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PEPゼミの振り返り <インターンによるPEPゼミ第1期のまとめ>

作成者: PEPPEP|2022/2/3 (木)

PEPゼミの振り返り
<インターンによるPEPゼミ第1期のまとめ>

コアメンバーを中心に、政策起業事例の紹介と議論を行ってきた「PEPゼミ」。本ゼミでは議論の内容をハフポスト日本版で記事化・公開しており、2020年12月に初回記事を公開して以来、1年の間に8回分の記事を公開しました。

この試みを始めた背景には、日本の「政策起業家」の層はまだ厚いとは言えず、ノウハウも可視化・蓄積されていないという課題がありました。「政策起業とは」という定義の話し合いから始まったPEPの取り組みですが、政策起業家が日本で可視化されていないが故に、その中で挙げた要素は仮説的でした。実際にPEPゼミでコアメンバーが取り組んできた政策起業をケース・スタディで見ていく中で、仮説検証がなされ、政策起業には何が必要なのか、という点が明らかになってきたと感じます。

本論考はその一つの集大成として、インターンの視点から政策起業に必要な要素を整理していきます。

※本記事はPEPプロジェクトのインターンによる振り返り記事です。必ずしも財団・PEPプロジェクトによる公式の、統一見解ではありませんので、ご了承ください。

はじめに―全てのケーススタディに共通する要素とは

PEPゼミでは、これまで9名のコアメンバーが登壇しました。皆さんの政策起業内容を概観してみると、

第1回 駒崎弘樹さん(認定NPO法人フローレンス) 「こども宅食が政策になるまで
第2回 塩崎彰久さん(長島・大野・常松法律事務所)「福島原発事故・新型コロナ感染症対策における民間からの検証
第3回 藤沢烈さん(一般社団法人RCF)「復興政策のこれまでとこれから
第4回 須賀千鶴さん(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター)「グローバルアジェンダ形成と政策起業
第5回 小林りんさん(UWC ISAK ジャパン)「教育と政策起業
第6回 木川眞さん(ヤマトホールディングス)「物流の標準化と政策起業
第7回 松尾豊さん(東京大学)「AIのエコシステムを大学研究室から
第8回 朝比奈一郎さん(青山社中)「リーダーシップと政策起業
第9回 宮澤弦さん(ヤフー)「企業活動を通じた政策起業
※所属組織はいずれもゼミ当時。

と非常に多岐にわたります。コミュニティ支援に取り組む一般社団法人のトップと、プロボノも含めた政策検証に取り組む弁護士、大学教授、企業の幹部、と肩書だけ並べると、政策起業家であること以外は何の繋がりもないように見えるほどです。しかし、これほど多種多様な分野・環境にいるコアメンバーの皆さんが行っている政策起業には、幾つかの共通点がありました。

今回はそうした共通点を、PEPが政策を起業する上で欠かせない要素として挙げていた、(1) 公益に対する情熱と志、(2) 政策イマジネーション、(3) アジェンダ・セッティング力、の三つから探っていきます。

(1)公益に対する情熱と志

最初に紹介するのは、公益に対する情熱と志です。

例えば、業界での標準化に向けた取組を進めるヤマトの事例を見ていくと、企業人でありながら業界全体を通した「全体最適」や「オープンイノベーション」を重視しており、本来ライバルである同業他社とも手を取りつつ社会の前進に向けて活動しています。

また、弁護士時代に塩崎さんが行ったコロナ禍の政策検証も、公益に根差した取り組みとなっています。コロナ禍の第一波で政権が取ってきた政策を振り返り、第二波以降に生かせる教訓を引き出す。自分のためではなく、国の政策をより良いものにするために取り組む、塩崎さんの公共心からの活動だったと言えるでしょう。

自らの目標や利益を追求するためには、自分のいるフィールドを変革する必要が出てくる。そしてその変革がフィールド全体、ひいては社会全体への公益につながる。「公のため」というのは、決して滅私奉公や完全な利他主義を意味するわけではありません。自分のためが人のためとなり、それが公のためになる。自らの意志と利益が公共心・公益と一致している時こそ、公のための課題意識と政策起業への熱意が最も開花するときであるように見えます。

(2)政策イマジネーション

次に取り上げるのは、政策イマジネーションです。政策イマジネーションという言葉は少し難しく聞こえるかもしれませんが、その中に含まれるのは①革新的なアイデアを生み出すこと、②政策を実現するには欠かせない仲間を作ることです。これらを駆使することで、単に政策を提起するだけではなく、政策の動きを想像しながら「実装まで持っていく」「インパクトを与える」ことが政策イマジネーションの肝です。

柔軟に、新しいアイデアを生み出す

目的に対してどのように組織・制度を活用できるのか。登壇された政策起業家の多くは、目的達成のために自分の領域を超えて手段を探します。その手段として新しいアイデアを取り入れていました。言い換えると、現在所属している組織や既存の制度から何ができるか、という思考法ではない、というのが登壇されたコアメンバーに多くみられる特長でした。

日本で唯一無二ともいえる独自の研究室エコシステムを作り上げたことで知られる松尾豊さんの事例。ゼミのゲストで登壇されたIGPIの川上さんが「目的が先にある。(中略)VCや会社、研究室という組織ですらその手段に過ぎない」と評していたように、日本の研究室に対する固定観念に囚われないことで様々な変化を生み出していました。ベンチャーから基礎研究へ、そこから新たなベンチャーの創出へというエコシステムを構築するため、研究室という手法に囚われず、VCや会社といった手法が用いられているのです。

また目標の達成のために、既存の制度を従来使われていた形とは違う意味合いで活用したり、その応用例から新しい法制度へとつながった例もありました。例えばチェンジメーカー育成を主眼に置いた学校創設に取り組んだ小林りんさんは、世界中の生徒を集める為に9月入学を目指したところ、日本のルールでは4月入学に定められていると指摘されました。そこで活用したのは単位制高校の制度。単位を取れば卒業できる、定時制高校などで多く活用されている制度を用いることで、「偶然全員が9月に入学する」という設計で9月入学を実現しました。このように、課題解決のための目的に拘る一方、それを達成するための手段は柔軟に選択していくことは、政策起業の成功のための秘訣ではないでしょうか。

仲間を増やす、共に戦う

加えて政策起業では、自分が目指している社会変化に対して、周りの人の協力を仰ぎながら実現していくことが欠かせません。

仲間づくりの進め方は政策起業家毎にそれぞれの流儀がありますが、最初に取り上げるのは出向先でグローバルアジェンダ形成に取り組んでいた経済産業省の須賀千鶴さんです。ゼミにおいて「巻き込み大魔神」と評されていた須賀さんは、官僚ならではの大立ち回りを通じて政策のトップや責任者とコミュニケーションをとりつつ、トップダウンで物事を実現に漕ぎつけるだけではなく、現場に近い人物とも深く繋がってボトムアップからも味方を増やしていました。

こうしたトップダウン、ボトムアップの仲間づくりという点は、他の事例にも登場します。トップダウンに近い仲間づくりでは他にも、こども宅食の制度化に向けて取り組んだ駒崎さんが、主催するイベントに招待する中で同じ志を持つ国会議員を増やしていき、自民党で自発的に議連が作られるまでに至ったエピソードを紹介しています。一度議連ができると、定期的に話し合いや勉強会の機会が持たれたり、議員が所属する党内への働きかけが行われたりすることで固定的なアジェンダとなり、政策形成に繋がっていきます。そうした点で、国会議員を巻き込んでいくために動くことは、極めて重要です。

またボトムアップに近い仲間づくりでは、リーダーシップ教育に携わる朝比奈一郎さんの語る「始動者」という言葉がキーワードになります。そして自らが信念を持って変革を始動し、自分を動かし、周囲を動かし、延いては社会を動かしていくことがリーダーシップ、という朝比奈さんのメッセージは、実際に多くのコアメンバーが取り組んできたことと重なります。フィジカルインターネットの重要性に国内でいち早く目を付け、組織を新たに立ち上げて普及に努めるヤマトの木川眞さんの取り組みなどは、その最たる例ではないでしょうか。

「自分が正しく、相手は間違っている」という意識では、仲間を巻き込むことができません。「違う意見であるが、同じ志を持っている」というマインドセットこそ、仲間づくりのカギになります。官僚や公務員との連携が密に行われる教育政策においてこそ、そのマインドセットが功を奏しています。「霞が関や地方自治体の皆さんも、公共に対する何らかの想いがあってその省庁・役所に行かれているわけだから」と語る小林さんは、改革のトリクルダウンを起こすにあたって、そう呟きます。

仲間を増やすというのは、増強するという意味合いだけに限定されません。自らの弱点を補う、という考え方を主軸に置くこともできます。仲間集めのために改革のビジョンを掲げることはリーダーの前提ではありつつも、「自分は苦手なことだらけ」と語る小林さんは、まさしく「自分にはこれが必要だができない、あれが必要だができない」と明確に打ち出していくことによって、不完全を補完する仲間が集まり、強靭なチームを作ることができたと回顧します。強さを打ち出すだけではなく、弱さをきちんと認め、オープンに検証し、公言する。得手不得手の選別は、仲間集めと政策起業の成功の秘訣です。

アジェンダ・セッティング力

コアメンバーに共通していたもののうち、最後に紹介するのはアジェンダ・セッティング力です。ここでは特に、①課題をアジェンダ化するために段階を踏んで取り組む点と、②その中でメディアを活用する場合、の二つに着目します。

一歩ずつ、段階を踏んで

一点目は、政策起業を実現する為に、ゴールを見据えつつ、段階を設定して徐々に目標に近づいていく点です。この点について、駒崎弘樹さんは「こども宅食」の事例で説明しています。こども宅食を制度として組み込むために駒崎さんが取ったのは、「モデル作り→全国への拡大→制度化」の3段階を設定することでした。即ち、最初は中心になって一つ成功事例を作るところから始め、その事例に魅力を感じた各地の有志にノウハウを提供して拡大していきます。そして事例が増えたところで政治家や官僚にアプローチし、こども宅食を支援するルール作りに繋げていくのです。実際には思い描いた通りに進むことはあまりありませんが、駒崎さんが「自分は詰将棋をしているつもり」と言っていたように、実現までの道筋をイメージすることも重要です。

こうした手法は、藤沢烈さんがコミュニティ形成支援を行う際に被災地で採用した手法とも共通点が見られます。藤沢さんも事業化と制度化の段階を分けて説明しており、制度化の段階で必要な予算・税制などの制度化を働きかけ、自ら運営する事業の領域を超えた横展開を進めていくとしています。事業化≒モデルづくり、「制度化」≒「全国への拡大と制度化」と読み替えれば、駒崎さんの段階設定と共通したものとして理解が可能になるでしょう。

ヤマトの場合は、シンポジウムを開催して「フィジカル・インターネット」という新しい言葉を業界で普及させた上で、役人を巻き込んだ勉強会を開催して最終的に物流大綱に持っていく。須賀さんのケースで取り上げたDFFTであれば、シンクタンクや役所で白書にまとめた上で、国際舞台の総理のスピーチで世論喚起する。民間でも国際的な舞台でも、綿密な準備をした上で段階を追ってアジェンダを形成していくことが鍵です。

メディアの役割:政策起業の発展に向けた「今後の課題」

メディアの役割については、こども宅食を進める駒崎さんの事例をはじめ、コアメンバーが行った政策起業の多くで重要な役割を果たしていました。こども宅食では、事業スタートのタイミングで記者会見を行うだけではなく、その後も様々なイベントを通してこども宅食の成果の報告を行うなど、報道できるタイミングを数多く作っていました。報道で多くの人の目に触れることとなると、社会での関心も高まり、政策担当者や議員に課題を解決する必要性を伝えることができます。

メディアは政策起業の「アライ」としても重要な役割を担っています。

コロナ禍の第一波への政策対応を検証したコロナ民間臨調について取り上げた塩崎彰久弁護士のゼミでは、メディアの役割の重要性が議題にあがりました。短期的な政策の失敗を批判せず、そこから得た学びを活かせたかどうかに着目することも必要ではないか、という意見などが参加者から上がりました。

メディアは世論を形成する力を持っており、言い換えれば政治家の行動について動機付けすることが可能な存在です。上手くメディアを活用できる場合には、こども宅食のメディア露出が増えることで関心を持ってくれる政治家が増えることもあります。一方、失敗を認めることで激しいメディアからの批判に晒される中では、過去の失敗を認めて学びづらかったりするのかもしれません。

また、メディアは必ずしも即時的な効果を発揮するわけではありません。報道すべきタイミングに、報道すべき事柄をタイムリーに提供することはメディア周知における成功の秘訣です。

しかし、メディアは社会のアーカイブとしての機能もあります。今活用されなかった事例が、今後活用される時がある。今は価値が認められなくとも、今後変革を起こす際に、参考すべき前例として報道されていれば、それが活力となって新しい変化を起こすときがあります。例えば、小林さんの例で出てきた教員採用の特例事例は、過去に報道された熊本県での事例が土台となっています。

PEPプロジェクトでも、これまでもこうしたメディアの果たす役割の大きさを認識し、2021年からPEPジャーナリズム大賞を開始しました。2022年の募集も間もなく始める予定となっています。広報文に「自由で開かれた社会において、市民が公共の事柄に関心を持ち、それに参画するには、確かな情報を伝え、判断材料を提供し、またアジェンダを形成するジャーナリズムの力が決定的に重要である」と書いていますが、PEPゼミで挙げられた課題と照らし合わせると、改めてこの広報文の重みを感じます。

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最後にインターンの立場として、「政策起業」という概念自体がもっと市民権を得るためにも、勿論メディアの役割は不可欠だと考えています。これまでの記事発信やSNSの運用などで政策起業の事例について発信してきましたが、これからもこうした活動を継続・強化していく中で、関心を持ってくれる人が少しでも増えればと思っています。

執筆:PEPインターン一同

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