今週の PEP Think: 「人口が減る国・増える国」「生活基盤経済とは何か」「公費はどこまで暮らしの足を支えるべきか」
海外シンクタンクの議論を日本語で読み解き、日本のビジネスや政策への含意を考えるポッドキャストシリーズ 「PEP Think」。
今回は3本のエピソードをお届けします。1本目「人口が減る国・増える国」では、労働市場と制度の適応を考えます。2本目「生活基盤経済とは何か」では、生活の土台を経済政策の中心に置く構想を整理します。3本目「公費はどこまで暮らしの足を支えるべきか」では、公共交通への公的負担のあり方を問い直します。
人口が減る国・増える国 ― 労働市場はどう適応するか
人口が減る国と、若い労働力が増える地域が同時に存在するなかで、働き手の不足は人の移動だけで調整できるのでしょうか。1 本目のエピソードでは、移民政策、技能形成と国際的な労働移動、AIによる仕事の変化に対応する雇用政策を取り上げます。
3本を通じて、人材を必要な仕事に接続し、仕事の変化に応じて別の職種へ移れるようにするために、労働市場と制度がどのように適応できるのかを考えます。
移民政策と高齢化 ― 受け入れ人数の先に何を見るか(Migration Policy Institute)
Migration Policy Institute の政策ブリーフ「Population Aging Is Here. Immigration Can Offer Half an Answer.」をもとに、高齢化への対応として移民をどのように位置づけるかを紹介します。記事は、技能や就業可能性を重視すること、言語教育などの統合支援を生産性への投資として捉えること、住宅や公共サービス、老後まで含めて制度を設計することなどを提案しています。
エピソードでは、移民政策の成果を人口の増加だけで測るのではなく、必要なサービスを供給できるか、技能を生かして働き続けられるか、ほかの人の就業にも影響するかといった観点から考えました。また、統合支援の中長期的な効果をどう評価するか、受け入れ地域が負担する住宅や公共サービスの費用、帰国後も含めた老後の所得保障まで視野を広げ、誰に利益が生じ、誰がいつ費用を負担するのかを議論しています。
技能形成と国際労働移動 ― 育成から就職までをどうつなぐか(Center for Global Development)
Center for Global Development の「Africa Must Invest in Skills, Portability, and Mobility for the Green Transition」をもとに、アフリカで増える若い労働力を、グリーン分野を含む国内外の雇用へどう接続するかを紹介します。記事は、企業の需要に合った技能形成、地域や国境を越えて技能を証明できる資格、労働移動の仕組みを一体で考える必要性を示しています。
エピソードでは、企業が育成段階から必要な技能を伝える仕組みや、訓練内容を実際の採用や事業計画と対応させる必要性を議論しました。さらに、資格を取得しても、就労資格や現地の制度が整わなければ雇用にはつながらないことを確認しています。受け入れ国が育成にも関与する技能パートナーシップについては、海外就職を広げながら、送出国の育成能力や国内人材も増やせる条件を考えました。
AIと雇用政策 ― 異なる目的の政策をどう組み合わせるか(Brookings Institution)
Brookings Institution の「Getting to all-of-the-above: A framework of solutions for AI's coming impacts on work and workers」をもとに、AIによる仕事の変化に対応する雇用政策を紹介します。記事は、政策を「ブレーキ」「誘導策」「緩衝策」「転換」の四つに整理し、目的に応じて組み合わせる必要性と、それらを実際に機能させる政府の実施能力を論じています。
エピソードでは、現在の雇用を維持すること、転職中の所得を支えること、より良い仕事への移行を支えることでは、必要な政策も評価指標も異なると整理しました。また、AIによって作業時間が減っても、それが雇用や所得の改善に直結するとは限らないことを踏まえ、企業が生まれた余力をどう使うのか、再訓練を受けた人が実際にどの仕事へ移れるのか、必要なサービスの供給と働き手の利益をどう両立させるのかを議論しています。
生活基盤経済とは何か ― 先端産業を支える「見過ごされてきた土台」
半導体工場を誘致しても、そこで働く人が暮らせる住宅や、子どもを預けられる保育、通勤を支える交通、家族の介護を担う人材が不足していれば、産業は十分に機能しません。生活基盤経済(Foundational Economy)は、食料、住宅、医療、教育、ケア、交通、エネルギー、上下水道、通信など、人々が日々の生活で依存する財やサービスの供給を、経済政策の中心に置く考え方です。先端産業やGDP成長率に注目が集まりやすい経済政策に対して、社会と産業を支える生活の基盤をどのように維持し、更新するのかを問い直します。
2 本目のエピソードでは、2013年に英国で提起された生活基盤経済の考え方から出発し、「社会的フランチャイズ」という捉え方や、公共と民間が混在する供給制度としての特徴を整理します。さらに、レイチェル・リーブスが提起した「日常経済(Everyday Economy)」との違いを確認しながら、議論の焦点が産業部門から市民の権利、さらに世帯の「生活可能性(Liveability)」へと広がってきた過程をたどります。残余所得、社会インフラ、必需サービスという生活可能性の構成要素を踏まえ、所得再分配だけでは扱いきれない供給制度の問題や、公共調達を通じた制度設計についても考えます。
後半では、ウェールズでの政策化とその評価、地域内循環を目的化する「ローカル・トラップ」の問題、英国で日常経済からセキュロノミクスや先端産業を重視する産業戦略へと議論が移っていった経緯を検討します。そのうえで、経済安全保障を生活基盤の供給という観点から捉える可能性や、日本における公共交通の縮小、介護人材不足、災害時の脆弱性、自治体の調達・維持能力といった課題を考えます。生活基盤をどのように測るのか、社会的共通資本など日本にある考え方とどう接続できるのか、そして生活を中心とする政策思想を将来への投資としてどう構成できるのかまで議論します。
公費はどこまで暮らしの足を支えるべきか ― 政策目的・サービス水準・運賃
公共交通は、通勤や通学、通院など、日々の生活を支えています。その維持には多くの地域で公的資金が使われており、公費で何を、どこまで支えるのかが課題になります。移動サービスの維持や改善を優先するのか、脱炭素や地域雇用などの政策目的も交通事業に担わせるのか。さらに、どの程度のサービス水準を確保し、利用者が負担できる運賃まで政策の対象とするのか。3 本目のエピソードでは、3本の論考を手がかりに、こうした選択を考えます。
公共交通の政策目的 ― 追加要件と移動サービスのトレードオフ(Works in Progress)
Works in Progress の「American transit is bad because of scope creep」をもとに、公共交通に排出削減、地域雇用、住民参加など複数の政策目的を持たせたとき、費用や時間が増え、実際の運行に使える資源が減る可能性を紹介します。記事は、こうした政策目的の拡大と移動サービスの提供との間に、トレードオフが生じ得ると主張します。
エピソードでは、車両の仕様を高める場合と運行本数を増やす場合を例に、予算上把握しやすい費用だけでなく、便がないことで失われる仕事や活動への参加機会も考慮する必要があると議論しました。また、移動が増える場合でも、自動車から公共交通へ移るケースと、これまで外出できなかった人が移動できるようになるケースでは、排出量への影響が異なることを取り上げています。日本の事例としては、公共交通を廃止した場合に病院送迎やスクールバスなど別部門で必要になる費用を捉えるクロスセクター効果、運転手不足、学校や病院の集約に伴う移動需要、バスを優先する道路運用などを議論しました。公共交通の多面的な価値を評価することと、交通事業者に追加の仕事や条件を求めることを分け、必要なサービス水準、実現方法、追加条件に伴う費用や人員を順に確認することが論点となりました。
公費とサービス水準 ― 利用者が受け取る交通をどう定めるか(Reason Foundation)
Reason Foundation の「International transit systems show practical lessons to improve US transit」をもとに、公共交通へ公費を投入するとき、その資金によってどのようなサービスを提供するのかを具体的に定める考え方を紹介します。記事は、ハンブルクの地域調整、スイスにおける行政と事業者の運行内容・費用に関する合意、ロンドンでの利用者の遅延を踏まえた保守、オランダでの事業者比較などを紹介し、公的資金と提供するサービス、実績評価を結びつけることを提案しています。
エピソードでは、個々の会社や路線だけでなく、自宅から目的地までの乗り継ぎを含む移動全体を評価する視点を議論しました。サンフランシスコ・ベイエリアの共通パスの実証では、対象となった学生の公共交通利用が平均30%増え、事業者をまたぐ乗り継ぎも増えたことを紹介しています。また、事業者間で費用と収入をどう配分するか、複数年の運行を約束する場合に行政と事業者が何を合意するか、設備投資を利用者の遅延や運休の改善とどう結びつけるかを考えました。日本では、一定の区域について自治体と事業者がサービスと費用を協定するエリア一括協定運行事業や、松本地域の取り組みを取り上げ、サービスを購入する側にも、費用を分析し、契約内容を検証・修正する専門性が必要になることを議論しています。
運賃と生活費 ― 移動できる価格をどう支えるか(New Economics Foundation)
New Economics Foundation の「Getting moving on the cost of living: A plan to bring down bus and rail fares」をもとに、公共交通の運賃を生活費と移動機会の問題として捉えます。報告は、英国で公共交通運賃が物価全体を上回るペースで上昇していることを背景に、バス運賃の上限設定、25歳未満の無料化、鉄道との共通パスなどを提案しています。また、バスの値下げによる便益は低所得層に多く届く一方、鉄道の割引では高所得層の取り分が多くなると分析しています。
エピソードでは、運賃を下げた結果を利用回数だけで評価することの限界を議論しました。米国の低所得世帯を対象とした研究では、無料運賃によって公共交通の利用は増えた一方、移動全体の回数が増えたという結果は得られず、必要な移動を行いやすくなったという本人の評価は改善していました。そこから、すでに行っている通勤や通院の費用負担が軽くなることと、これまで断念していた移動が可能になることを分けて捉えています。また、月額パスの先払い負担と、利用額に応じて自動的に上限を適用する仕組みの違い、運賃やサービスが継続するという見通しが、車の保有や買い替えの判断に関わり得ることも考えました。日本については、利用者の運賃負担を軽減しながら、事業者が運行を続けるために必要な収入や人員をどう確保するか、地域ごとに必要な移動とサービスを公的負担とあわせて定めることについて議論しています。