海外シンクタンクの議論を日本語で読み解き、日本のビジネスや政策への含意を考えるポッドキャストシリーズ 「PEP Think」。
今回は3本のエピソードをお届けします。1本目「依存したまま余白を持つ技術」では、ホルムズ海峡危機を手がかりに供給途絶への備えを考えます。2本目「事前分配とは何か」では、税引き前所得を形づくる制度の設計を整理します。3本目「安全保障・防衛政策の最新論点整理」では、装備移転・ドローン供給網・指揮統制の3つのテーマをまとめます。
石油や海上輸送への依存をすぐに解消できないなかで、危機が経済や外交の選択肢を奪うまでの時間を、どのように延ばせるのでしょうか。1 本目のエピソードでは、ホルムズ海峡をめぐる危機を手がかりに、供給途絶の影響を和らげる備蓄、精製、需要調整、代替供給の役割を取り上げます。
三本を通じて問われるのは、備蓄量を増やすことだけで十分なのかという点です。必要な燃料を確保し、製油所で処理し、需要を調整し、代替航路を使い続けるための制度と能力を、どのように組み合わせるのかを議論します。
Atlantic Council の「Five lessons from the oil market shock」をもとに、ホルムズ危機が始まってから最初の約4か月に、世界市場の全面的な混乱が避けられた理由を紹介します。記事は、備蓄の放出、製油所の稼働調整、中国による需要と輸入の調整、米国を含む非中東地域からの供給が、不足を和らげたと指摘します。
その一方で、原油や石油製品の供給途絶による負担は、欧米よりもアジアに強く表れました。エピソードでは、市場が本当に強くなったのか、それとも在庫の減少、需要抑制、配給、製油所の停止という形で痛みを移したのかを議論しました。さらに、取り崩した備蓄を再建できるか、異なる原油を処理できるか、石油製品を地域内で融通できるかという課題についても論じています。
RUSI の「China Has Not Escaped the Middle East. It Has Learned to Live with the Risk」をもとに、石油の7割超を輸入し、その約半分が中東とホルムズ海峡に関係する中国が、なぜ大幅な需要調整を行えたのかを紹介します。記事は、中国が調達先の分散、石油在庫、製油所の運用、製品輸出の抑制、電動化を組み合わせ、中東依存を直ちに外交上の拘束へ変えないための時間、柔軟性、交渉余地を確保してきたと論じます。
ただし、長期的な供給途絶に耐えられるとは限らず、西側諸国との協力にも限界があると指摘されています。エピソードでは、中国の危機対応が石油化学産業や他のアジア諸国へ負担を移す可能性を確認し、日本でも備蓄日数だけでなく、製品構成、需要削減、産業の優先順位、電化を一体として考える必要性を議論しました。
Foreign Affairs の「Hormuz Is a Warning for the Indo-Pacific」をもとに、比較的安価なミサイル、ドローン、無人艇、機雷などによって、国力で劣る側でも重要海峡の通航を妨害し、大きな費用を負わせられるようになったという問題を紹介します。記事は、海峡を完全に閉鎖しなくても、威嚇だけで保険料を上げ、船舶を迂回させ、市場を不安定にできると指摘します。
その影響は、マラッカ海峡、台湾海峡、ルソン海峡に加え、スンダ海峡やロンボク海峡などの代替航路にも及ぶ可能性があります。エピソードでは、代替航路が存在することと、同じ量を実際に輸送できることは異なるという点を確認しました。そのうえで、海洋状況把握、通航維持のための協力、港湾や補給能力の整備、複数の海峡が同時に制約される場合の検証について議論しています。
所得格差は、税や給付による再分配だけでなく、賃金や雇用条件が決まる前の制度によっても形づくられます。事前分配(Predistribution)は、労働法、競争政策、教育制度、企業統治、取引関係、アルゴリズムなど、税引き前所得を生み出すルールに働きかける考え方です。社会保障の財政負担が増える日本において、再分配を維持しながら、市場内の交渉力や選択肢をどう整えるかが問われています。
2 本目のエピソードでは、OECD の生産前、生産段階、生産後という分類や、ジェイコブ・ハッカー、ジョン・ロールズ、マーティン・オニールらの議論を手がかりに、事前分配と再分配の関係を整理します。米国、EU、英国の制度を比較し、日本の価格転嫁、人への投資、公定価格部門の賃金形成を検討します。
さらに、AIとギグワークをめぐるアルゴリズム管理、労働者の参加、職務設計、データや資産の所有を取り上げ、誰の交渉力をどの段階で高めるのかを考えます。
3 本目のエピソードでは、直近三カ月の海外シンクタンク・政策研究機関の論考を手がかりに、安全保障・防衛政策をめぐる三つのテーマを整理します。防衛産業と装備移転、ドローンと防衛供給網、北東アジアの指揮統制という3つのテーマを取り上げます。
日本では2026年4月、防衛装備移転三原則とその運用指針が改正され、殺傷能力のある完成品についても、案件ごとの審査を前提に移転を認める制度となりました。Foreign Affairs の「The Return of Japanese Hard Power: Why Tokyo Is Bulking Up Its Defense Industrial Base」、Australian Institute of International Affairs(AIIA)の「Washington Wants an Arms Race. Southeast Asia Isn't Buying.」、CSIS の「Japan's New Defense Export Policy: Will Industry Seize the Day?」、Hudson Institute の「Sustaining the Fight: Munitions Acquisition, Industrial Capacity, and Integrated Air and Missile Defense for Japan」、Bruegel の「Who Controls the Defence Industry?」を取り上げます。
エピソードでは、殺傷能力のある完成品を輸出すること自体をどう考えるか、装備移転によって何を達成し、地域の軍備動向や移転後の使用に伴うリスクをどう評価するかを整理しています。あわせて、輸出の拡大が国内の防衛生産基盤の強化につながっているかを何によって判断し、公的支援を受ける企業と政府にどのような責任を求めるかについても論じています。
ドローンの実効性は、一機ごとの性能や保有数だけでは決まりません。電池、半導体、モーター、センサー、通信機器、ソフトウェアを確保し、損耗した機体を補充し、敵の妨害方法に応じて短期間で改修する必要があります。Atlantic Council の「The US Needs a Comprehensive Batteries Strategy to Ensure Its Battlefield Edge」、Center for European Policy Analysis(CEPA)の「Reality Check: Breaking Free From China's Drone Ecosystem Is Harder Than You Think」、RUSI の「Winning Without Technological Advantage」、Foreign Affairs の「How to Win the Defense Innovation Contest: America and Its Allies Must Pool Their Efforts」を取り上げます。
エピソードでは、電池が作戦上の選択肢をどう左右するか、中国由来の部品への依存をどのように減らすか、代替部品の試験と認証をどう進めるかを整理しています。さらに、民間企業の技術や生産能力を防衛に利用する際の役割分担と、同盟国との開発、生産、認証、改修の関係についても論じています。
日本では自衛隊の統合作戦司令部が発足し、米国側でも在日米軍の指揮機能の強化が進められています。台湾海峡や朝鮮半島などで複数の事態が同時または連続して発生すれば、航空機、迎撃ミサイル、情報収集手段、輸送能力などが複数の任務から求められます。Atlantic Council の「The Case for a US Northeast Asia Command」、38 North/Stimson Center の「How South Korea Might Fight a North Korean Invasion in a Dual-Contingency Scenario」、Korea Economic Institute of America(KEI)の「The Path Forward for Alliance Modernization and Redesigning the U.S.-South Korea Alliance」、KEI の「The Trump Effect on South Korea-Japan Relations」を取り上げます。
エピソードでは、各国の司令部が情報と計画をどう共有し、優先順位をどのような手続で調整するかを整理しています。そのうえで、軍事組織が作成する選択肢を各国政府の政治判断へどうつなぎ、迅速な共同運用と主権、文民統制をどう両立させるかについても論じています。