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気候変動に対する個人の行動はグリーンウォッシュや美徳シグナリングと批判された。しかし、その役割は依然としてある(スクビル・サンドゥ)
今回は、非営利のオンラインメディアサイト The Conversation から、以下の記事をお届けします。
翻訳元:Sukhbir Sandhu. Individual action on climate was tarred as greenwashing or virtue signalling. But it still has a place. The Conversation. 2024/10/30.
20年前、気候変動との戦いは個人の選択として捉えられることが多くありました。たとえば、飛行機を避けることで炭素排出量を減らすことや、肉を避けたりプラスチックを減らすために購買習慣を変えることなどが提案されました。
しかし、このアプローチは生産者から消費者へと責任を転嫁するものだったため、次第に人気を失いました。例えば、「カーボンフットプリント」という概念は石油会社BPによって広められたものとして有名です。2008年には、アメリカの著名な気候活動家ビル・マッキベンが、個人の行動だけでは効果が乏しく、集団的な行動が必要だと指摘しました。
行動科学の研究者たちはまた、興味深いパラドックスを発見しました。多くの人々が気候に対して個人的に行動を起こすこと強い関心を示す一方で、実際の行動はほとんど変わっていなかったのです。
その後、多くの関心は、クリーンエネルギーに対する政府の奨励金や、国家レベルでの排出削減の約束といったトップダウンの取り組みに移りました。
しかし、個人にも依然として役割があります。特に、クリーンな選択肢が実際にどのようなものかを示すことにおいて重要です。たとえば、あなたの近所に太陽光パネルが多く設置されているほど、あなたが太陽光パネル設置を検討する可能性は高まります。この「近所効果」は、電気自動車や電動自転車の普及にも影響を与えます。クリーンな選択肢が少数の人々に採用されるだけで終わるのではなく、主流になるためには、こうした効果が重要です。
もちろん、個人の行動には限界があります。持続可能な消費に関する私たちの研究が示しているように、個々の行動は、制度的なサポートがあってこそ拡大されるものです。
言行不一致
人間は複雑です。私たちはしばしば、環境に優しい選択をしたいと口にしますが、実際には異なる行動を取ります。
気候変動に対する個人の行動は、理屈の上では素晴らしく聞こえます。もし多くの人が電気自動車や自転車を選び、太陽光パネルを設置し、エネルギー効率の高い家を建てたら、その集団的な行動は排出削減の目標に貢献するでしょう。また、乳製品や肉の消費を減らす、LED照明を導入する、包装の少ない商品を買うといった選択肢もあります。
日常的な行動も気候に貢献できます。たとえば、冷水で洗濯する、エアコンの設定温度を下げすぎたり暖房の温度を高くしすぎたりしない、または重ね着をすることなどです。また、リサイクル、修理、再利用といった行動は、製品の寿命を延ばし、廃棄物を減らし、節約にもつながります。
しかし、個人の行動は現実にはもっと複雑です。それは、私たち自身が複雑な存在だからです。
調査を行えば、多くの人が環境に優しい持続可能な商品を求めていると答えますが、実際に店に行くと、多くの人はそのような商品を買いません。私の研究者チームは、この現象を「二面性のある消費者現象」と呼んでいます。つまり、私たちはあることを口にしながら、実際には別のことをしてしまうのです。
なぜそうなるのでしょうか? その理由の一つとして、多くの消費者は、電気自動車や洗剤などにおいて環境に優しい製品は性能が低いと信じています。また、グリーンな製品は高価で使いにくいと考えられています。
さらに、美徳シグナリングという問題もあります。これは、本当に環境のことを配慮しているわけではない消費者が、環境に配慮している人間であるということを周囲に示すために、周囲からの注目を集めやすい環境に優しい製品を購入する現象です。
しかし、これらの課題の一部は克服されつつあります。化石燃料の車よりも加速が速く運転コストが安い電気自動車のことを低品質なものとして退けることは難しいでしょう。かつては美徳シグナリングと見なされていた太陽光パネルの設置ですが、CSIROの調査によれば、多くのオーストラリアの家庭は電気代の節約を主な理由として設置しています。
個人と集団の力
個人の行動には限界があります。個人の行動が持続的な影響を生み出すためには、支援的な政策や制度的なバックアップが必要です。
たとえば、2023年の報告書によると、多くのオーストラリアのクリーンエネルギー団体は、太陽光パネルを再利用してコミュニティプロジェクトに活用したり、低価格の選択肢として家庭に提供したいと考えています。使用済みの太陽光パネルは、新品の80%ほどの効率で動作することが多いため、これは理にかなっています。
しかし、消費者が実際に行動に移すためには、制度的な枠組みが必要です。中古の太陽光パネルを購入する場合、その状態が良好かどうか確かめたいと思うでしょう。認証プロセスがなければ確かめようがありません。
また、多くの人が電気自動車の購入を検討していると答えていますが、都市や地方に十分な公共充電スタンドがあるかどうかといった、個人では制御できない要素が普及の障害となっています。
制度的な支援の重要性は、交通における例を見れば明らかです。メルボルンとシドニー間の飛行ルートは、世界で5番目に利用者数の多い路線です。これは、速くて環境に優しい他の交通手段が存在しないためです。中国や日本のように高速鉄道があれば、多くの人が炭素排出量の多い飛行機を避ける選択をするでしょう。しかし、現時点では(まだ)他の交通手段が存在しないため、個人の選択肢は制限されています。
今後の進むべき道は?
気候変動が激化する中で、ますます多くの人々が、自分の信念や懸念に基づいて個人レベルで行動する意思があると答えています。さらに良いことに、実際に言った通りの行動を取る人も増えています。
もちろん、すべての場所でそうではありません。多くのオーストラリア人にとって、ガソリン車から電気自動車への切り替えは、日本への旅行や肉を諦めるよりも簡単かもしれません。しかし、進展があることは、何もないよりも良いことです。
このような個人行動の波が広がっていることは、励みになります。しかし、個々の努力には限界があります。それを最大限に活かすためには、制度的な支援が必要です。オーストラリアが世界をリードする屋根上太陽光パネルの普及率を誇っているのは、州や連邦政府が補助金や奨励金を使って、新技術をより安価にしたためです。このような奨励金が提供されることで、数百万人が個人の選択として太陽光パネルを設置しました。
私たちはもちろんただの消費者に過ぎないわけではなく、特定の製品を選ぶこと以外のやり方でも影響力を発揮することができます。私たちは市民として、より環境に優しい選択をするために必要な基盤を提供するよう政府に対して求めることができるでしょう。