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品川女子学院 政策起業出張授業実施レポート

2024年5月から6月にかけて、品川女子学院の中高生計32名を対象に、全4回(各日90分)の政策起業を題材にした出張授業「特別講座 政策起業ワークショップ」を実施しました。

政策起業家プラットフォーム(Policy Entrepreneures’ Platform、以下 PEP) は、2024年5月から6月にかけて、品川女子学院の中高生計32名を対象に、全4回(各日90分)の政策起業を題材にした出張授業「特別講座 政策起業ワークショップ」を実施しました。

政策起業ワークショップの狙い

社会課題や生活課題の解決のための「起業」と言えば、ビジネスでの起業や社会起業を思い浮かべる人が多いのではないかと思います。しかし、自治体や国の政策やルールを変える「政策起業」で、課題を解決できることもあります。実際、近年日本でも政策起業に関する書籍が出るなどして、この領域が注目され始めています。

今回のワークショップは、この『政策起業』を通してアントレプレナーシップを涵養することを目的として設計しました。政策教育ではなく、あくまでアントレプレナーシップ教育が主目的です。

 

なぜアントレプレナーシップ教育で「政策起業」を使うのか?

ビジネスをテーマにした実践的なアントレプレナーシップ教育は、リアルな市場で大人たちと競い合うことになるため成功体験を得ることが難しく、自己効力感の獲得が難しいという課題がありました。また、社会起業をテーマにすると、取り組む課題が一般的になってしまい、事業で解決することが難しいものになりがちでした。さらに両者に共通して、授業後の継続が難しいという課題もありました。

政策起業をテーマにすることで、地域特有の課題を実際に解決できる可能性があり、学生たちも目の前の人が幸せになる様子を見られるなど、リアルな成功体験の獲得ができます。また良い政策であれば、自分たちが取り組みを継続しなくても、行政がその活動を取り上げ、継続してくれる可能性があるというメリットもあります。

さらに政策起業で必要になるスキルは、ビジネス起業で必要となるスキルと共通するものも多分に含みます。例えば、政策立案の過程でも「課題分析」「仮説検証」「顧客インタビュー」などの知識やスキルは必要不可欠です。このように、従来のアントレプレナーシップ教育の目的も達成できるほか、授業の『公民』の知識の活用や地域社会との接続の機会にもなると考えています。

 

授業概要

日時: 2024年5月17日(金)、6月7日、14日(金)、21日(金) いずれも 16:00-17:30
カリキュラム:
Day 1 (5月17日): 政策起業とは何か?
Day 2 (6月7日): 社会課題の特定と検証
Day 3 (6月14日): 政策案の特定と検証
Day 4 (6月21日): 政策ピッチ

 

Day 1 「政策起業とは何か?」(5/17 金)

初回の授業では、まず「政策」に対するイメージと、本授業を受けようと思った理由を生徒に尋ねました。「堅い」「難しそう」といったイメージがありつつも、「面白そう」「政策での社会課題解決に取り組んでみたい」といった前向きな声が上がりました。
次に、政策起業の目的である「社会課題解決」について、「社会とは何か?」「社会課題とは何か?」「課題解決とは何か?」など、具体例を交えながら説明しました。
最後に、各自治体の政策事例を検索できるツールを紹介し、次回までに自分たちの興味のある政策に関して調査することが宿題になりました。

 

Day 2 「社会課題の特定と検証」(6/7 金)

Day 2 は、前回の宿題で調べた政策のグループ内での共有から始めました。
次に、社会課題の分析と検証について説明した後、それをどのように政策的に解決するのか、について概説しました。特に、政策を考える際に極めて重要な課題の定義については、「課題」とは理想と現実のギャップであり、「いつまでにどのような社会を理想とするか?」を具体的に考えることが大切だとして、グループごとに理想の社会を議論するワークを行いました。
また、課題の分析に際しては、課題の構造を理解することも重要です。そのため、課題構造マップ*1を紹介し、自分たちの取り組む社会課題についてマップを書いてみる、というワークも実施しました。

*1 課題構造マップ: SIIF(一般財団法人社会変革推進財団)が2023年春に発行する3課題、「機会格差」、「地域活性化」、「ヘルスケア」のビジョンペーパー(課題解決の展望、変化の予想図、組織としての方向性の明示)を制作するにあたり、各課題において構造上、何がどのように複雑に絡み合っているかを俯瞰的に捉えるために作成されたもの。

 

Day 3 「政策案の特定と検証」(6/14 金)

Day 3 では、まずはじめに「仮説が間違っていることは多分にある」ということと、「間違った仮説は早く棄却することが重要である」ことを説明し、これまで検討してきた政策課題とその解決策について検討を続けるのか(Go)、棄却して新しい課題や解決策を考えるのか(No-Go)を生徒に考えてもらいました。
その上で、Day 4 で実施する政策ピッチについて、過去に PEP が支援した学生団体の発表事例を用いながらピッチのポイントを説明し、各グループに分かれてピッチ資料の作りこみと発表準備を行いました。

 

Day 4 「政策ピッチ」(6/21 金)

最終回である Day 4 では、グループごとに政策ピッチを行いました。当日は、ゲストとして都議会議員や行政職員、教育系財団の方々にもお越しいただき、各チームの発表に対してコメントをいただきました。取り組んだ社会課題は「フードロス」「少子高齢化」「若者の選挙への関心」「路上喫煙」「障がい者雇用」など多岐に渡り、その解決策もユニークなものばかりでした。また、発表の最中には、Google Document を用いてリアルタイムに生徒・ゲストからコメントできるようにしたことで、各チームにたくさんの応援コメントやフィードバックが寄せられました。
発表の後には、各グループにゲストが入り、より詳細なフィードバックをいただきながら振り返りを行いました。授業終了ギリギリまで議論や質疑応答が飛び交う、大変活発な会となりました。

 

生徒からの感想(一部)

  • これまで校内で行ってきた起業体験やCBL(Challenge Based Learning)*2 で商品化・課題解決というものを学んできたが、政策となると相手は「顧客」ではなく、「市民」になってしまうので考え方の転換が難しかった。金銭面などにおいて「負担しようと思ってもらうにはどうするか」ではなく、「負担を軽減させるにはどうするか」となるとやってきたことと真逆になってしまうが、課題を解決したいという目的は同じはずだから、絶対両方必要。「政策起業」という合体版の必要性を痛感した。
  • 先生が、ピッチのコツを教えてくださいましたが、先生の授業がとてもスムーズで、その授業の仕方が気になりました。
  • とても貴重な体験だったなと思いました。正直、今まで問題を立てたとしてもそこから何をしたらいいかわからないことがよくあったので今回講座を受けてみて本当に良かったです。今回学びきれなかったこともまたこのような機会があればまたやってみたいです。

*2 CBL (Challenge Based Learning):「身近な問題を見つけ、その問題について調査・分析し、解決策を考え実行する」課題解決型の学習。

 

PEP 所感

生徒にとっては「政策」というあまり馴染みのないキーワードでしたが、熱心に最後まで取り組んでいただきました。特に同学ではビジネス起業に関連した授業が既に行われているとのことですが、その中で「取り組む課題が固定化されてしまっている」「課題についてあまり深掘りがなされないままに事業アイデアに進んでしまう」などの課題があるとお聞きしました。今回の政策起業ワークショップでは、そもそも「社会とは何か」「課題とは何か」「社会課題とは何か」という点から講義をはじめ、社会課題そのものを深く考えることにも相当の時間を使ったことで、これまで考えたことのなかった社会課題と向き合い、解決策を考える機会となったグループもあったように思います。また、最終日のピッチでは、実際に行政に携わる都議会議員や行政職員の方々、全国各地で教育事業を行う財団職員の方にもお越しいただいたことで、行政や政策 及び それを担う方々を身近に感じるきっかけになっていただけたのではないかと考えています。時間ギリギリまでゲストに質問をする生徒も数多くいらっしゃり、受講生の政策への関心は少なからず高まったのではないかと拝察しました。

また、本ワークショップの主目的であるアントレプレナーシップの涵養に関しても、「課題分析」「仮説生成」「仮説検証(インタビュー)」「撤退判断」「ピッチ」という一連の実践を通して基礎となるスキルや知識を身に着けていただけたのではないかと思います。

 

(参考)ワークショップの構成と設計

『課題解決』『資源獲得』といったすべての「起業」において共通の資質・能力を涵養いただくために、「課題分析」「仮説生成」「仮説検証(インタビュー)」「撤退判断」「ピッチ」といった実践を行いながら政策を立案する構成にしています。今回は 90 分の授業を以下の構成で 4 回行いました。

最後に

PEP for Youth では、上記のような政策起業に関する出張授業の実施相談を随時受け付けております。助成金等の関係ですべてをお受けすることはできませんが、ご関心をお持ちいただける場合は、以下のフォームよりお気軽にお問合せください。