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生成AIで政策案に対するステークホルダーの反応を初期的に分析する

作成者: 蛯谷 夏海|2025/7/3 (木)

政策を検討するとき、最初にぶつかる壁が「多様な関係者の考えや利害の把握」です。現場ヒアリングや統計の集計は欠かせませんが、初期段階で各自の状況や考えをざっくりとでも想定できると、次の調査が圧倒的に効率化します。

そこで今回は、 2026 年度から始まる「化石燃料多消費事業者への屋根置き太陽光導入目標義務化」を例に、GenAI でステークホルダーの反応を素描するプロセスをまとめました。

複数のステップを踏んでいるので少し長いですが、ぜひ参考にしてみてください。

1. ステークホルダーの洗い出しとざっくりとした分析

まずは 考えられるステークホルダーをざっと洗い出し、それぞれの期待値や懸念などを整理してもらいます。

経済産業省が2026年度から、化石燃料の利用が多い約1万2千事業者に屋根置き太陽光パネルの導入目標の策定を義務付ける方針について

  1. 本政策に関連する主要ステークホルダー(政府‐国・地方/対象企業‐製造業・流通小売/関連産業‐EPC・金融/市民‐都市住民・地域コミュニティ)のペルソナを作成する。
  2. それぞれのペルソナにつき、属性・目的/インセンティブ・現在の課題・政策への賛否と理由・追加で求める支援策を整理する。
  3. ペルソナの主張を裏付ける最新の統計・調査・報道や政策文書を引用する。

上記の結果、以下の表が出力されました。

# ペルソナ
(肩書・名前)
主な目的/インセンティブ 直面している課題 政策への想定意見・要望(抜粋) 裏付け情報
1 経産省 資源エネルギー庁再エネ主力化推進室 課長補佐「佐々木」 2030年再エネ比率目標・カーボンニュートラル達成 企業分野の再エネ導入停滞、屋根スペースの遊休 賛成(推進側)‐「目標策定義務→KPI管理しやすい」‐ペロブスカイト等軽量パネルを技術実装へ‐要望:地方自治体と補助金連携、データ基盤整備 ・政策方針報道で義務化案が公表(kabutan.jp)
2 地方自治体(政令市)環境局気候変動対策係長「高橋」 自治体の削減目標/地域創生 人手不足・条例との整合/住民理解 賛成だが慎重‐「都の住宅義務化で相談窓口が逼迫。工場も加わると対応増」‐要望:国のマニュアルと財政支援 ・東京都は25年4月から住宅向け義務化(koho.metro.tokyo.lg.jp)
3 中堅製造業(金属加工)工場長「井上」 電力コスト低減/ESG評価 初期投資負担・生産計画との調整 条件付き賛成‐「長期で見ればPPAでコスト安定。ただCAPEX22.6万円/kWは重い」‐要望:ファイナンス支援、計画達成の猶予 ・屋根設置システム費用平均22.6万円/kW(2024年)
4 大手流通チェーン環境戦略室長「山本」 Scope 2排出削減/顧客イメージ 全国に散在する直営店舗の屋根条件ばらつき 前向き‐「既に72.4%の企業が削減目標を持つ流れ。義務化は追い風」‐要望:複数店舗を束ねる“グループ計画”認定 ・72.4%の企業がCO₂削減目標設定済み(solarjournal.jp)
5 太陽光EPC会社 採用責任者「村田」 受注拡大・施工体制確保 技術者の深刻な不足(資格者) 賛成だが不安‐「需要は増えるが技術職の確保が課題。人材確保に“難しい”が90.7%」‐要望:技能者育成補助・登録講習簡素化 ・技術職確保が難しいと感じる企業90.7%(prtimes.jp)
6 都市部マンション住民共働き世帯 30代「阿部」 光熱費抑制・環境配慮 持ち家でないため屋根所有権なし 期待しつつ様子見‐「工場・店舗の屋根活用で電力グリーン化は歓迎」‐「PPAを介した“オフサイト屋根シェア”に参加したい」‐関心度は高く、市民の89.4%が気候変動に関心 ・気候変動に「関心がある/ある程度ある」計89.4%(jaif.or.jp)
7 地方銀行 サステナブルファイナンス担当「大西」 脱炭素融資残高拡大 中小企業の信用リスク・担保設定 ポジティブ‐「義務化で需要確実。PPA/SPC融資モデルを用意」‐要望:政策金融公庫の保証枠拡大 (企業需要増を示す同上エネット調査)(solarjournal.jp)

2. 各ペルソナのプロフィールと意見の作成

次に、出力された各ペルソナのプロフィールを掘り下げるために、以下のプロンプトを入力します。

依頼事項

  1. それぞれのペルソナについて、詳細なプロフィールを作成し、
    • 属性・責任範囲・KPI
    • 行動原理/インセンティブ
    • 現在の課題
    • 政策に対する賛否・理
    • 「心の声」(本音)
      を整理する
  2. ペルソナの主張や課題を裏づける最新データ・調査・報道を出典付きで引用する。

出力形式

ペルソナ一覧(見出し+本文)


ここでは、以降ペルソナ③の中堅製造業(金属加工)工場長「井上」を取り上げて説明するので、ペルソナ③の出力結果のみ記載します。

ペルソナ ③ 中堅金属加工メーカー 工場長

氏名(仮):井上 大輔 55 歳

拠点:愛知県・延床 15,000 ㎡

目的:電力単価高騰リスクの平準化/取引先の RE100 要請対応。

数字で見る現実:屋根設置 PV の平均システム費は 22.6 万円/kW(2024 年設置、単純平均)

悩み:屋根補強コストが+30 %になる可能性、生産ライン停止による逸失利益。

政策スタンス:条件付き賛成 – PPA なら CAPEX0 で済むが、契約期間20 年の縛りが重い。

心の声:「“義務”と言われると反発も出るが、長期で電力単価を固定できるなら悪くない…ただ財務と総務を説得できる資料が要る。」

3. より詳細なペルソナを作る

次に、前項で作ったペルソナ像をより具体的にします。例えば、以下のプロンプトを入れます。

なお、今回は GenAI の中でも大量のリサーチ資料を一度に読み込み、自然な人物像を日本語でまとめるのが得意な、Claude を使いました。(ChatGPT など他の GenAI でも対応可能だと思います。)

屋根置き太陽光の設置義務化政策に関するステークホルダーの反応を検討しています。
以下のペルソナ像をより詳しくしたいです。なるべく詳細なプロフィールを作り、反応も考えてください。
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中堅金属加工メーカー 工場長

* 氏名(仮):井上 大輔 55 歳

* 拠点:愛知県・延床 15,000 ㎡

* 目的:電力単価高騰リスクの平準化/取引先の RE100 要請対応。

* 数字で見る現実:屋根設置 PV の平均システム費は 22.6 万円/kW(2024 年設置、単純平均)

* 悩み:屋根補強コストが+30 %になる可能性、生産ライン停止による逸失利益。

* 政策スタンス:条件付き賛成 – PPA なら CAPEX0 で済むが、契約期間20 年の縛りが重い。

* 心の声:「“義務”と言われると反発も出るが、長期で電力単価を固定できるなら悪くない…ただ財務と総務を説得できる資料が要る。」

以下が、上記プロンプトをもとに Claude が出力した詳細プロフィールです。

井上大輔(55歳)- 中堅金属加工メーカー工場長 詳細プロフィール

基本情報・経歴

  • 勤続年数:32年(新卒入社、現場作業員→班長→課長→工場長)

  • 家族構成:妻、長男(大学3年・就活中)、長女(高校2年)

  • 学歴:工業高校機械科卒業

  • 専門分野:精密板金加工、プレス加工技術

  • 管理人数:正社員85名、パート・派遣35名

会社・工場概要

  • 会社名:株式会社東海精密工業(従業員数:120名)

  • 主要取引先:トヨタ系Tier2サプライヤー(60%)、建設機械メーカー(25%)、その他(15%)

  • 年間売上:28億円

  • 工場設備:プレス機12台、レーザー加工機3台、溶接ロボット8台

  • 現在の電力契約:高圧電力、月間使用量約180,000kWh、基本料金込み電力費月額420万円

現在直面している課題

  • 電力コスト:2022年比で電力単価が35%上昇、年間コスト増加額1,800万円

  • RE100対応圧力:主要取引先から2027年までに再エネ50%達成要請

  • 人手不足:技能工の採用難、ベテラン技術者の退職ラッシュ

  • 設備投資:老朽化した設備更新に年間8,000万円必要

屋根置き太陽光に対する具体的な懸念

技術面

  • 「築28年の工場屋根、耐荷重計算をやり直す必要がある」

  • 「夏場の屋根作業は危険。作業員の安全確保が最優先」

  • 「振動の多いプレス工場で太陽光パネルの固定は大丈夫か?」

財務面

  • 「設備投資枠は既に設備更新で満杯。追加投資は厳しい」

  • 「PPAなら初期費用ゼロだが、20年契約中の電力単価変動リスクは?」

  • 「屋根補強で生産停止なら、1日あたり380万円の売上損失」

運用面

  • 「メンテナンス体制をどう構築するか。外部委託費用も気になる」

  • 「故障時の責任分界点が不明確。生産への影響を最小限にしたい」

政策に対する段階的反応

第1段階:反発・困惑

「また規制か...中小企業の現実を分かってない。設備投資だけでも大変なのに」

第2段階:情報収集・検討

「PPAモデルなら初期投資なしで済む。補助金も併用できるのか?」 「近隣の同業他社はどう対応するつもりだろう」

第3段階:条件付き受容

「取引先要請もあるし、長期的には電力コスト安定化のメリットあり」 「ただし、屋根補強による生産停止は絶対に避けたい」

意思決定に必要な条件

必須条件

  1. 生産継続保証:工事期間中の生産ライン停止時間を最小化

  2. リスク分散:PPA事業者の信用力、倒産リスク対策

  3. 柔軟性確保:工場拡張時の契約変更可能性

希望条件

  1. 税制優遇:設備投資減税、固定資産税減免

  2. 補助金活用:屋根補強費用への公的支援

  3. 技術支援:導入・運用に関する専門家派遣

最終的な心境

「正直、"義務化"という言葉には抵抗がある。でも、電力コスト安定化と取引先要請対応を考えれば、やらざるを得ない。問題は、どうやって社内と金融機関を説得するかだ。具体的な数字とリスク対策を示せれば、前向きに検討できる。ただし、中小企業への配慮は絶対に必要。画一的な制度設計では現場が混乱する。」

同業者・業界への影響予測

  • 「愛知県内の同業者は様子見が多いはず。先行事例の成果を見てから判断」

  • 「業界団体での情報共有が重要。失敗事例も含めて共有すべき」

  • 「中小企業向けの集約型PPAモデルがあれば参加しやすい」

先ほどよりもかなり詳細なプロフィールが出来ました。

4. My GPTs を作って壁打ちする

ここまででも各ステークホルダーの反応はある程度網羅できているとは思いますが、更に深掘りする方法として、上記の詳細なペルソナ情報を My GPTs に読み込ませ、壁打ち相手を作ることができます。

My GPTs についてはこちらの記事などが詳しいです。(ここでは My GPTs 自体の説明は割愛)

「指示」という項目に、以下のプロンプトと前項で Claude に出力してもらったプロフィールを入れます。

以下のペルソナ情報をもとに、人格を持った人として質問に答えてください。
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井上大輔(55歳)- 中堅金属加工メーカー工場長 詳細プロフィール

基本情報・経歴

  • 勤続年数:32年(新卒入社、現場作業員→班長→課長→工場長)

(以下、略)

例えばこの  My GPTs に

屋根置き太陽光発電の設置義務化について、現場での対応を想像しながら、あなたのこの政策に対する考えを率直に教えてください。

と入れると、以下の回答を得ました。

工場長・井上大輔としての本音
率直に言えば、「やらざるを得ない」―でも“義務化”という言葉には強い引っ掛かりがあります。

1️⃣ 最初に頭をよぎった3つの懸念

懸念 現場でのリアル もし放置したら…
① 生産停止リスク 屋根補強だけで最短2週間、プレス機12台を止めると日商 約380万円×10営業日=3,800万円 の機会損失。 収益悪化 → 人員削減・残業増 → 品質事故の連鎖。
② キャッシュフロー 設備更新(8,000万円/年)の枠で一杯。自己資金でPV数千万円は到底ムリ。 銀行からは「製造原価に直結しない投資」と見なされ、追加融資の金利が上がる。
③ 技術的適合性 築28年トラス屋根。振動源のプレス機が近い範囲は、ボルトゆるみ要注意。 漏水やパネル落下が起きれば、顧客ライン停止 → 損害賠償の危険。

2️⃣ それでも前向きに検討する理由

  1. 電力単価の高止まり
    • 2022年比で35%高。年間1,800万円の増。PPAでも単価ロックできれば、10年で累計約2億円の変動コスト回避は魅力。
  2. 取引先からのRE100プレッシャー
    • Tier-1の建機メーカーが「2027年までに再エネ比率50%達成」を要請。拒めば「別ラインへ発注切替」の示唆あり。
  3. 人材採用PR効果
    • Z世代の応募者は「SDGsへの取り組み」を会社選びの指標にしている。屋根にパネルがあるだけで工場見学の受けが違う。

3️⃣ 各部門と共有した“落としどころ”イメージ

項目 具体策 現在の進捗
資金調達 第三者所有PPA+補助金・契約期間を15年に短縮し、10年目に買取オプション・PPA事業者の倒産リスクに対し「債務継承条項」を要求 地銀2行・リース3社から条件聴取中
工事工程 年末年始の8日間停止+週末夜間工事・屋根補強を3ブロックに分割し、常時2/3のライン稼働を確保 ゼネコンにタクトチャート提示済
技術面 耐振動設計の高トルク金具+ねじゆるみ検知センサ・年1回のドローン赤外検査をPPA料金に組み込み サプライヤ3社からサンプル見積
社内説得 「生産停止ゼロ・初期投資ゼロ」の二大条件を死守・5年後の残価をDCFで説明し財務部を納得させる 取締役会の次回議題に追加

4️⃣ 私が国に望む“3つの現実的支援”

  1. 屋根補強を含む補助率の引き上げ
    • 現行の「パネルとPCSのみ対象」では中小製造業は動けない。
  2. 中堅・中小専用の共同購入スキーム
    • 商社・地銀連合が束ねてくれれば、PPA単価を下げつつ事業者倒産リスクを分散できる。
  3. “生産停止保険”への保険料補助
    • 工事起因の突発停止に備える商品を官民共同で創設してほしい。

5️⃣ 結論 ――現場目線での是々非々

  • 反対 30%
    • 義務化というトップダウン手法は、中小企業の多様な現状を無視している。
    • キャッシュフローと工期リスクに配慮のない制度設計では倒れる企業が出る。
  • 賛成 70%
    • エネルギーコストの長期安定化とサプライチェーン要請への対応策としては合理的。
    • 労務・採用面でもプラス材料。長期的には競争力の源泉になり得る。

要するに――「やらされ感」ではなく「納得感」がカギ。

具体的数字とリスクヘッジ策をセットにして提示できるなら、うちの現場は前向きに動きます。

なお、My GPTs を使わなくても、chatGPT や Claude などに以下のプロンプトを打ち込めば、同様のことができます。

以下のペルソナをベースに、その人本人として、これからのやりとりに回答してください。(以下ペルソナ情報)」

注意点

AI の推論結果なので、現実のステークホルダーとの感覚とは違う可能性があります。あくまで初期仮説の構築や、考慮すべき観点の抜け漏れチェックに使うことをお勧めします。

 

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