海外シンクタンクの議論を日本語で読み解き、日本のビジネスや政策への含意を考えるポッドキャストシリーズ 「PEP Think」。
今回は「科学研究のガバナンス――資金・公開・自律性」をテーマに、研究成果の公開、研究助成の審査、研究者の自律性という3つの論点から、制度の違いが研究者の選択や知識の流れにどう関わるのかを考えるエピソードをお届けします。
科学研究の成果は、研究費の規模だけで決まるものではありません。研究成果や研究材料を誰が利用できるのか、研究助成の審査で生まれた情報を別の資金につなげられるのか、研究者が何を研究するかをどこまで自ら決められるのか。今回のエピソードでは、こうした制度の違いが、研究者の選択や知識の流れにどう関わるのかを考えます。
3本の記事を通じて、公開、資金配分、自律性をどのように組み合わせれば、多様な研究と知識の利用を支えられるのかを議論しました。
Macroscience の「Pierre Azoulay on Open Science as an Economic Institution」をもとに、科学を、成果の公開、研究者への評価、研究材料へのアクセス、資金制度などから成る経済制度として捉える視点を紹介します。
エピソードでは、論文を読めても研究材料を利用できなければ、後続の研究につながらないことを取り上げました。また、材料やデータを保存・整理し、ほかの研究者が利用できる状態に保つ仕事の重要性も議論しています。さらに、先に発表したことを評価する仕組みと、検証や共有に時間を使うことの緊張関係、外部の研究成果を理解して自らの研究開発に生かす「吸収能力」にも触れました。国内で研究能力を維持する意味についても、世界初の発見を生む力に加えて、海外で生まれた知識を評価し、試し、改良する力まで含めて考えています。
Macroscience の「America Already Built the World's Largest Science-Vetting Machine」をもとに、公的機関が研究助成の審査で蓄積した申請書や評価情報を、研究者本人の同意を前提に、民間財団など別の資金提供者にも活用してもらう仕組みの提案を紹介します。
エピソードでは、2025年のNIHで約6万2,592件の申請に対して8,161件が採択され、採択率は13%だったことにも触れています。そのうえで、審査を合否判定だけで終わらせず、何が評価され、何が懸念されたのかという専門的な情報を、次の資金配分の判断に生かせないかを議論しました。同時に、科学的な評価を共有することと、どの研究を自らの目的に沿って支援するかは別の判断であることも確認しています。審査情報の再利用によって事務負担や時間が減るのか、新たな資金の流入や研究の多様化につながるのかについても、それぞれ分けて評価する必要性を考えました。
VoxEU / CEPR の「When political pressure trumps academic freedom」をもとに、政府の研究資金への依存度と、経済学者が扱う研究テーマの変化との関係を紹介します。政府資金への依存度が高い米国の大学では、ジェンダー、人種、環境に関する内容を含む論文の割合が減る一方、依存度の低い大学では同様の変化が確認されなかったという分析です。記事は、直接の資金規則だけでは説明できないこうした変化について、自己検閲が広がった可能性を指摘します。
エピソードでは、研究者が将来の資金やキャリアへの不利益を予想することで、表面上は自発的に見えるテーマ選択が変わり得ることを議論しました。また、日本についても、研究者の自由な発想を支える資金と政策課題を重視する資金が共存する意味や、研究を継続できる複数の選択肢、政策判断を後から検証できる独立した知見を維持する重要性を考えました。