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党派的対立の激化によって、非営利団体の政治的議論への関与が減少している − 新しい研究(ヘザー・マキンドー、ルイス・フォーク、ミレイ・キム)

PEP では、政策起業に関連した英語記事を翻訳して発信する翻訳コンテンツを定期的に発信しています。
今回は、非営利のオンラインメディアサイト The Conversation から、以下の記事をお届けします。
翻訳元:Heather MacIndoe, Lewis Faulk, Mirae Kim. Rising partisanship is making nonprofits more reluctant to engage in policy debates − new research. The Conversation. 2024/10/29.

pexels-pixabay-68510政治的対立を恐れて非営利団体は口をつぐんでおり、対立的な政治が社会福祉団体による公共政策への関与を妨げています。これは、非営利団体、財団、企業の寄付プログラムの連合体であるインディペンデント・セクターのために我々が実施した新しい研究の発見の一つです。

慈善非営利団体が政治候補者の支持を表明することは法律で禁じられていますが、慈善団体は、自らの活動に関連する問題に結びついたアドボカシーやロビイング活動、公共活動に少なくとも一部は関与することが許可されています。例えば、地域の食料不安についてイベントを開催するフードパントリーや、計画中のホームレスシェルターの拡大に干渉するような区画整理の変更提案について、ホームレスシェルターの責任者が議員にロビイング活動を行うことが該当します。

非営利団体のアドボカシーとは、政府の政策に影響を与えようとする試みです。これには、ロビイング活動のほか、問題についての一般認識を高めるためのイベントの主催、調査の実施、団体に影響を及ぼす政策についての市民教育など、情報共有活動が含まれます。

私たちは、非営利団体研究する研究者として、非営利団体の政策への関与について学ぶために多様な非営利団体のリーダーを対象にインタビューを行いました。

私たちがインタビューした全国の社会福祉非営利団体の40人のエグゼクティブ・ディレクターの中には、アドボカシーに関与したことのある人もいれば、そうでない人もいました。これらのグループの規模は様々で、設立時期も異なっており、赤い州(訳注:共和党支持傾向が強い州)、青い州(訳注:民主党支持傾向が強い州)、紫の州(訳注:両党の支持率が拮抗している州)に所在していました。

私たちのチームは、これらのインタビューを通じて、非営利団体のアドボカシーの減少の原因の一部を特定しようとしました。

これらの非営利団体のリーダーの中には、専門知識が不足している、またはアドボカシーに関する制約を十分に理解していないと述べた人が少数ながらいました。また、多くのエグゼクティブが、党派性や政治的分極化についての懸念を表明していました。

このような対立がアメリカ生活の最も地域的な側面にまで浸透しているため、多くのフードパントリー、ホームレスシェルター、その他の社会福祉非営利団体は、地域社会のメンバーや寄付者から党派的と見られるかもしれないような政策立場をとることをためらっています。

イスラエルとパレスチナに関するソーシャルメディアへの投稿が誤解を招き論争を引き起こしていた際、その投稿に対処していたある法律サービス非営利団体のリーダーはこう述べました。「アメリカ人としての私たちがより分極化するほど、オープンな会話をすることが難しくなります。」

他の非営利団体は、政策問題に関与することのいかなる結果も恐れていました。

「非営利団体は時折、政府関係者との関与を恐れています」と、ある食料安全保障非営利団体のリーダーは述べました。このアドボカシーが当局による「何らかの形の報復」につながるかもしれないからです。

もう一つの懸念は、アドボカシーが非営利団体のリーダーの立場に反対する寄付者を疎外するかもしれないということでした。

「もはや中間的な立場というものは存在しないかのようです。」と緊急宿泊施設のエグゼクティブ・ディレクターは述べました。また、政治的分極化によって理事会でより多くの分断が発生しており、寄付者の喪失にもつながっていると語るディレクターもいました。このような理由により、多くの課題について非営利組織が公に立場をとることが困難になっています。

 

この研究の重要性

この研究は、非営利団体のアドボカシーとロビイング活動が過去20年間で減少したことを示す以前の研究を踏襲したものです。

極端な党派性は民主主義を弱体化させ社会関係を侵食します

この動向は特に懸念すべきものです。なぜなら、慈善非営利団体は、アメリカ社会で声を持たない多くの人々の声として機能することが多いからです。

その結果、非営利団体が政策プロセスに参加しないと、これらの声は聞かれず、そのニーズが満たされない可能性が高くなります。というのも、非営利団体などで活動し直接的な専門知識を持つ人々が、その非営利団体のサービスの必要性をそもそも減少させうる政策について意見を表明しなくなるからです。

とある非営利団体のリーダーはこう述べました。「最も声高に主張を行う人々の意見が政府まで届きます。そして、私たちが支援する人々はその声を持っていません。」

 

まだ分かっていないこと

非営利セクターによる長期的な関与に分極化がどのように影響するかはまだ分かっていません。

実際、これらの組織の一部は過去5年間でアドボカシー活動を強化し、政策関与に対する抵抗から組織を保護するために戦略的なステップを踏みました。例えば、サービスの受益者の利益を代表するような政策姿勢をとることに反対する理事を交替させるなどの措置です。

これらのダイナミクスをより深く理解し、非営利団体が長期にわたる論争的な政治的談話にどのように対応するかを理解するには、今後の研究が必要です。

この記事の翻訳にあたり、翻訳許可を本記事の著者から取得しています。
 
著者:
ヘザー・マキンドー (Heather MacIndoe):マサチューセッツ大学ボストン校准教授
ルイス・フォーク (Lewis Faulk):アメリカン大学准教授
ミレイ・キム (Mirae Kim):ジョージ・メイソン大学准教授
 
翻訳・監修:野澤
The Conversation