発利益還元 ― 自然と防災に価値を戻せるか(Lincoln Institute of Land Policy)

Lincoln Institute of Land Policy の「How Land Value Capture Can Support Biodiversity, Disaster Recovery, and Climate Adaptation」をもとに、公共投資や用途変更などによって生じた土地価値の上昇分を、生物多様性、災害復興、気候適応に活用する政策手法を紹介します。イングランドの生物多様性ネットゲイン制度では、新たな開発に対して、生物多様性の指標を開発前より10%以上高めることが求められています。

エピソードでは、この義務が手頃な価格の住宅などへの投資を圧迫するのか、それとも緑地や生物多様性が開発価値を高め、新たな公共貢献を可能にするのかを議論しました。制度上の数値が実際の自然の回復を表しているのかという点については、指標が植物の多様性は高める一方で鳥類や蝶には及んでいないとする研究や、面積と状態にもとづく指標が無脊椎動物の多様性の代理指標として不十分だとする研究も取り上げています。あわせて、最終的な費用を土地所有者、開発事業者、住宅購入者の誰が負担するのか、地価が上昇しない地域の防災や生物多様性をどう支えるのかを考えました。土地価値を生み、守り、回収する仕組みや、開発権を危険な地域から安全な地域へ移す制度という視点から、自然と防災への資金循環を検討しています。

南シナ海の人工島競争 ― 法と実力の距離(Lowy Institute)

Lowy Institute の「South China Sea: If you can't beat them, build islands」をもとに、中国だけでなくベトナム、マレーシア、台湾も進める南シナ海での埋め立てと拠点整備を紹介します。人工島を造成しても、国連海洋法条約上、新たな領土や領海は生じません。しかし、港湾や滑走路を整備すれば、監視、補給、法執行などの能力を高め、現地の軍事・政治状況を変えることができます。

エピソードでは、2016年の比中仲裁判断が法的な重みを持ちながら、現地の既成事実を十分に変えられなかったことを取り上げました。さらに、南シナ海行動規範をめぐる交渉が造成を急ぐ誘因になり得ることや、防御目的の施設が相手には脅威と映る安全保障のジレンマについて議論しています。造成面積だけでなく、施設の運用能力、部隊や装備の配備、危険な接近、環境損失まで確認する必要があること、そしてルールを守る方が有利になる仕組みをどうつくるかを考えました。

Productivism とは何か ― 良い仕事を生む産業政策

Productivism は、GDPや投資額の拡大だけを目標にするのではなく、人々が中間層として生活できる「良い仕事」を広げるために、何を、どのように生産するかを政策の対象に据える考え方です。ダニ・ロドリックが提唱したこの構想は、税と社会保障による事後的な再分配だけでなく、企業の技術選択、訓練投資、職務設計、地域への投資が、賃金、技能、自立性、地域社会に与える影響を重視します。

2 本目のエピソードでは、「良い仕事の外部性」を理論的な中心として、新自由主義やケインズ主義的福祉国家との違いを整理します。製造業がかつてほど大量の雇用を生まないなか、介護、物流、飲食、地域交通などのサービス業を良い仕事の主戦場として捉え直し、省力化投資、職務の再設計、適正な価格転嫁や公共調達を組み合わせる政策を検討します。AIについても、人を置き換える使い方と、働き手の能力を補完する使い方を区別します。

さらに、供給拡大を重視するアバンダンス論との共通点と違い、国家能力と市場競争という実施条件、保護主義、レントシーキング、政策評価の難しさを扱います。日本については、人口減少と人手不足、サービス雇用の大きさを踏まえ、既存の仕事の質を高める政策思想としてどこまで適用できるかを考えます。

地域・交通・観光政策の最新論点整理 ― 公共サービス網・アクセシビリティ・観光の受入能力

3 本目のエピソードでは、直近三カ月の海外シンクタンク・政策研究機関の論考を手がかりに、地域政策、交通政策、観光政策をめぐる三つのテーマを横断的に整理します。人口減少下の公共サービス網、地域交通のアクセシビリティ、観光の受入能力と便益配分という3つのテーマを取り上げます。

テーマ1:人口減少下の公共サービス網

人口が減少しても、公共サービスへの需要が一様に小さくなるわけではありません。子どもの減少によって学校などへの需要が弱まる一方、高齢化によって医療や介護、生活支援への需要は強まります。The Pew Charitable Trusts の「The Aging Population Is Changing States' Revenue, Spending, and Service Demand Outlook」、OECD の「Unlocking the Potential of Intermediary Cities for Regional Development」、Brookings Institution の「The Postal Service's Financial Condition Is a Business-Model Problem」を取り上げます。

エピソードでは、分野ごとに作られている将来推計を予算、人員、施設再編の判断へどう結びつけるかを整理しています。あわせて、中心都市と周辺自治体の間でサービスの提供、費用負担、意思決定をどう分担するか、採算だけでは維持できないサービスについて公共的な義務の範囲と費用をどう明らかにするかについても論じています。

テーマ2:地域交通のアクセシビリティ

路線数、運行本数、利用者数、収支は、交通サービスを評価するうえで重要です。しかし住民にとっては、交通手段が存在することに加えて、通院、通学、買物などの用事を実際に済ませられることが必要です。International Transport Forum(ITF)の「Vision-Led Transport Planning: A Guide for Policy Makers」、ITF の「Delivering Accessibility that Works」、Öko-Institut の「Access Denied: Transport Poverty in Europe」、OECD の「Geographic Disparities in Service Accessibility in Estonia and the Netherlands」を取り上げます。

エピソードでは、将来像を起点とする交通計画、出発から帰宅までの全行程、交通貧困が特定の住民に集中する問題、目的地となる施設の受入能力を整理しています。そのうえで、交通の供給量と生活上の成果をどのように組み合わせて評価するかを論じています。

テーマ3:観光の受入能力と便益配分

観光客と観光消費の増加は、地域経済に需要と雇用を生みます。その一方で、旅行者向け短期賃貸への住宅転用、家賃の上昇、交通やごみ処理などへの負荷、自治体支出の増加が生じる場合があります。Australian Housing and Urban Research Institute(AHURI)の「Designing Regulation Fit for the Short-Term Rental Sector」、New Economics Foundation(NEF)の「The Economics of Air Transport in Europe, Part Two: Air Transport and Tourism」、European Parliamentary Research Service(EPRS)の「Developing a Coordinated EU Approach to Housing」を取り上げます。

観光によって生まれた所得が地域内にどこまで残っているか、住宅所有者、借主、働き手、企業の間で便益と負担がどう分かれているかは、観光消費の総額だけでは分かりません。エピソードでは、地域の住宅事情に応じた短期賃貸の管理、観光負荷の測定、仲介サイトから行政へのデータ提供を通じた執行基盤について整理したうえで、日本への示唆についても議論しています。