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「海底電力網で接続された洋上風力発電所は、東海岸の電力供給方法を革新する可能性がある」(タイラー・ハンセン、エイブラハム・シルバーマン、エリザベス・J・ウィルソン、エリン・ベイカー)
今回は、非営利のオンラインメディアサイト The Conversation から、以下の記事をお届けします。
翻訳元:Tyler Hansen, Abraham Silverman, Elizabeth J. Wilson and Erin Baker, Offshore wind farms connected by an underwater power grid for transmission could revolutionize how the East Coast gets its electricity, The Conversation, 2024/7/31
洋上風力発電は、クリーンな電力を大量かつ安定的に沿岸部に供給する可能性を秘めています。沖合に風力発電所を建設すれば、2040年に予測される世界の電力需要の11倍を満たすことができると見積もっている研究もあります。
米国では、こうした発電を行うには東海岸が理想的な場所です。しかし、電力を必要とする都市や町に洋上風力発電所からどう電力を供給するか、という問題もあります。
誰もが安定した電力を家庭や会社で使いたいと願っています。一方、そのために必要な送電線の建設を支持する人はほとんどいません。これはアメリカ国内でも国際的にも常に問題となっていますが、より多くの電力を使用するネットゼロシステムに向けて各国が取り組みを加速する際に、ますます大きな課題となっています。
米国エネルギー省と北東部10州は、「地域間送電に関する北東州共同委員会(Northeast States Collaborative on Interregional Transmission)」に参加し、変革の可能性を秘めた解決策、すなわちオフショア送電網の計画に取り組んでいます。
洋上の基幹送電線が伝送網や陸地の送電線の接続数を減らすことができます。イラスト:ビリー・ロバーツ、NREL
この送電網の中核となるのは、ノースカロライナ州からメイン州までの東海岸沖の基幹送電線です。この区域ではすでに数十の洋上風力発電所の計画が進行中です。
この計画では、2050年までに少なくとも85ギガワットの洋上風力発電をサポートすることを想定しています。これは、現在の風力発電の電力量0.2ギガワットを大きく上回り、今世紀半ばまでに110ギガワットの風力発電を設置するという米国の目標に近いもので、4000万世帯分の電力を供給するのに十分な量です。北東部諸州の共同体は2024年7月、複数州による覚書により、この目標を正式に決定しました。
エネルギー省、調査会社ブラトル、その他のグループによる新たな研究によれば、オフショア送電網によって陸上に送電線を新設する際の重要な課題を回避することができ、洋上風力発電のコストが削減される可能性があります。
コストカットは良いニュースになるでしょう。というのも、洋上風力発電プロジェクトのコストは2021年から2023年にかけて50%も上昇しているからです。インフレや世界的なサプライチェーンの混乱などといったコスト高の根本的な原因はいくつか沈静化しているものの、金利は依然として高く、洋上風力発電業界はまだ米国で安定した足場を築けていません。
オフショア電力網とは何か?
今日の洋上風力発電プロジェクトでは、各洋上風力発電所が個別に陸上送電網に接続される、ポイントツーポイント(放射状)設計が採用されています。
この方式は、プロジェクトが数件しかない地域であれば有効ですが、ケーブル配線やその他のインフラのためにすぐにコストがかさみます。また、送電線は地域社会や海洋生物に悪影響を与え、オフショア送電網よりコストのかかる沿岸の送電網のアップグレードが必要となってしまいます。
複数の洋上風力発電プロジェクトの連携に基づいて作られるオフショア送電は、エネルギー省が「メッシュ型」あるいは「バックボーン型」と呼ぶ設計を取ることでこれらのコストの多くを回避することが可能です。
多くの洋上風力発電所は、陸地に個別に接続するのではなく、共有送電線に接続され、戦略的に配置された「相互接続ポイント」を経由して陸上送電網に接続されます。こうすることで、洋上風力発電所で生産された電力は、東海岸の中で電力を最も必要とする場所に送られることになります。
大西洋の大陸棚沿いのいくつかの海域は風力発電の開発のために貸し出されています。アメリカ内務省、2024
さらに良いことに、陸上で発電された電力もこれらの共有送電線を通じて送電され、必要な場所にエネルギーを送ることができます。これによって送電網の強靭性は上昇し、特に東海岸で認可を得るのが難しいことで悪名高い陸上送電線の必要性を減じることが可能となるのです。
大規模なオフショア送電は、洋上風力発電の計画・開発に関する米国の初期の議論の一部でした。2000年代後半、グーグルとそのパートナーがオフショア送電プロジェクトである大西洋風力コネクションを初めて提案したとき、オフショア再生可能エネルギーとエネルギーシステム全体の両方に及ぼす利点は大変魅力的なものでした。当時、米国では電力会社規模の洋上風力発電プロジェクトが1つだけ計画されていたのですが、結局失敗に終わってしまったのです。
現在、米国では53ギガワット規模の洋上風力発電プロジェクトが計画・開発されています。私たちはエネルギー研究者として、洋上風力産業が大規模に成功するためには大規模なオフショア送電網が重要であると考えています。
オフショア送電網は予算を節約し、悪影響を減らすことができる
洋上風力発電所や陸上発電所からの電力をより多くの場所に送電できるようにすることで、大規模な送電による送電網の強靭性は高まり、最も必要とされる場所に電力を届けることができるようになります。これにより、より高価で、多くの場合に汚染をたくさん引き起こす発電所の必要性を減らすことができるのです。
2024年に国立再生可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Lab)が発表した報告書によると、標準的なポイント・ツー・ポイントの設計と比較した場合、大規模な設計によるメリットはコストの約3倍になるといいます。
ヨーロッパ、イギリス、ブラトルにおける研究ではさらなる利点が指摘されています。例えば、温暖化に繋がる二酸化炭素排出量は削減され、送電線が海岸を横断する回数は3分の2になり、送電ケーブルの必要距離は35〜60%削減されます。
3つの送電設計は、いくつかの陸上接続を持つ地域内システムと、地域間およびバックボーン設計の違いを示しています。この3つは、大西洋洋上風力発電の送電調査において、国立再生可能エネルギー研究所によって調査されたものです。イラスト:ビリー・ロバーツ、NREL
米国では、オフショア送電線はほとんど連邦海域に敷設されるため、陸上プロジェクトに関連する多くのトラブルを回避できる可能性がありますが、それでも課題は残るでしょう。
課題と次のステップ
オフショア送電網の建設のために、いくつか重大な変革が起こる必要があります。
第一に、政府のインセンティブを変えることです。連邦政府による洋上風力発電への投資税額控除は、プロジェクトの初期資本コストの少なくとも30%をカバーするものですが、現在のところ、複数プロジェクト間の送電設計の費用補填には役立ちません。
第二に、計画は最初から全員の利害を考慮する必要があります。大規模な送電設計の全体的な便益は総コストを上回りますが、誰が便益を受け、誰がコストを負担するかが重要です。例えば、発電コストが高い発電事業者ほど収入が少なくなる可能性があり、オフショア電力開発に脅威を感じる地域社会もあります。
第三に、地域送電網への送電と地域送電網からの送電を行うためには、関係者間でより大きな調整が必要となります。連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission)が最近発表した指令1920は、電力供給事業者に将来のニーズに対する計画を義務付けるもので、送電網計画のための青写真として役立つかもしれませんが、3つの地域にまたがる十数州を結ぶオフショア基幹送電網のような地域間プロジェクトには適用されません。
ニューイングランド地方の州では、洋上風力発電産業によって経済成長しています。コネチカット州のニューロンドンの桟橋では、ブレードの出荷準備が行われています。エリザベス・J・ウィルソン、CC BYーND
2024年3月、米国初の電力事業者スケールの風力発電所であるサウス・フォーク・ウィンドが完成し、米国の洋上風力発電容量は200メガワット近くに達しました。現在、さらに8つのプロジェクトが建設中、もしくは建設が承認されています。建設されれば、設備容量は13ギガワット以上になり、これは石炭火力発電所三十数基分に相当します。
オフショア基幹送電網は、洋上風力発電の開発と東海岸のエネルギー需要を何世代にもわたって支えることができるようになるのです。
監修:野澤