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核融合エネルギーはエネルギー供給の未来を変える可能性があるが、解決しようとしている問題を悪化させる可能性もある(ソフィー・コーガン)

作成者: PEPPEP|2024/11/11 (月)
PEP では、政策起業に関連した英語記事を翻訳して発信する翻訳コンテンツを定期的に発信しています。
今回は、非営利のオンラインメディアサイト The Conversation から、以下の記事をお届けします。
翻訳元:Sophie Cogan. Fusion power could transform how we get our energy – and worsen problems it’s intended to solve. The Conversation. 2024/7/5

原子核(原子の中にある核)を結合させる核融合からエネルギーを得ることは、世界のエネルギーシステムの脱炭素化への移行において重要な役割を果たす可能性があります。気候変動やエネルギー安全保障の問題がますます顕著になっている中で、「クリーン」「豊富」「安全」とされるエネルギー源である核融合の魅力はますます高まっています。

このような背景から、核融合産業は急速に成長しています。核融合技術は実験段階を脱しつつあり、「核融合は常に30年先の技術である」という常套句も信頼性が疑わしくなってきました。

しかし、社会的課題に対する理想的な解決策のように見えるものに過度に期待するのは簡単です。そして、私は、核融合エネルギーの実現が、それ自体が解決しようとする問題と対立する可能性があると考えます。

この技術が倫理的に問題のない形で発展し、実現可能ならば社会全体に利益をもたらすようにするためには、核融合に対するこの膨れ上がった期待を客観的に理解し、緊張が発生しうる領域を詳細に検討しておくことが重要です。

核融合は二酸化炭素を排出せず、廃棄物もあまり発生させず、信頼性が高く、比較的安全であるとされています。このようなエネルギー源に魅力を感じるのはごく当たり前のことでしょう。これには、世界のエネルギー需要が増加しているという背景、および気候変動という文脈が関係しています。クリーンエネルギーシステムへの移行が必要とされているのです。

核融合エネルギーは既存のエネルギー源のギャップを埋めることができると広く考えられています。例えば、太陽光や風力発電の供給は天候に依存するため不安定ですが、核融合にはこの再生可能エネルギーの不安定さはありません。また、従来の核分裂エネルギー(訳注:原子力発電のこと)と異なり、長期間残存する放射性廃棄物や安全性の問題に悩まされず、それゆえ人々から懸念を抱かれることもないことも利点です。さらに、化石燃料による炭素コストと温室効果ガス排出を軽減する助けにもなるでしょう。

核融合エネルギーはまた、エネルギー安全保障の懸念を和らげる可能性があります。なぜなら、核融合の主要な資源の一部は豊富に存在するからです。例えば、いくつかの核融合プロセスで使用される重水素燃料は、海水から容易に得ることができます。これにより、輸入への依存が減り、各国は世界の市場リスクから影響を受けることがなくなります。

しかし、これらの利点は、技術の発展に伴うより深い倫理的な問題や潜在的な悪影響を覆い隠しているかもしれません。このような緊張が最も明確に現れるのは、環境の持続可能性に関する問題です。特に気候変動の緩和と温室効果ガスの排出削減との関連性が挙げられます。

気候変動は技術的解決策 (techno-fix) に頼りがちな問題です。つまり、我々は技術がすべてを解決してくれると考え、行動に大きな変化を起こすことを避けようとします。このことは「緩和の妨げ (mitigation obstruction)」という議論として知られています。

エネルギー需要と温室効果ガス排出を整合させることは、正義と公平性の問題も提起します。エネルギー需要は、主にグローバルサウスで増加していますが、これらの地域は現在の気候危機を引き起こしている原因には最も関与していません。しかし、核融合プログラムは圧倒的にグローバルノースに集中しています。そのため、もし核融合が実現可能になったとしても、最も必要としている地域がその技術にアクセスできるとは限りません。

気候変動はグローバルな課題であるため、提案される解決策はそのグローバルな影響を考慮しなければなりません。核融合技術を展開する際には、開発の文脈を認識し、グローバルな不平等を考慮に入れるよう努める必要があります。そうでなければ、気候変動問題に対処することはできません。

核融合エネルギーに使用される材料にも同様の懸念が見られます。これには、リチウム、タングステン、コバルトなどのクリティカルミネラルが含まれます。これらの鉱物の採掘や加工は温室効果ガスを排出します。場合によっては、採掘場所が先住民の土地に隣接していることもあります。また、これらの材料の供給チェーンは地政学的な緊張の中に組み込まれ、同盟、協力、競争、独占が発生する可能性があります。

例えば、水銀は核融合炉のためのリチウム加工に使用されます。この元素は環境に有害で毒性があるばかりでなく、その生産は主に中国に依存しています

核融合エネルギーの進展が加速するにつれて、これらの潜在的リスクが見過ごされる可能性が高まります。しかし、私はここで道徳的なブレーキをかける必要があるとは思いません。むしろ、ギアをシフトする必要があると考えています。こういった潜在的な倫理的課題に対処するには、設計決定や材料の選択から公平な技術展開戦略や知識共有に至るまで、開発プロセス全体を通じて体系的な思考が求められます。

エネルギーへのアクセスは人間の福祉と発展の基盤であり、エネルギーシステム全体は社会に大きな影響を与えます。この分野での新しい技術や新興技術の社会的・倫理的課題に率直に取り組ないことは、よくて無責任、最悪の場合には実害をもたらす行為です。特に、核融合技術の影響が、まさに核融合が解決しようとしている課題を悪化させる可能性がある場合はなおさらです。

この記事の翻訳にあたり、翻訳許可を本記事の著者から取得しています。
 
著者:
ソフィー・コーガン (Sophie Cogan)、ヨーク大学博士課程
 
翻訳・監修:野澤