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アルベルト・ブラボ・ビオスカ、テオ・フィルポ「ミッション志向型イノベーション政策:実験がどのように役立つか?」

作成者: PEPPEP|2024/10/2 (水)
PEP では、政策起業に関連した英語記事を翻訳して発信する翻訳コンテンツを定期的に発信しています。
今回は、英国の研究機関Nestaによって設立された政策研究機関Innovation Growth Labから、以下の記事をお届けします。
翻訳元:Albert Bravo-Biosca and Teo Firpo, Mission-oriented innovation policy: how can experimentation help?, Innovation Growth Lab, 2019/07/11

 

ミッション志向型イノベーション政策が再び注目を集め、イノベーション政策立案者や実務者の間でますます注目されています。欧州委員会は「ホライズン・ヨーロッパ」において「ミッション」の概念を採用し、多くのイノベーション機関も近い将来にミッション志向型プログラムを開始する予定です(既に開始している場合もあります)。

しかし、ミッションについての議論が盛んであるにもかかわらず、それを成功裏に実施するための知識、実践的なガイダンス、過去の経験はほとんどありません。ミッションを実行するための「ハウツー」ガイドがまだ不足しており、成功に導くための多くの未解決の課題に直面しています。

必要な答えを得るための方法の一つとして、実験的な思考方法を採用することが挙げられます。問題はどのようにしてそれを行うかです。ミッション志向型イノベーション政策の設計と実施に実験的なアプローチを組み込むことは可能でしょうか?そのメリットは何でしょうか?どこから始めるべきでしょうか?

ルクセンブルグで行われた今年(訳注:2019年)のTaftie年次会議で、私たちはこのテーマについて議論するよう求められました。この会議では、ヨーロッパ全土およびそれ以外の地域からイノベーション機関が集まり、「ミッション志向型研究とイノベーション」について議論が行われました。

このブログ投稿では、ミッションと実験の相互作用に関する私たちの現在の考えを共有したいと思います。また、ミッションに取り組んでいる人々の意見を聞き、取り入れていきたいと思っていますので、ぜひご連絡ください

 

ミッション志向型イノベーション政策とは何か?

欧州委員会はミッション志向型イノベーション政策について、珍しく簡潔的な定義を行っています。それは、「具体的な目標を設定し、それを達成するために特定のターゲットを設け、一定の期間内に達成する政策立案のアプローチ」というものです。ミッション志向の最大の提唱者であるマリアナ・マズカートは、報告書でこれを「新たな知識を活用して特定の目標を達成するための体系的な公共政策、または大きな問題に対応するために展開される大規模な科学」と定義しています。典型的な例は月面着陸計画であり、明確な目標を持って大規模なリソースを動員する協調的なセクター間の努力によって成し遂げられました。

Taftieでのプレゼンテーションの準備にあたり、この定義が実際には何を意味するのかを理解しようとしました。ミッション志向型イノベーション機関が取るべき具体的な行動は何でしょうか?現在のところ、ミッション志向型政策形成の詳細な段階を記述した研究はほとんどないことが分かりました1

もちろん、これは複雑なトピックであり、すべてのミッションが同じ方法で実施されるわけではありません。しかし、ミッションの主要なステップを簡潔に図表化しておくことは有用でしょう。

  1. ミッションの定義:主要な情報源のほとんどが、ミッションは具体的で「粒度の細かい」ものである必要があると強調しています。また、一般市民からの意見を組み込むことも重要です。
  2. コミュニティの招集:ミッションは、複数のセクターから多様なアクターを集めて協力させる必要があります。
  3. 適切な手段の選択:ミッションの規模と横断的な性質のため、ミッションの実行にあたっては資金提供の呼びかけ、規制の変更、直接支援などが含まれることがあります。どの政策スキームの組み合わせが最適であるかが重要な問題です。
  4. プロセスの最適化:他の公共プログラム(または民間プログラム)と同様に、ミッションは複雑な運営を必要とし、最初からうまくいくことは稀です。したがって、最終的に選ばれた政策の組み合わせに関係なく、各ミッションのそれぞれの側面は過去の失敗や成功から学びながら常に調整される必要があります。

これは当然ながら非常に簡略化されたものですが、実験がミッションにどのように適用できるかを示すのに役立ちます。他のミッション志向型イノベーションを実行するための実践的なステップを記述する試みがあれば、ぜひご意見をお寄せください。

 

実験とは何か?

IGLでは、実験は私たちの活動の中心となるものです。我々は長年にわたって、イノベーション政策においてランダム化比較試験(RCT)をより多く活用し、実験的な思考をより広く取り入れるべきだと主張し続けてきました

そのため、ミッションに関する多くの文献で「実験の文化」を持つ必要性や「新しい政策立案の方法を実験する」ことの必要性が論じられていることについて、喜ばしく感じています。

しかし、実験という言葉が常に明確に定義されているわけではありません。実際、人々が実験について話すとき、それはしばしば「新しいことを試す」ことを意味しています。しかし、私たちは実験には学習が伴うべきだと考えています。

もちろん、実験にはさまざまな方法があり、次のように分類できます。

  • 探索と発見のための実験:このタイプの実験は、問題の理解を深めるために仮定を明らかにしてテストするため、または新しいアイデアの可能性と実現可能性をテストするために行われます。
  • 評価または「何がうまくいくか」の実験:このタイプの実験は、複数のプロセスに関して実験をしてアイデアやプログラムを改善するため、またはプログラムのインパクトを評価するために行われます。

重要な考え方は、RCTはツールボックスの一つのツールに過ぎないということです。しかし、その使用はインパクト評価実験に限定されません。実際、うまく設計された場合、RCTは仮定を明らかにし、可能性を探り、プロセスを改善するために使用できます。

 

ミッションの文脈で実験をどのように用いるか?

では、これらの二つの要素(ミッションと実験)はどのように組み合わせることができるでしょうか?私たちは、上記の四つのステップの各段階で実験の可能性があると考えています。

  • ミッションの定義:ミッションはトップダウンで選ばれる可能性もありますが、より広範な公衆を巻き込んで優先事項を特定し、それらの中から選ぶことが望ましいという合意があります(たとえ最終的な決定が政治的になされたとしても、です)。その中で、最善の方法を選ぶにはどうすればよいでしょうか?一つのアプローチは、できるだけ多くの人々が選択プロセスについて知り、関与するようにするために、公共へのアウトリーチ方法について実験することです。これは、BEISにおける我々のパートナーが行ったような、企業やビジネスメンターと関わるためのナッジを用いた実験の形を取ることができます。他にも、市民と専門家が最も実りある方法で対話する方法を解明するために実験を実施することもできるでしょう。
  • コミュニティの招集:繰り返しますが、誰が関与すべきかについては多くの政治的決定が必要です。しかし、一旦それが決定されれば、実験はプロセスを進める上で非常に役立ちます。例えば、人々を集めて協力させるための異なる方法(例:短い共同セッションに集める、協力方法に焦点を当てたハンズオンワークショップを開催する、共同プロジェクトに資金を提供するなど)を比較する実験を行うことができます。
  • 政策手段の選択:これはおそらく最も難しい点です。というのも、完全に異なる政策アプローチを古典的な実験方法で比較することはほとんど不可能であるからです。もちろん、個々の手段が機能するかどうかを理解するために実験を使用して、どの手段を採用するかを決めるのに役立てることはできます。さらに、うまく設計された実験は、機能する政策の背後にあるメカニズムを明らかにすることができます。しかし、政策手段の動的な選択を確実に評価する簡単な方法はありません。政策立案者は実験的な考え方を活用することで新しい可能性を探り、「良い失敗」から学びを得ることができると私たちは信じていますが、このアプローチはまだまだ発展途上です。これは重要なトピックなので、政策手段の選択に対して堅牢なモニタリングおよび評価技術を導入する方法について、何か考えがあればぜひお聞かせください。
  • プロセスの最適化:どのようなポリシーミックスであれ、使用される各個別の政策ツールには多くの決定と選択の余地があり、インパクトを最大化するために調整することができます。これは単にインパクト評価を実施して費用対効果分析を行うことだけではありません。特定のプロセスや政策に応じてさまざまな目標に焦点を当てることができます。資金提供の公募は明確な例です。最も使用される政策手段の一つであるにもかかわらず、各段階で何が最も効果的かをより深く理解するための実験は十分に行われていません。助成金スキームの「カスタマージャーニー」をカバーするような形で、以下のような疑問を確かめるための実験が可能でしょう。
    • より多くの、より質の高い申請を得るにはどうすればよいか?

    • 評価プロセスはどのように資金が提供されるプロジェクトの種類に影響を与えるか?

    • 他の手続きは助成金のインパクトにどのように影響するか?
    これは、イノベーションを推進する上で実験が大いに役立つ分野です。

 

次に何をするか?

このトピックはイノベーションおよび産業政策においてますます重要になってきており、ここに述べたことはまだ最初のステップに過ぎません。

考慮すべき他の要素はたくさんあり、RCTはその一部です。実験はRCT以上のものを意味しており、例えば思考法組織文化失敗へのアプローチ、といった要素が含まれます。また、実験は一連の政策形成ツールの一部であり、実験に限らず多くのツールを採用することで多くの学びが得られるでしょう。

ミッション志向型イノベーションにおける実験について他の人々や組織が何を考え、何をしているかを知りたいと思っています。ご意見や質問があれば、innovationgrowthlab@nesta.org.ukまでお知らせください。

1. 例外としては、UCLイノベーション・公共目的研究所の新しい報告書があり、いくつかのステップを示していますが、これは主に英国とその産業戦略に焦点を当てています。

この記事は、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際の下に提供されています。
翻訳:渡部(PEPインターン)
監修:野澤