「Mr.復興」 藤沢烈氏が語る、変わる日本の社会課題と政策人材(中編)
シリーズ「政策起業家Retrospect&Prospect」
藤沢氏へのインタビューの中編にあたる今回は、本シリーズで焦点を当てる政策人材/政策起業家としてみた、社会事業コーディネーターのキャリアを巡る質問を伺います。
社会課題の解決と政策人材−社会事業コーディネーターに必要な能力とは?
−−前編で伺ったRCFでの社会事業コーディネーターのお仕事は、とても魅力的な一方で、行政や企業とも連携する高度なスキルが必要に思えます。社会課題に向き合う職業選択・キャリアパスとして、この世界に飛び込む上で、どういった能力が求められますか?
まず、私たちNPOは、「善意・無償のボランティア団体」という認識が日本の中ではまだまだ強いようです。しかし、社会課題の解決に携わるNPOの仕事は、極めて高いプロフェッショナリズムを求められることを、まずはご理解頂きたいと思います。
その話は大切な話なので、幾つか段階を分けて、話をさせてもらいたいと思っています。
行政・企業の方々と連携する上では、公益性を体現する高い専門性と倫理観が求められ、それはNPOと名乗った瞬間に身に着くものではありません。経営面でも、NPOは経済性と社会性の双方を追求しなければいけないので、持続的な運営をする上では、上場企業並みの運営能力が必要とも言えると考えています。
米国のコンサルティング会社の事例では、NPOに貢献するいわゆる「プロボノ」は、新卒社員には許可されておらず、コンサルタントとして一人前となったマネージャー級以上しか許されていませんでした。世界的に見れば、そのぐらい高度なプロフェッショナリズムが求められるのが私たちのいる世界です。
−−なるほど。そうすると、やはり新卒ではなく、セカンド・サードキャリアで、専門性を身に付けてから業界に飛び込んでこなければならない職業のイメージでしょうか?
その意味で、これまで新卒職員は採用してこなかったことは事実です。ただ、これからは、ファーストキャリアで飛び込んでくる人たちの採用も考えていきたいとは思っています。RCFとしてある程度内部で育成する仕組みが整いつつあり、また職業として高い専門性と倫理感が求められるからこそ、内部でしっかりと育てなければならない、ということですね。
−−具体的に、仕事の中で求められるスキルはありますか?
事業化に必要なスキル=マネジメント能力やコミュニケーション能力、問題解決能力。
制度化に必要なスキル=各種の既存制度への知識を持ちつつ、機能する改革案や新制度を設計しうる政策立案能力と、その案をカタチにし機能させるため、各省庁やステークホルダーを巻き込み、動かす政策推進能力。
ここまでにお話してきた「事業化」と「制度化」という整理で、それぞれお話すると、事業化は、ビジネススキルと似たものですね。省庁や企業などとのステークホルダーとの間で、お金が動く案件を、複数名で推進するためのマネジメント能力やコミュニケーション能力、問題解決能力といったものだと思います。コンサルティング会社や、事業会社でのそれとある程度共通するものだと思います。
制度化は、官僚の方々のスキルセットに近いです。各種の既存制度への知識を持ちつつ、機能する改革案や新制度を設計しうる政策立案能力と、その案をカタチにし機能させるため、各省庁やステークホルダーを巻き込み、動かす政策推進能力です。こちらは、なかなかまだ一般の企業では馴染みのないスキルかもしれません。
−−どちらもなかなか、ハイレベルかつダイナミックなスキルですね。
これまでは、中途で採用した企業経験者が制度化を学ぶか、官僚経験者が事業化を学ぶか、というパターンが基本でしたが、新卒で入る場合は、働く中でこの2つの両方を同時に修得していかなければならないので、少し時間もかかり、大変な部分も多いかもしれません。
ただ逆に身に付けられるスキルが高度で多様なので、その後のキャリアの選択肢も大きく拓けていくと考えています。私たちの仕事での経験を活かして、20代でNPOを立ち上げたり、政治家の方の政策アドバイザーとなったり、あるいは営利企業におけるCSR/CSV担当、政策渉外のような仕事でもその力は活かせると思っています。
−−心構えの面ではどのようなものを、この世界に飛び込んでくる人たちには期待しますか?
今お話しした「キャリアパスの選択肢が広がる」という点と関連しますが、何となく社会を良くしたいという問題意識に加え「自分がどういったキャリアを築き、何をしたいか」といった目標を持って飛び込んできて頂けると良いと思います。ここを巣立ち地方議員になりたいとか、福島や特定の地域に根を張りそこの課題を解決したいとか、あるいは、水産業支援などの特定のテーマになりたいとか、何かしら、自分が目指したいキャリアの方向性があると、仕事をする上でのモチベーションが維持しやすいのではないかと思います。
−−NPOの仕事というのは、日本ではボランティアのイメージが強いとありましたが、例えば待遇面などから見た時、この業界は安定的なキャリアを築けるものなのでしょうか?
2017年に新公益連盟で調査を取らせて頂いた結果ですが、私たちを含め多くの団体が一般的な中小企業水準までは来ていて、十分に生活をしていける職業であると思います。営利性のみを追求できない制約もあり、大企業に比べれば、八割程度の給与水準にはなりますが、逆にいえば非営利セクターであるからこそできる経験、そこから、次へと広がっていくキャリアの可能性を考えた際に、可能性を感じて貰えるとよいなと考えています。
組織・セクターを超え、ステップアップするキャリアを築く
−−この世界に飛び込んできた若い人たちには、RCFの仕事の経験を踏まえて、別の組織に羽ばたいてより多くの経験やスキルを積んでいってほしいということでしょうか?
日本社会におけるセクターを超えた人材の流動性は、意識的に高めていきたい。
そうですね。日本社会におけるセクターを超えた人材の流動性は、意識的に高めていきたいですし、そのようなキャリアを応援したいと思っています。私を含めて、何人か政府の審議会などの委員職を経験している人間はいますし、最近だと、元々は国土交通省で働いていたある職員が、経済産業省に中途採用されて官公庁に戻っていくという、面白いキャリアパスをたどった方もいます。官庁も中途採用を徐々に受け入れるようになってきているので、そういったポストにここから巣立っていければよいとも思います。
最近だと、文部科学省から公益兼業・副業で来てくれている職員の方もいらっしゃいます。また新卒社員ではないですが、うちで働いていた学生インターンの子達の7割以上は、ここでの経験を活かして経済産業省、厚労省など、それぞれの政策領域で活躍してくれています。メディアの報道から、官僚にはネガティブなイメージもありますが、若いうちに制度を学び、様々な経験を積む上では、悪くないキャリアパスの一つです。
また余談ですが、自民党青年局の研修会に講師として呼ばれた際に、地方議員の方が沢山お越しになっており、彼ら彼女らの社会課題解決への関心の高さが印象的でした。現在の渋谷区長の長谷部健さんもそうですが、地方議員の立場でありつつ、自身でNPOを運営し、議員の立場で課題を発見しながらNPOの立場で事業化・制度化を推進する―政治家でありながら社会起業家でもある―「政治家2.0」ともいえる新しいキャリア像も最近出てきました。そういったキャリアを歩む人たちも、今後増やしていきたいと思っています。
後編にあたる次回は、日本政策形成過程における非営利セクターの課題・展望や、より広い意味での今後の日本社会における政策人材キャリアを巡る展望などを、クローズアップします。