海外シンクタンクの議論を日本語で読み解き、日本のビジネスや政策への含意を考えるポッドキャストシリーズ 「PEP Think」。
今回は2本のエピソードをお届けします。1本目「公的選択肢とは何か」では、生活必需財の市場に政府が関与する考え方を整理します。2本目「ケアを誰が担い、どう支えるのか」では、保育・介護・休業をめぐる支え方を考えます。
食料品や医療、エネルギーのように生活に欠かせない財やサービスは、価格が上がっても簡単に利用をやめられません。さらに、人口が少ない地域では、事業者が撤退し、近くで利用できなくなることもあります。公的選択肢(Public Options)は、民間サービスと並んで政府が責任を持つ選択肢を用意し、市場の供給側に関与することで、価格、品質、アクセス、供給の安定について基準点をつくろうとする考え方です。
1 本目のエピソードでは、規制や補助金と公的選択肢の違いを整理したうえで、この発想が米国の医療保険をめぐる議論からどのように広がってきたのかをたどります。また、アクセス、公的価値、アカウンタビリティという設計上の観点を確認し、公的な供給が利用者の選択肢を増やす可能性と、競争条件の違いや民間事業者の撤退を招く可能性の双方を検討します。医療保険については、保険料を抑えるための医療機関への支払い率と、供給者の参加、補助金、品質との関係も取り上げます。
後半では、米国各州の医療保険、カリフォルニア州の CalRx、市営食料品店、デジタル公共インフラ(DPI)などの事例を扱います。日本については、国民皆保険と公立病院、郵便貯金、公金受取口座登録制度などを、公的選択肢との違いや共通点から整理します。人口減少が進む地域では、「高くて買えない」という問題に加えて、「近くに供給者がいない」という問題が重要になります。自治体が直接運営する場合だけでなく、最後の提供者や共同調達者としてどのような機能を担うのか、必要なサービスを継続できる条件をどう整えるのかを考えます。
子育てや介護では、家族自身がケアを担う場合もあれば、保育や介護の専門職に委ねる場合もあります。サービスを利用しやすくするには、家計の負担を軽減するだけでなく、施設や人材を確保することも必要です。さらに、家族が仕事を休んでケアを担う場合には、その間の所得をどう支えるかという課題も生じます。
2 本目のエピソードでは、こうしたケアを支える仕組みを3本の記事から考えます。3本を通じて、利用できるケアサービス、その担い手、家族がケアに充てる時間と所得保障が、どのように関わり合っているのかを整理します。
C.D. Howe Institute の「Canada's Childcare Plan: Affordable, but Still Out of Reach」をもとに、カナダで保育料を引き下げた後も残る供給不足を紹介します。記事は、施設や人材の供給拡大に加え、所得に応じた料金や、対象外の保育にも利用できる給付付き税額控除を提案しています。
エピソードでは、料金の引下げだけでなく、情報提供や申請支援、支援を受け取る時期、場所や時間帯に応じた保育供給まで含めて議論しました。ドイツで約600世帯を対象に行われた実験や、カナダ・ケベック州の前払いの仕組み、日本の保育所の利用状況や「こども誰でも通園制度」にも触れながら、保育を利用したい家庭がどの段階で利用に進めなくなるのか、何を政策の成果として測るのかを考えました。
The Health Foundation の「As Burnham focuses on the social care workforce, what are the public's priorities?」をもとに、英国の介護人材政策を紹介します。記事では、技能や経験に応じて賃金が上がる共通の賃金体系が世論調査で最も多く選ばれ、賃金や労働条件、訓練、国際採用を長期的な人材戦略として考える必要性が示されています。
エピソードでは、採用人数だけでなく、経験を積んだ職員が働き続け、次の職員を育てられる状態をどうつくるかを議論しました。英国の賃金や定着に関する研究、公正賃金協定と自治体から事業者への資金の流れ、日本の介護職員等処遇改善加算、外国人介護人材の資格取得や在留資格にも触れながら、公的な支援を賃金、学習機会、キャリア形成にどう結びつけるかを考えました。
Niskanen Center の「D.C.'s Paid Family Leave cuts take the 'trust' out of 'trust fund'」をもとに、ワシントンD.C. で、有給家族・医療休暇の給付を削減する一方、給与税率を維持し、余剰資金を一般財源へ移す政策を紹介します。記事は、給付のために集めた負担と給付の関係が損なわれることを問題視しています。
エピソードでは、制度の収支と政府全体の財政を分けて捉え、余剰と判断する前に、将来どの程度の利用を見込むのか、必要なのに制度を利用できていない人がいないかを確認する必要性を議論しました。日本の育児休業給付の財政運営、給付と雇用保護の違い、介護休業後の就業継続にも触れながら、公的支出が減ったとき、その分のケアに必要な時間や費用を最終的に誰が担うのかを考えました。