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SCI-Japanウェビナー「今なぜ『政策起業家』が注目されるのか」 登壇報告|政策起業家プラットフォーム PEP

作成者: 政策起業家プラットフォーム PEP|2022/3/30 (水)
 
 

2022年2月17日、一般社団法人スマートシティ・インスティテュート(SCI)が主催したウェビナー「今なぜ『政策起業家』が注目されるのか」に、PEPプログラム・ディレクターの 向山淳が登壇しましたのでご報告します。

本ウェビナーはSCIの南雲武彦氏(SCI専務理事/三菱UFJリサーチ&コンサルティング専務執行役員)をホストとして、毎週スマートシティに関わる様々なテーマについて対談形式で配信されています。今回のウェビナーでは、今なぜ「政策起業家」が必要とされているのかに加え、PEP(政策起業家プラットフォーム)で行っている取り組み、スマートシティと政策起業の繋がりについて紹介・議論を行いました。

本ウェビナーより内容の一部をお届けします。

登壇者:(敬称略)
南雲 岳彦(スマートシティ・インスティテュート 専務理事/三菱UFJリサーチ&コンサルティング専務執行役員)
向山 淳(一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ (API) 主任研究員)
 

「政策起業家(Policy Entrepreneur)」とは

2022年は政策起業家元年。今後、「政策起業家」は目指されるようになる。

そう述べるPEPプログラム・ディレクターの向山。ウェビナーは、「政策起業とは何か」「政策起業家とは誰なのか」についての説明から始まりました。

「政策起業家」という言葉のルーツは遡ること1980年代、ジョン・キングダンの『アジェンダ・選択肢・公共政策』にあります。そのうえでPEPでは、約半年をかけて改めて「政策起業家」を以下のように定義しました。


1. 社会課題等の解決手段となる特定政策を実現するために、情熱・時間・資金・人脈、そして革新的なアイデアと専門性といった資源を注ぎ込み
2. 多様な利害関心層の議論を主宰し、その力や利害を糾合することで
3. 当該政策の実現に対し影響力を与える意思を持つ個人(または集団)。

また、「学術的な定義だけでなく、あえて価値づけることで政策起業家として活動する人々を支援し、コミュニティとして育てていきたい」という思いから、PEPでは政策起業家に求められる特徴として①公共に対する情熱②アジェンダ・セッティング力③政策イマジネーションを挙げています。

すなわち「政策起業家」とは、社会課題に対して、起業家のように自身の持つリソースをつぎ込み、課題解決のための政策を実現する人々のことを指しています。

政策起業家には職種や立場は関係ありません。分野やレイヤーも関係ありません。『政策という手段を通じて社会課題を解決に繋げること』こそが政策起業です

向山はそう語り、PEPの運営コア・メンバーを含む、政策起業家として活躍されている以下の5名を挙げ、政策実現への様々なアプローチ例を挙げました。

駒崎弘樹氏(認定NPO法人フローレンス代表理事)
小林りん氏(ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン」代表理事)
木川眞氏(ヤマトホールディングス特別顧問)
市倉加寿代氏(認定NPO法人フローレンス/多胎育児のサポートを考える会代表)
南雲岳彦氏(スマートシティ・インスティテュート 専務理事/三菱UFJリサーチ&コンサルティング専務執行役員)

駒崎氏、市倉氏の取り組みについての詳細はこちらの対談イベント報告記事に記載されていますので、是非ご覧ください。
また、駒崎氏、小林氏、木川氏を含むPEPコア・メンバーの方々の取り組みについては、HUFFPOST記事で紹介していますので、是非ご覧ください。

向山は、本ウェビナーのホストを務める南雲氏も、「まさに政策起業家」であると述べます。

南雲氏は:
●「スマートシティ」という国・自治体・民間様々なプレイヤーが関わる取り組みにおいて、横を繋ぐ業界団体としてSCIを設立
●SCIとして自治体のスマートシティに取り組む上での立ち位置や課題などアンケート等を通じて可視化、共有
●学術界と協力しながら「リバブル(暮らしやすさ)ウェルビーイングシティ指標」を設計、それを政府の「デジタル田園都市国家構想」でスマートシティのKPIとして採用されることで、全国へ広げる

このような取り組みは、まさに「政策起業」ではないでしょうか。

なぜ「政策起業家」が必要なのか?

人口減少や高齢化社会の到来などの国内環境に加え、新型コロナウィルスの感染拡大、ロシア軍によるウクライナへの侵略を始めとする国際環境の変化が複雑化する中で、なぜ今「政策起業家」が注目されるのでしょうか。

日本では「霞が関が最大のシンクタンクであり、政策は官僚が作るもの」という見られ方が長年ありました。それは、戦後の55年体制によって強固な政官財の「鉄の三角形」を前提とした考えです。

しかし、日本を取り巻く環境は日々変化しています。テクノロジーの変化や成熟した経済と市民のニーズの多様化、官邸主導や官僚機構の疲弊、利益配分・利益誘導の中心「団体」の変化……。かつてのモデルでは成り立たなくなっています。

このような状況を改善するために注目されるのが、多角的な視点を持ち、外側から働きかけることのできる「政策起業家」です。

今の日本の政策作りの重要な鍵が『政策起業力』『政策起業家』なのではないかと考えています

SCIが取り組む「スマートシティ」においても、国・自治体・民間企業・大学を繋ぐような、政策起業家が実際に重要な役割を果たしているケースがあると向山は指摘します。

誰でも政策起業家になれるのか

後段の質疑応答セッションにおいて、「誰でも、自分でも、政策起業家になれるのだろうか」という疑問に対して、向山はこのように答えます。

誰しもが政策起業家になれる、なっていく"必要がある"と考えています

より過ごしやすい社会の構築には、行政による変革を待つのではなく、身近な問題からアクションを起こし、誰しもが政策起業することが求められる、というわけです。

例えば、向山自身の米国留学生時代の原体験を紹介しました。大学におむつ台や子育て学生への配慮がされている設備・授業形態が実現している背景には当事者達の学生団体(student advocacy group)による働きかけがあった、というものです。自らが行動して変化を獲得していくことの重要性を体感したと振り返りました。

課題解決をしていくことに年齢は関係なく、昨今では大学生など若手の政策起業家たちも出現しています。PEPでは、今後の公共の未来を担う若者に注目した取り組みとして、公共に興味を持つ大学生・大学院生のコミュニティ PEP Youth Communityを立ち上げました。

その他にも、以下のような様々な内容についてディスカッションが繰り広げられました。是非、詳細は動画をご覧ください。

・なぜ日本は、問題を自分の手で解決するという自己決定に対してためらいがあるのか
・日本の大学や大学院において、実践的なノウハウの集積がなされているのか
・なぜ官民産の連携が進まないのか
・政策提言において、利害関係の調整はどのように行うのか
・人々の共感を「デザイン」すること
・政策提言におけるメディアの活用
・政策提言費用の調達方法
・日本と海外のシンクタンクの役割の比較

※SCIのYoutubeチャンネルより掲載

私たち一人一人の手で、社会課題の解決を一歩前に進めることができる手段が「政策起業」です。「政策起業家」が、質の高い政策を推し進め、より良い未来を創っていく。そんなビジョンを描いて、PEPでは、政策起業家が協力し合い活動しやすい環境をつくり、柔軟かつ迅速に解決策を導き出す仕組み作りを目指しています。


執筆:浅見凜(アジア・パシフィック・イニシアティブ PEPインターン)
編集:向山淳(アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員 / PEPプログラムディレクター)