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『Focused Research Organization (FRO) とその可能性』オンラインイベント 実施レポート

新しい研究機関『Focused Research Organization (FRO)』とその可能性 0-15 screenshot

政策起業家プラットフォーム(Policy Entrepreneur's Platform、以下 PEP)は、2026年2月5日(木)に、オンライン公開イベント『新しい研究機関 Focused Research Organization (FRO) とその可能性』を開催しました。

本イベント絵は、研究開発における新たな組織モデルである FRO について、研究・政策・ビジネスの各分野から登壇者が集い、その概要、背景、そして日本における応用可能性を議論したので、レポートします。

イベント概要

項目 内容
日時 2026 年 2 月 5 日(木)19:30 - 21:00
形式 オンライン配信(YouTube Live
登壇者

濱田 太陽(株式会社アラヤ)

茂木 良平(ポンペウ・ファブラ大学)

馬田 隆明(公益財団法人国際文化会館 PEP ディレクター)

Focused Research Organization (FRO) の概要(馬田)

冒頭では、PEP ディレクターの馬田が、本人のブログ記事を元に FRO の概要を紹介しました。

近年、論文数は増加しているものの、革新的・破壊的な論文は減少しているという「生産性のパラドックス」が指摘されています。この問題の根本原因が、研究者個人の能力ではなく、研究を取り巻く構造にこそある、という議論があります。具体的には、論文数に偏った評価軸、一部の研究者への資金集中、大規模エンジニアリングに不向きな研究室単位の組織構造などが、イノベーションの創出を阻害しているのではないか、といった世界の議論を紹介しました。

こうした課題に対する新しい解決策として提案されたのが Focused Research Organization (FRO)です。FRO は、期限付きのチームを編成し、特定のミッションに向けて公共財(ツール、データセット、インフラ等)を開発する、「非営利テックスタートアップ」とも呼ばれる組織モデルです。一般的な研究室とは異なり終わりが設定されている点、また営利スタートアップとは異なり公共財を生み出す点に特徴があります。

事例として、Convergent Research での宇宙対称性ミラーの検証ツールとしても使われることが検討されている Lean FRO、ブレイン・コンピュータ・インタフェースの FRO から営利スタートアップとしてスピンアウトした Merge Labs などが紹介されました。また、2015年に非営利として設立された OpenAI も、ある意味で FRO 的な存在であったと指摘しました。

日本においても、研究費の総額を増やすだけでなく、その配分の仕方を変えて FRO のような仕組みに予算を振り向けることで、研究の生産性を向上させられる可能性があると述べました。さらに、博士人材の修了先としての FRO の可能性や、米国 NSF の Tech Labs Initiative を日本が参考にできる点にも言及しました。

FRO が受け入れられた時代的背景(濱田氏)

続いて濱田氏が、FRO が生まれた時代的背景をメタサイエンスの観点から解説しました(関連資料)。FRO の発案者であるアダム・マーブルストーン氏は神経科学領域の研究者であり、著名な神経科学者エド・ボイデン氏らとの議論の中から FRO のアイデアが生まれたと紹介しました。

2000年代後半から2020年代前半にかけて、米国を中心にConvergent Research、Astera Institute、Arc Instituteなど、新しい形態の研究機関が次々と立ち上がりました。この背景には、2010年代の再現性の危機やオープンサイエンス運動、データサイエンスの普及があり、さらに Templeton World Charity Foundation をはじめとするフィランソロピー組織の支援が大きな役割を果たしました。

特に注目すべき点として、2019年には米国においてにプライベートな財団による科学研究支援の総額が、NIHやNSFといった公的機関のグラント総額を超えたという研究結果を紹介しました。IT業界の富裕層が自らの技術的知見を活用してフィランソロピーを透明化・効率化していく流れが、新しい研究機関の誕生を後押ししていると分析しました。

また、米国の Small Business Innovation Research(SBIR)プログラムがFROの先駆的モデルであったとし、国が主導してスタートアップを支援し研究成果を市場に橋渡しする仕組みを、民間主導でより機動的に行うのが現在のFROであると整理しました。

少子化 FRO 構想(茂木氏)

茂木氏は、スペインのポンペウ・ファブラ大学で少子化を専門に研究する立場から、社会科学分野における FRO の可能性を論じました(関連ブログ記事)。

茂木氏は自身の経験として、質の高い研究を行えば政策に活かされるだろうと期待していたが、「待てども待てども誰も読んでいない」という危惧を覚えたと率直に語りました。この経験から、研究を届け、解釈の仕方まで含めて提供するという活動を始めたと紹介しました。

社会科学系のFROにおいては、テック系FROのように「研究セクターと市場の橋を架ける」だけでは不十分であり、3つのステージが必要であると提案しました。

第1に「橋を架ける」(研究と社会実装セクターをつなぐ発信)、第2に「橋を整備する」(行政や企業のマネジメント層と研究知見の解釈・活用を一緒に考える)、第3に「橋に向かう道路を作る」(研究者には社会課題解決のために研究があることへの気づきを、行政にはエビデンスに基づく政策立案の可能性を知らせる)です。さらに、この3つのステージが一方通行ではなく循環していくことが理想であると述べました。

ディスカッション:主要な論点

後半のディスカッションでは、登壇者3名は参加者のコメントを交えながら、多角的な議論を行いました。

日本における資金調達の課題と可能性:米国では民間のフィランソロピーがFROの主要な資金源となっていますが、日本ではそうした寄付文化が根付いていません。一方で、気候変動など世界共通の課題に取り組むFROであれば、海外の財団から資金を得られる可能性があるという指摘がありました。また、AIセーフティ分野では海外の資金が日本の研究機関にも流れてきた実績があり、アジアでFRO的な活動を行う人材が求められているという声もあるとの報告がありました。

ムーンショットとの比較:日本の内閣府ムーンショット研究開発制度との比較も議論されました。ムーンショットは発想としては近いが、研究者が複数のプロジェクトを兼任している点、ボトルネック解決に集中しているとは言い難い点、機動的でないがゆえに技術環境の変化への対応が遅れてしまう点などの課題が指摘されました。FROとの本質的な違いとして、独立した組織としてのインセンティブ設計やミッションの明確さが挙げられました。

評価制度の問題:アカデミアにおける論文数中心の評価制度がFRO的な活動を阻害しているという問題意識が共有されました。FROのような組織が生まれることで、既存のアカデミアの評価制度や研究者のあり方にも変化を促す可能性があるかもしれないという期待が語られました。一方、社会的インパクトの定量的評価は、営利企業の利益やアカデミアの被引用数のような明確なKPIがないため、組織全体のモチベーション維持が課題になりうるという点も議論されました。

FROの始め方:「どう始めればいいのか」という参加者からの問いに対し、3つのアプローチが示されました。第1に、財団等から小規模な資金を得て、まずボトルネックとなる課題を特定するところから始める方法。第2に、政策的にFRO的な仕組みを提案し、2~3年後の制度化を見据えて実証を行う方法。第3に、Convergent Researchのようなバックボーン組織(中間支援組織)を日本にも作り、FROの立ち上げを支援する体制を整備する方法です。

PEP スタッフからの所感

本イベントでは、科学技術研究における構造的な課題と、それを解決するための新しい組織モデルとしての FRO について、約1時間半にわたる充実した議論が行われました。特に印象的だったのは、FROが単に自然科学やテック系の文脈にとどまらず、少子化などの社会課題にも応用可能な枠組みであるという視点です。

日本において FRO を実現するためには、資金調達、評価制度、人材のキャリアパスなど多くの課題がありますが、「研究費を増やすだけでなく、配分の仕方を変えることがイノベーションのイノベーションにつながる」という議論は、今後の科学技術・イノベーション政策を考える上で重要な視座を提供するものだったのではないかと思います。

登壇者からは、次のステップとして Convergent Research の関係者との対話を進めることや、日本版 FRO の可能性をさらに探索していくことへの意欲が示されました。

PEP としても、研究と政策、そして社会をつなぐ新しい仕組みづくりに引き続き注目してまいります。

当日の動画はこちらからご覧いただけます。

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