今年はエネルギーと家庭の暖房に関して重要な年になるでしょう。観測史上最も気温が高い年を記録し、COP28 が化石燃料からの移行に向けた世界的な合意に近づく中、今こそ国家および国際的なコミットメントを行動に移すことに注目する必要があります。
英国でネットゼロへの移行は喫緊の課題であり、私たちの排出量の約 20 %を占めている家庭や職場の暖房は中心的な役割を果たします。昨年の秋と冬に環境問題が政争の具に変わったにもかかわらず、昨年末には英国の暖房の脱炭素化政策において多くの進展がありました。
最近の政治における議論ではそのような雰囲気は感じられないかもしれませんが、2024 年の暖房の脱炭素化の兆しは良好です。ただし、ある大きな問題を解決できればの話ですが。
英国とウェールズでヒートポンプを取得するための主要な補助金であるボイラーアップグレードスキーム (BUS) の資金は 15 億ポンド以上に増加する予定です。これは 2025 年から始まる 3 年間にわたって分配され、年間約 5 億ポンドに相当します。
昨年 9 月のスナク首相の演説での環境政策の後退が注目を集めましたが、同じ演説でスナク首相は空気熱源ヒートポンプの補助金を 2,500 ポンド増額し、現在では 1 台あたり 7,500 ポンドに引き上げた事も報告しています。
全体の結果として、これにより BUS はヨーロッパでトップクラスの金額を助成する補助金制度となり、これが申請数の増加につながったようです。新しい資金パッケージは、2028 年 3 月までに英国とウェールズで年間約 66,000 台のヒートポンプ補助金を提供するのに十分な額になるはずです。
スコットランドはこの問題で英国政府よりも先行しており、2022 年 12 月にヒートポンプ補助金を 7,500 ポンドに引き上げ、農村部の家庭にはさらに 1,500 ポンドを追加で支給することを決定しました。スコットランドは補助金とともに無利子融資も提供しており、スコットランド家庭エネルギー計画 (Home Energy Scotland) は家庭にサポートとアドバイスを提供しています。
選挙が近づく中、労働党は家庭のエネルギー効率を向上させるために最大 60 億ポンドの補助金と融資を約束していますが、そのうちどれだけがヒートポンプの補助に使われるかは不明です。
しかし、補助金のための資金は歓迎できることではありますが、それだけではボイラーからの切り替えを促進するには不十分です。英国政府は 2028 年までに年間 60 万台のヒートポンプを設置する目標を持っていますが、そのうち補助金予算が計上されているのは 10 %に過ぎません。英国が設置目標を達成するためには、さらに多くの資金を見つけるか、低炭素暖房をすべての人に手頃な価格にするための他の方法を見つける必要があります。
2023 年のもう一つの重要な政策変更は、将来の住居建造物基準 (Future Homes and Buildings Standard) に関する協議の開始でした。この基準によって 2025 年以降、英国の新築住宅や建物へのガスボイラーの設置が事実上禁止されることになりました。例年約 20 万戸の新築住宅が建設されることを考えれば、この措置によって低炭素暖房の市場が即座に拡大する事が考えられます。
しかし、新築住宅に関しては前進している一方で、既存の住宅における新しいボイラーの段階的廃止のための取り組みは後戻りしています。英国政府は以前、ガスサービスが提供されていない地域で広く使用されている石油および LP ガスボイラーの新規設置を 2026 年から段階的に廃止することを提案していましたが、これを新しいガスボイラーの段階的廃止期限と同じ 2035 年に延期しました。
一方ウェールズでは、ウェールズ政府が「主にヒートポンプによって暖房が供給される」住宅を目指すビジョンを示す熱戦略の草案に関する協議を行いました。行動計画は来年発表される予定ですが、ウェールズの家庭や暖房エンジニアを目指す人にとっては、クリーンな暖房の未来に関する明確な旗印が示された形です。
英国政府は、2024 年 4 月に施行される新しい政策「クリーンヒート市場メカニズム (Clean Heat Market Mechanism) 」を推進しています。ボイラーメーカーは、最初の年は販売するボイラー 100 台ごとにヒートポンプ 4 台を販売する義務があり、2025 年からは 100 台ごとに 6 台を販売する義務が課せられます。この規定数量を満たせない場合、ヒートポンプを販売する企業からクレジットを購入するか、不足するヒートポンプ 1 台あたり 3,000 ポンドの罰金を支払う必要があります。
政府が毎年目指すヒートポンプの数を指定することで、政策を調整してヒートポンプの設置を徐々に増やすことができます。
英国政府は、低炭素暖房の展開を遅らせている重要な計画規則のいくつかについて、ついに進展を遂げました。秋季予算案で、ジェレミー・ハント財務大臣は、英国の都市計画制度の下でヒートポンプの設置に関する開発許可権を拡大することを目指すと発表しました。計画規則の改革に関する協議が近いうちに行われる予定です。
また、英国政府は都市や人口密集地域での低炭素暖房の重要な側面である熱供給ネットワークについても静かに進展を遂げています。先月発表された英国政府の最新の熱供給ネットワークゾーニングに関する政策提案では、地方自治体が熱供給ネットワークの優先地域を指定できるようにし、集団暖房インフラへの投資を調整しやすくする事を提案しています。
昨年 9 月に首相が家庭の脱炭素化に対して後退するような発言をしたにもかかわらず、英国政府はヒートポンプを支持しています。実際の政策が政治的駆け引きにかき消されているとはいえ、英国はしっかりとした暖房の脱炭素化政策のほとんどの要素を整えつつあります。しかし、それにもかかわらず、英国はヒートポンプの普及率で最下位に近い位置にあり、特に目立つ理由が一つあります。それは高価な電気代です。
英国の電気料金がほかの料金と比較して高いことは深刻な政策の失敗であり、政府はまだこれを解決していません。
電気はガスよりもはるかに高価であり、ガス料金に対する電気料金の比率はヨーロッパで最も高い部類に入ります。これにより、ヒートポンプは同じ量の熱を生成するために使用するエネルギーがはるかに少ないにもかかわらず、ガスボイラーよりも運転コストが高くなることがよくあります。
これを解決するための最初の重要なステップは、ガス料金よりも電気料金に多く上乗せされている課徴金を削除または再調整することです。英国政府は課徴金に対する行動を何年も約束してきましたが、次の選挙までに何かが行われる見込みは薄いでしょう。
課徴金の再調整と電気料金の引き下げは、どの政党の英国政府にとっても重要な優先事項であるべきです。それが実現すれば、英国は2024 年にヒートポンプと低炭素暖房を普及させるための十分な準備が整うでしょう。