非常に勢力の強い嵐ボリスのために中央ヨーロッパと英国の広い地域で洪水が発生し、家屋が破壊され、何千人もの人々が避難を余儀なくされました。
変電所の浸水、鉄塔の基礎の浸食、河川堤防の崩壊により、この豪雨は遠く離れた場所でも停電を引き起こしました。これにより、下水道のポンプ場が停止し、列車や路面電車の運行が中断し、EVの充電スタンドが機能しなくなるなど、さらなる混乱が生じます。
英国は2007年の夏の洪水でこのようなインフラ障害の波及効果を経験しました。イングランド南西部のグロスタシャーでの洪水による複合的な障害だけで、35万人が2週間以上も水道を使えず、4万2千人が停電に見舞われました。
通勤者は鉄道網やM5高速道路で立ち往生し、この洪水で何千人もの人々が家を失いました。2013年と2020年にも同様の洪水が英国を襲っています。
すべてのシステムは時折故障します。しかし、インフラは異常気象によって引き起こされる混乱に対してますます脆弱になっており、気候変動によってこれらの異常気象はより激しく頻繁になっています。英国の国家リスク登録簿には、嵐、熱波、山火事など気候変動による9つの影響が記載されており、それらはますます複雑で相互接続されたインフラに深刻な損害を与える可能性があります。一つの故障が連鎖的に他の故障を引き起こすこともあります。
あなたの家は次の嵐の進路にはないかもしれませんが、あなたの家が依存するインフラは進路上にあるかもしれません。では、電力が維持され、トイレが流れ、水道から水が出続けるようにする責任は誰にあるのでしょうか?インフラを気候変動に対して強靭(レジリエント)にする責任は誰にあるのでしょうか?
人々は自分自身とその家のレジリエンスについて責任がありますし、民間企業はその運営のレジリエンスについて責任があります。しかし、公共交通機関や通信ネットワーク、公共事業などのサービスを運営する企業はOfgem(エネルギー)やOfwat(水道)などの規制当局によって監督されています。
企業が所有するネットワークのレジリエンスは直接的な規制対象ではなく、維持すべき最低基準もなく、機能不全に対する罰金もありません。一方で、例えば停電によって一定程度以上の影響を受けた人々は補償を請求できます。
政府内では内閣府が国全体のレジリエンスの計画を主導し、緊急事態への対応や国家安全保障リスク評価および国家リスク登録簿の作成を担当しています。それぞれのリスクには担当政府部門が指定され、その管轄下にある機関や公共団体と協力することとなっています。
例えば洪水リスクは環境庁が評価を行い、その結果は環境・食糧・農村地域省(Defra)に報告されます。気候変動委員会や国家インフラ委員会などの諮問機関は政府への勧告を行い、そのパフォーマンスを評価しますが、行動を強制する権限はありません。
427の公共団体と機関が24の政府部門によって設定された法的枠組みのもとで活動していますが、そのどれもインフラのレジリエンスについて最低基準を持っていません。
前政権は2025年までにレジリエンス基準を公表することを約束しました。このような基準は将来停電やその他の障害を防ぐために必要な措置について公益事業会社やインフラ運営事業者に指示するものです。数百万人もの人々の生活品質を今後何年にもわたって形作る議論が政府で行われている最中です。
すべてのインフラを公有化することもなく、またすべての家庭が自家発電して自分たちでニーズを満たすこともないとすれば、未来はどんな姿になるのでしょうか?持ち家に住む人は自身でどうにかやりくりし、大家は賃貸物件への電力と水道の供給責任を負うのでしょうか?最悪の場合、人々は『マッドマックス』さながら自力で生き抜くことになるのでしょうか?
三つの可能性があります。一つ目は、インフラの機能不全がより頻繁に起こること、および多くの人にとって生活水準が低くなることを社会としてシンプルに受け入れる、というものです。二つ目は、電力網や道路・鉄道、下水処理場など国全体のインフラが更新・改善されることであり、そのためには多大な費用が伴います。
三つ目は、人々自身が直接行動し、自宅や地域社会を適応させて国家インフラへの依存度を減らすことです。このシナリオではサービスがより地域化されるため、コミュニティや家庭単位でインフラの一部~大部分の自給自足ができるようになり、おそらくオフグリッド集落として自律した存在になるでしょう。
生活水準低下に何も手を打たないと約束するような政権が成立することはないでしょう。他の二つの選択肢には多くの課題があります。二つ目の場合、大規模な政府介入と新しい改善されたインフラへの高い投資水準(洪水対策や追加電力ケーブル、新しい鉄道路線など)が前提となります。三つ目の場合、中央政府から地方自治体や地域社会団体への権限移譲(例:発電や水処理)が行われることとなるでしょう。
未来はこれらシナリオの組み合わせになる可能性があります。しかし、何もしないという選択肢はありません。私たちが考えるべきなのは、深刻な洪水が再び発生するかどうかではなく、それがいつ起こるのか、という問題です。