2021年10月5日(火)、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が開催した「PEPサミット2021~扉をひらこう」のSession1の動画・レポートです。
- 【モデレーター】
須賀千鶴 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長
- 【登壇者】
太田直樹 株式会社New Stories代表・元総務大臣補佐官
関治之 一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事
中村一翔 株式会社ALBERT ビジネス推進本部 副部長
藤本真樹 デジタル庁 Chief Technology Officer
Session 1-Aでは、2021年9月にデジタル庁が設立され、100人単位で民間人が登用されたことをきっかけとして、官公庁と民間の人事の回転「リボルビングドア」を取り上げました。リボルビングドアについて、官のパフォーマンス向上のみに留まらず、日本の人材流動化の契機となり得るという視点で特に議論されました。
まず、霞が関で実感された現場に対する課題意識に議論が及び、コロナ禍に厚生労働省のクラスター班でデータ分析を担当した中村一翔氏は、その中で実感された官と民でのデジタル面での業務環境の違いを課題として提示しました。
また霞が関でのオープンイノベーションに取り組む関治之氏も、専門人材に対する評価プロセスの明確化が必要だという点を提起しました。
一方現在デジタル庁CTOの藤本真樹氏は、同庁ではこうした作業環境面や働き方等の課題意識が共有される環境にあるため、デジタル庁では課題を解決し得るとしました。
またセッションでは、現在も1800人近く任期無しの民間人材が省庁に在籍していることを踏まえ、太田直樹氏は民間人材が日常の意思決定に関与するのが次の目標になると指摘しました。
更によりマクロな視点から、政策実行に関して官民双方に専門家が偏在するのが健全だという意見が出されました。
またその際に官で働くインセンティブを作るために、
・官でのキャリアが人材価値として認められること
・給料をはじめとする正当な待遇を提供すること
の必要性が指摘されました。またその実現に向けて、省庁内部で行った政策を「スタッフロール」化して成果を可視化する必要性も提起されました。
最後に須賀千鶴氏が、今後デジタル庁に留まらず、他の分野でも民間人が大量採用されて文化を変えていく流れになる可能性に期待を寄せました。
- 【モデレーター】
駒崎弘樹 認定NPO法人フローレンス 代表理事
- 【登壇者】
天野妙 合同会社Respect each other 代表
大空幸星 NPO法人あなたのいばしょ 理事長
小室淑恵 株式会社ワークライフバランス 代表取締役社長
千正康裕 株式会社千正組 代表取締役
Session 1-Bでは、政府が今後重点的に取り組む政策課題を提示する「骨太の方針」に着目し、起業している政策を「骨太の方針」に載せるまでの道のりについて掘り下げました。
政策起業家の皆さんが政策起業に取り組むプロセスについて、一人ひとりがお話しされました。
そして、
・天野妙氏は院内集会等を始め様々な手段で育休問題に取り組む
・小室淑恵氏は産業競争力会議での民間議員への登用から他の民間議員・国会議員たちを地道に説得し四方八方に働きかける
・大空幸星氏は孤独という個人の問題を、担当大臣設置という形で社会問題化する
といったように、同じ政策起業の中でも、事例によって様々な経過を辿ることが明らかになりました。
また政策起業という取り組み、そして骨太の方針というアジェンダに載せるにあたって重要なこととして、
・困っている人の声を代弁する・声を上げること
・仲間を増やしていくこと
の二つが提示されました。
一つ目の代弁について、モデレーターを務めた駒崎弘樹氏は、いかに当事者に近い経験や目線、立場から代弁して声を届けていくかが重要だと語りました。
また仲間を増やしていくことについては、全員の政策起業に共通する点として言及されました。厚労官僚としてのご経験を持つ千正康裕氏は、政策決定を担う議員や政府は全国民を対象とされているため、私やその周囲だけではなくみんなのために必要だという多様な価値を語る必要があると述べました。
- 【モデレーター】
治部れんげ 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院 准教授/ジャーナリスト(PEPジャーナリズム大賞選考委員)
- 【登壇者】
中野円佳 ジャーナリスト(PEPジャーナリズム大賞2021 特別賞授賞者)
前田晃平 認定NPO法人フローレンス 代表室長
Session 1-Cでは、「PEPジャーナリズム大賞2021」で特別賞を授賞された中野円佳氏のキッズライン事件(ベビーシッターわいせつ事件)に関する報道に着目し、この報道と政策起業における報道の位置づけについて議論しました。
最初に中野円佳氏が、SNS上での告発などに支えられ、キッズライン事件について数多くの記事を発信し、社会問題として認知させるに至ったプロセスを紹介しました。
その点についてモデレーターの治部れんげ氏は、社名公表に及び腰になった既存メディアの発信が遅れたところから、既存メディアの保守主義路線が浮彫になった事例として評価しています。
ただ、この課題はキッズライン個社の問題だけではなく、子育てにおけるマッチングアプリ事業や子育て保育制度全般にまつわる問題でもあります。政策起業家として日本版DBSの設立に関わった前田晃平氏は、報道によって開かれた「政策の窓」を通じて、政策起業がスムーズに実現するようになったと語ります。子どもへの性犯罪の問題点が記事のおかげでわざわざ説明せずとも分かる状態になった上に、制度面まで記事で論じていたために、迅速に動くことを可能にできた事例でした。
また治部れんげ氏は、今回の政策起業で見せた連携について、SNSの可能性を示した事例としても評価されていました。