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気鋭の経産官僚 須賀千鶴氏が語る、第四次産業革命時代の霞が関の未来(中編)

作成者: PEPPEP|2020/1/29 (水)

シリーズ「政策起業家Retrospect & prospect」第6回

中編にあたる今回は、霞が関の「外」の視点、須賀様の現職の世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター(C4IRJ)での取り組みや官民ジョイント・ベンチャーで政策のオープン・イノベーションを進める魅力をお話頂きます。

 

前編はこちらからご覧ください。

センター設立の経緯と理念:はじまりの勉強会と異例尽くしの新組織

--須賀様がセンター長を務める世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター(C4IRJ)ですが、2017年夏に設立された比較的新しい組織です。組織のミッションや特徴を簡単にご説明頂けますか

(C4IRJは)役所と共同設立主体が対等な関係で、運営方針も経産省が一切口を出さずセンター側が独立して決めるユニークな官民連携であり、新しい取組みです。

C4IRJは、第四次産業革命を巡るあらゆるテクノロジー、イノベーションとガバナンスの問題について、私達センターの側で「これが重要だ」と思う分野・政策でアジェンダセッティングして、様々なプレイヤーと協業しながら政策・ルールのアップデートに向け働きかける組織です。各省の外郭団体や企業の研究所のような技術開発・共同実証拠点ではなく、第四次産業革命の推進に向けた政策・ガバナンスのあり方を模索するシンクタンク組織です。

この組織は、経済産業省、国際機関である世界経済フォーラム、そして民間のシンクタンクである一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブが共同で設立した社団であり、ジョイント・ベンチャーです。そう説明すると、今までの第三セクターとか政府の外郭団体と同じように聞こえてしまうのですが、これは本当の意味で役所と共同設立主体が対等な関係で、運営方針も経産省が一切口を出さずセンター側が独立して決めるユニークな官民連携であり、新しい取組みでした。現在のセンターのメンバーも、基本は役所からの出向者ではなくて、民間からのヘットハンティングや、賛同企業のエースをフェローとして受け入れています。また財政的にも国のお金は頂かずに運営しています。

経産省は確かに共同設立者ですが、私はこの組織を経済産業省の外郭団体にはしたくない。国交省、農水省、厚労省など、それぞれの所管で第四次産業革命に直面する各省の課題解決に、上手く貢献できる組織にしたいと考えています。

--須賀様は、どのような経緯でセンターの所長として抜擢されたのですか

私の所長就任に至る経緯は話せば長いですが、元々私が経済産業省で金融政策・Fintech関連を所掌していたとき、省外の若手の有志の弁護士の方々と始めた「イノベーションと法」勉強会が全ての始まりです。金融系の若手の気鋭弁護士さんを皮切りに分野を超えて色々な方が参加し、最終的に15人ぐらいのメンバーで議論をして報告書にすると、金融業界、医療業界、運送業界と、様々な業界を超えて共通する構造的な課題―今私達が言う「ガバナンス・ギャップ」みたいなものが見えてきて…、そのテーマを追い続けたいな、と思っていた矢先、センター設立の話と、「センター長をやってみないか」というお声がかかった次第です。普通はこの手の団体のトップはもっとシニアの方が就任するのですが、テーマの性質からして若い人が良いだろうということで、私を推して、トップに据える英断をしてくれた関係者の方々には、今でも感謝しています。

第四次産業革命を巡るガバナンス・ギャップの克服とは何か?

――C4IRJがミッションとして掲げられている、「ガバナンス・ギャップの克服」というのは、どういう意味を指すのでしょうか

この「ガバナンス・ギャップ」には、2つの意味が込められています。

一つは、時代の最先端の動きに政府の知見・制度が追いつけていない、という意味でのギャップです。 二つ目は、国ごとに第四次産業革命の諸問題への「打ち手」が違うギャップです。

この「ガバナンス・ギャップ」には、2つの意味が込められています。一つは、時代の最先端の動きに政府の知見・制度が追いつけていない、という意味でのギャップです。先に話した、例えばシェアリング・エコノミー市場で、新しいテクノロジー・マーケットに対し政府の政策・ルール形成の遅さみたいな話が、こちらのギャップです。

二つ目は、国ごとに第四次産業革命の諸問題への「打ち手」が違うギャップです。この問題が顕著なのが、データ・ガバナンスを巡る国際的ルールの断片化です。やや単純化すれば、国際的なデータ流通に関するルールは、GAFAのようなプラットフォーマー企業にデータの取り扱いや利用者保護の責任を持たせる米国モデル、GDPRのようにデータ保持者のプライバシーの保護を重視し、プラットフォーマーへの規制や個人のデータコントロール権をより大きく認める欧州モデル、そして利用者保護を度外視して、国家・政府がビックデータを収集・利活用出来る中国・権威主義国モデル、といった形に分かれています。

これを企業の視点から見ると国境を越えてデータを流通させ色々なビジネスを興したいのに国毎で全然制度が違う、「なんとかしてくれよ」という話になる訳です。勿論、いかなる政策・ルールを採用するかは、各主権国家の独自の判断があるのは当然です。それでも最低限、各国を超えて、共通言語を確立する―政策・ルールの相互運用性(インターオペラビリティ)を確保しなければいけない、というのが我々の2つ目の問題意識です。

これらのガバナンス・ギャップは、政府以外のプレイヤーからはもはや無視出来ないレベルとなり、今後も深刻化していく。今、これらの問題にいかに対処するべきかは各国で議論が続いている黎明期とも言える段階です。その中で将来を見据えて「どうするべきか」を議論し、日本や世界と連携して対処策の実装に取り組んでいるのが、私たちといえます。

G20と、日本発スマートシティ、データ・ガバナンスのルールメイキング

--設立から約2年近くの事業の中で、特に「ガバナンス・ギャップの克服」という観点で、センターのハイライトとなる成果が何だったのか、教えてください。

2019年は、20年ぶりに日本がG20の議長国を務めました。日本は議長国として様々な分野でのルール形成を積極的に主導していかなければいけない立場だった訳ですが、特にデータ・ガバナンスとスマートシティの二分野は、センターとしてアジェンダセッティングに極めて重要な貢献が出来たことが本当に良かったと思っています。特にスマートシティについては、G20の日本政府としての合意案の案文形成、諸外国との国際交渉を、議場に行って私たちがワーキングレベルで担う程にコミットしていましたし、経団連とも連携して、ビジネス界の派生会合であるB20 (Business 20)や、各国都市の首長会合であるU20 (Urban20)でも、沢山のアイデアを撃ち込ませて頂きました。

こうしたアジェンダセッティング、アイデアの撃ち込みと実現といった作業は、勿論各省庁の原課でもやっていることではあります。ただ今回のように、極めて自律的にアジェンダを組み、かつ官邸や各国の動きを見ながら自分達が「仕掛け人」側に回る経験というのは、通常の行政官の一生では中々ないかもしれませんね。

―ありがとうございました。後編では、C4IRJの今後の展望の他、内外での経験を踏まえ、改めて政策職人としての行政官のキャリアパスの魅力と展望をお話頂きます。

(聞き手・編集:瀬戸崇志)

須賀センター長には2019年9月9日に開催した『政策起業力シンポジウム2019』での全体パネルディスカッション 『令和時代の政策起業-政・官・民/社・学の多様なステークホルダーで考える-』にご登壇いただきました。パネルディスカッションの詳細と動画についてはこちらをご覧ください。