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マカイラCEO藤井宏一郎氏が語る、パブリックアフェアーズ産業の意義・課題・展望(後編)

シリーズ「政策起業家Retrospect&Prospect」第2回

三部にわたるインタビューの最終回にあたる本稿では、パブリックアフェアーズとロビイングとの関係、パブリックアフェアーズ人材に求められる職業倫理、そして日本のパブリックアフェアーズ産業の未来像などをお話頂きます。

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「日本におけるパブリックアフェアーズ産業の未来」

−−藤井さまは、ここまでのインタビューの中で自身を「ロビイスト」と表現されることもありました。パブリックアフェアーズとロビイングは、表面上は類似する部分もあると思います。一方で後者は、「特定の企業利益のため働きかける悪いもの」とのイメージが日本では強い中、パブリックアフェアーズとロビイングを、いかに差別化しているのでしょうか。

 

ポイントは、やはり「仕事(案件)を選ぶ」ことです。まずパブリックアフェアーズの成果は、直接のクライアントとなる特定企業・団体の利益のためにのみ存在するものであってはなりません。

パブリックアフェアーズは政府へのロビイングを含みますが、一般社会やNGO、メディアなどへの働きかけも含む意味で、ロビイングより広い概念です。欧米では多くのロビイストは、「Hired Gun (雇われガンマン)」と呼ばれ、「お金のためならなんでもする」イメージが付きまといます。パブリックアフェアーズないし公益のためのロビイングは、悪しきイメージが付きまとう旧来型のロビイングと自分達を差別化するために明確な哲学が必要ですし、そこに携わる人材も高い職業倫理を求められることは間違いありません。

ポイントは、やはり「仕事(案件)を選ぶ」ことです。まずパブリックアフェアーズの成果は、直接のクライアントとなる特定企業・団体の利益のためにのみ存在するものであってはなりません。クライアントが属する産業領域に成果が広く裨益し、産業全体・日本社会全体をより良いものへと前進させる案件であれば、取り組むべきです。それがロビイングと非難されることを恐れて取り組まないことのほうが、社会にとって望ましくないと思います。

もっというと、ロビイストは本来、産業と政治家の両方を育てる「目利き」であるべきなのです。「この産業、このベンチャー企業を育てるべきだ」と選び、「この先生なら分かってくれるし協力してくれる」という政治家に引き合わせて、政策提言などで両者に知恵を提供する。そしてメディアやイベントなどで両者をプロモーションしながらムーブメントを起こしていく。その際、協力してくれるNPOや自治体を巻き込む。そうやって社会全体が強くなっていくのです。

−−マカイラでは実際にどうやって案件を選んでいるのですか?

 

目の前に先端的な技術・社会課題解決の手段を持ち合わせていながら、それを社会に届けることが出来ないクライアントがいます。そして私たちがプロフェッショナルとして、彼らの力を届け、社会を前進させる仕事をしているとすれば、私たちはその仕事にまい進することを迷うべきではない。

自分達の仕事が悪しきロビイングに堕してしまう事態を避けるために、マカイラでは案件を受ける上での「3つの基準」を設けています。

第1に「Innovation focus(イノベーション特化)」です。既得権益を固守して出る杭を打つような、社会の前進を阻止するだけの仕事はしません。第2は「Social Good(社会への便益)」。社会への正負のインパクトを比較較量し、その案件が社会的な便益の方が大きいと、全社員が合意する案件以外は受けません。第3は、「No rent seeking(利権を作るな)」です。特定の産業や企業のみに利益を囲い込むためにマーケットを不当に歪めて、経済全体のパイを犠牲にするような行為への肩入れはしないということです。

例えば、参入障壁としての資格の認定権能を持つ公益財団法人とバックにいるクライアント企業のみが得をする資格ビジネススキームを法制度化したい、などの依頼には応じません。他には、明らかに特定企業が正当性なく競合の参入を阻害するために作る、歪んだ技術標準や規制の設計にも手を貸しません。

この3つの厳格な基準を設けることを通じて、雇われガンマン的な従来のロビイングと差別化を図ってています。

ただ―仮に私たちが、誰かからロビイストと後ろ指をさされたとしてもです。目の前に先端的な技術・社会課題解決の手段を持ち合わせていながら、それを社会に届けることが出来ないクライアントがいます。そして私たちがプロフェッショナルとして、彼らの力を届け、社会を前進させる仕事をしているとすれば、私たちはその仕事にまい進することを迷うべきではない。声を大にして、自分達が「良いロビイスト」だと主張するべきだし、そうしてロビイストのイメージそのものを、社会全体で変えていかなければいけないと思います。


−−昨今パブリックアフェアーズは、様々な業界の方々が異なるキーワードでその重要性を指摘しています。ある種産業自体が「バブル」にある中で、今後日本でもマカイラを追随する様々なプレイヤーが出てきた、中にはそれに便乗した「悪いロビイスト」も出てくるかもしれません。そうした事態に、私たちはどのように備えるべきでしょうか。

 

社会を前進させるためのパブリックアフェアーズの極北の姿を社会に示し、真に世の中のためになるパブリックアフェアーズ産業を日本で確立しよう、ということでマカイラを創業したのです。

その懸念は、私が2014年にマカイラを設立した問題意識とも繋がっています。パブリックアフェアーズという概念は、2008・2009年くらいから日本社会の中で議論され始めました。最初にそれを主張し始めた方々は、当然善意と正義感を持ってそれに取り組む訳ですが、業態の知名度が上がる中で「便乗」する人々が出てくる訳です。いろいろなコンサル会社などが「パブリックアフェアーズが流行っているらしいから、うちもひとつ、パブリックアフェアーズを名乗ろう」と、哲学のないロビイングですね。そうでなく、社会を前進させるためのパブリックアフェアーズの極北の姿を社会に示し、真に世の中のためになるパブリックアフェアーズ産業を日本で確立しよう、ということでマカイラを創業したのです。

パブリックアフェアーズとか、新たなルールメイキングとか、イノベーションのためのロビイングと言う言説は、広く議論されるようになってきましたが、それが「流行りモノ好きや意識高い系のなんちゃってロビー」にとどまるか、これまで日本を動かしてきたギルド的中間集団の役割を少しでも代替できるような、新しい社会システムの一角となりうるかは、今がまさに分水嶺だと思います。

あるべきパブリックアフェアーズを、日本に定着させるためには、今我々が発信を続け、同時に事業の中でベスト・プラクティスを示し続けなければならないと感じていましたし、創業当初から、それはずっと続けています。

−−ありがとうございます。最後に、日本におけるパブリックアフェアーズのパイオニアとして、民からの政策・社会課題解決の最前線に立たれてきた藤井さまから、この記事の読者の皆様、特に藤井さまの背中を追う若い方々に向け、これからの日本の公共や、政策起業家のキャリアパスについて思うところなど、メッセージを頂ければ幸いです。

私が読者の皆さんに最も伝えたいことは、「流行りの用語に惑わされず、自分の心の奥底の問題意識を大事にし、それを追求し続けるキャリアを築いていって欲しい」ことです。

パブリックアフェアーズ、ルールメイキング、〇〇〇 2.0/3.0、 政策起業… 新しい政策・ルール形成を表現する様々な言葉が世の中には溢れています。ただ、キャッチフレーズの流行り廃りはすぐに変わります。僕が役所に入ったばかりの頃は、「民間の視点から政治や行政を改革したい」という今と似たような問題意識は英国ブレア政権などの「第三の道」を受けた「ニューパブリックマネジメント(NPM) 」概念の文脈で議論されていたし、そのブームが吹き去ったあと、今度は民主党政権下で「新しい公共」という概念が登場し、政権交代と共に消えていきました。その間にも、シビックテックとかオープンガバメントとか、いろいろありました。今議論されている色々なキャッチフレーズも、5年後には同じ運命を辿っているかもしれません。そうした流行りの言葉に飛びつくだけの表面的な「意識高い系」の人は、すぐに化けの皮が剥がれ、淘汰されます。

ただ、全ての人がそうした末路を辿る訳ではない― NPMなら「いかに行政・官の中に民の経営手法や発想を取り入れるか」、新しい公共であれば、「いかに官の限界の中で民との政策共創を実現するか」― 流行り言葉の根底にあるものを死ぬほど考え続け、問題意識を持ち続けた人々は、時が流れ、フレーズや文脈が変わっても、生き残り活躍されています。

別に今お話した「新たな政策・ルール形成」の話に限らず、「多元的共生社会としての日本」とか、「AIと社会のこれから」とか… 何でも構いません。皆さん自身が「この問題意識は世の中にとって重要で、自分のこれからの人生で、追求していかなければいけないんだ!」と思われるものをしっかり見定めてください。そして、そのために沢山努力して、キャリアを築いていってほしい。

なぜこの話を最後にしたかというと、そうした問題意識の軸が無いと、リボルビングドア型人材として大成出来ないからです。様々なセクター・組織を行き来できるのは、明確な軸があるからで、それが無ければ自分を見失ったジョブホッパーになってしまう。所属組織や肩書・立場は変わるかもしれないけれども、一貫した問題意識の軸の下で、研究テーマや目指す社会ビジョンを持ち続けて仕事をしている方が、真のプロフェッショナルとして尊敬されるのだと私は思います。これが、最後にお伝えしたいメッセージです。


ありがとうございました。 
                                 (聞き手・編集:瀬戸崇志)