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受賞作

受賞者スピーチ

選考委員コメント

本記事は、人々が集団で正義を振り回すことによる負の側面を、人間の内面的な心理分析にまで踏み込んで報じており、読みながら考えさせられる内容となっている。 一般市民がコロナ禍での自粛をめぐって「私的警察化」する有様は、全体主義下の秘密警察が採用した相互監視・密告制度にも通じる。記事では、コロナ禍という例外状態で、だれもが不安に陥ることによって「自粛警察」になり得るという身近でミクロな心情と、そのような心情が集合的に沸騰することによって自由主義の縮小および民主主義の後退が余儀なくされるというマクロな視点とが架橋されている。「けしからん」という正義心が行き過ぎることによって、相手に及ぼす犠牲や危害を見失ってしまう偽善と高慢が行き着く先、さらにそうした人間心理を利用する政治の存在など、新型コロナウイルス感染拡大の過程における「もう一つの危機」を明らかにした。本記事は身近な視点から大きな社会を照射し、「自由主義と民主主義に活力を与えるジャーナリズムの力を示した報道」に相応しいと判断した。

受賞者コメント

私が「川を渡る」と密かに名付けている仕事があります。受賞作もその一つです。多くの問題で意見が異なり、少なくとも私が暮らしている限りにおいてはおそらく接点が生まれそうにない人々に川を渡って会いにいき、彼らの「側」から見える社会を取材し、描きたい……。インターネットの世界はしばしば、二極化します。しかし、現実の世界は二つの極で描けるような単純なものではありません。複雑な事象を複雑なまま描き、しかも雑誌を手に取り、インターネットの世界にいる広範な読者に届けるためにどうしたらいいか。私の試行錯誤を評価していただいたことを喜びたいと思います。ありがとうございました。

  • 石戸諭(いしどさとる)

    1984年生まれ。2006年立命館大学卒業後、同年に毎日新聞入社。岡山支局、大阪社会部、デジタル報道センターで勤務。BuzzFeed Japanを経て独立。雑誌、インターネットなどで幅広く執筆するほか、テレビやラジオでコメンテーターも務めている。著書に『ルポ百田尚樹現象 愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)など。近刊に『ニュースの未来』(光文社新書)。