PEP 最新情報 | PEP

今週の PEP Think: 「AI 主権を決める『依存』の選択」「Affordability Agenda とは何か」

作成者: PEP 事務局|2026/8/27 (木)

海外シンクタンクの議論を日本語で読み解き、日本のビジネスや政策への含意を考えるポッドキャストシリーズ 「PEP Think」
今回は2本のエピソードをお届けします。1本目「AI 主権を決める『依存』の選択」では、計算資源やデータセンター、モデルの依存をどう設計するかを考えます。2本目「Affordability Agenda とは何か」では、生活費の負担を政策の中心に置く米国の議論を整理します。

AI 主権を決める「依存」の選択 ― 中堅国の戦略・データセンター立地・オープンウェイトモデル

AIを国内で利用できることと、そのAIを自国や自組織の判断で継続して運用できることは、必ずしも同じではありません。計算資源、データセンター、モデルを外国企業や他国に依存する場合、設備やデータを誰が管理するのか、どの国の法制度が適用されるのか、供給条件が変わったときに代替手段へ移行できるのかといった問題が生じます。

1 本目のエピソードでは、こうした「依存の選択」という観点からAI主権を考えます。3本の記事を通じて、AI主権を、計算資源やデータセンターをどれだけ自国内に保有しているかという量的な指標だけで捉えるのではなく、重要な機能を継続できるか、供給者を変更できるか、データやモデルを管理できるかという観点から整理します。

AI主権と中堅国 ― 何を国内で確保し、何を共同化するか(Chatham House)

Chatham House の「What the UK government should do on AI and tech policy」をもとに、英国の AI 戦略のあり方を紹介します。米国や中国と同じ規模ですべての AI 能力を整えるのではなく、重要な計算資源、データ、研究能力、産業基盤などを選んで国内に確保し、他国との連携を組み合わせるという考え方です。記事は、産業政策、公共サービス、国際協力にまたがる提案を示しています。

エピソードでは、技術主権を、自国内にどれだけ保有しているかという量的な指標として捉えるのではなく、重要な業務を継続できるか、外国サービスから移行できるか、供給条件を交渉できるかという観点から考えました。また、国内の計算資源が実際の代替手段や交渉力につながる条件に加え、公共データの利用、行政内部の実装能力、供給者を変更できる技術仕様や契約、公共の信頼についても議論しています。

海外データセンター ― 機能と法域をどう見るか(Brookings Institution)

Brookings Institution の「The national security implications of building frontier AI data centers overseas」をもとに、フロンティアAIのデータセンターを海外に置く際の国家安全保障上のリスクを紹介します。記事は、海外立地を一律に否定するのではなく、どのような資産や計算処理を、どの法域に、どのような条件で置くのかを評価する必要性を示しています。

エピソードでは、データセンターを、土地・電力・通信などのインフラ、半導体やサーバー、モデルの重みやデータ、運用権限、実際の計算処理といった複数の要素に分けて考えました。さらに、機密性、完全性、可用性、受入国の法的権限、施設を失った場合の再構成時間、代替能力の有無を確認する必要性について議論しています。海外への分散がレジリエンスを高める場合も含め、所在地だけで危険度を判断しないという視点を検討しました。

オープンウェイトモデル ― 所有と信頼をどう考えるか(Atlantic Council)

Atlantic Council の「The best AI you can own is Chinese. The West needs to close that gap quickly.」をもとに、企業や政府が自らの設備で運用できるオープンウェイトモデルと、中国企業による有力モデルの公開を紹介します。記事は、西側でも高性能なオープンウェイトモデルの選択肢を増やすとともに、モデルの由来や変更履歴を開示し、機密性の高い用途では独立評価を行うことなどを提案しています。

エピソードでは、モデルを自社で運用することでデータやバージョンを管理しやすくなる一方、脆弱性への対応や更新、復旧などの責任も利用組織側へ移ることを議論しました。また、オープンウェイトであっても学習過程全体を監査できるとは限らないことや、モデル名だけでなくバージョン、用途、由来、変更履歴、評価結果を確認する必要性、政府調達や企業のAI管理における判断基準についても考えました。

Affordability Agenda とは何か ― 「手の届く生活」をどう測るか

 米国では、インフレ率の上昇は鈍化しました。しかし、家賃、食料、保育、医療、保険などの負担は高止まりしています。賃金が追いつかなければ、生活の苦しさは残ります。こうした状況を背景に、生活に必要なものを実際に支払えるか、手に入れられるかを政策の中心に置く「アフォーダビリティ・アジェンダ(Affordability Agenda)」が、2026年の米国政治で重要な言葉になっています。民主党の中道派と進歩派、共和党はいずれも生活費の問題を掲げていますが、その原因の捉え方と政策手段は大きく異なります。

2 本目のエピソードでは、アフォーダビリティをめぐる考え方を六つの潮流から整理します。供給を重視するアバンダンス、政策を実行する国家能力、企業権力に注目する反独占、価格と所得の双方を見る経済的安定、規制や関税を問題視する自由市場主義、家族や労働者の生活基盤を重視する保守ポピュリズムです。さらに、CPI では捉えにくい地域・世帯ごとの生活費や生活賃金、Cost-of-Thriving Index をめぐる論争を通じて、「生活できる」とは何を意味し、それをどう測るのかを検討します。

後半では、直接補助、供給拡大、競争政策・価格統制を比較し、それぞれの利点と限界を整理します。加えて、住宅価格だけでは把握できない金利と毎月の支払額の関係、AIを利用した監視型価格設定や RealPage をめぐる問題を取り上げます。最後に、日本の物価高対策、賃上げ、エネルギー補助、子育て支援などを踏まえ、家計の余力と必需サービスへのアクセスをどう捉えるか、地域や世帯によって異なる生活費をどう測るか、そして「暮らしを守る」ときにどのような生活を標準とするかを考えます。