PEPでは、学生の政策起業活動を表彰する「PEP 学生政策起業コンテスト 2024」を行い、10月14日に本エントリーを締め切りました。...
学生政策起業コンテスト 審査のポイント
学生政策起業コンテストの審査のポイントについて詳しくお伝えします。
PEP では現在、学生政策起業コンテストのエントリー受付をしています。
このコンテストでは、学生のみなさんが実際に考え、行動した政策起業活動についての発表を募集しています。
既にコンテストのページに掲載していますが、今回の記事では審査のポイントについてもう少し詳しくお伝えしたいと思います。政策起業活動を進める際にも、留意していただくとより良い活動になるかと思いますので、ぜひご参照ください。
政策提言のアイデア
大きな課題に取り組んでいるか?
「あなたの取り組む社会課題は大きな課題ですか?」というと、「貧困や気候変動のような世界的な課題でないとダメなのでしょうか?」という質問を受けることがあります。
貧困や気候変動は確かに世界的な課題ですが、大きな課題=世界的な課題というわけではありません。
では、課題の大きさ、とはなんでしょうか?
いろいろな考え方があると思いますが、PEP では「課題の広さと深さの掛け算」と定義したいと思います。
広さと深さとは、具体的に書くと、
広さ=その課題に困っている人がどのくらい多いか?
深さ=その課題にどのくらいどんなふうに困っているか?
ということであり、課題の大きさはこの積で決まると考えています。
そして、課題が大きければ大きいほど、解決された時のインパクト、ここでは良い影響が大きくなるのです。
ビジネスの世界でのよくある尺度として市場規模があります。これは、特定のビジネス分野における市場(売上額や販売数量)の大きさを指す言葉であり、一般的には業界ごとの年間売上高に基づきます。
売上高も要素を分解すると、例えば顧客数×単価で表すことができます。そして、取り組むビジネスを考える際には、まずそのビジネスが対象とする市場規模が十分大きいか?を考えるものです。
なぜ、こうした課題の大きさや市場規模の大きさを考える必要があるのでしょうか。
その一つの理由は、使えるリソース(資源)に限りがある中で、取り組みの優先順位を考える必要があるからです。
「何かをやりたい」と思ったらすぐに成果が出るわけではありません。リソース、つまりお金や人手、時間が必要です。
特に、政策起業の場合は、あなただけが動けば良いわけではありません。あなたの動かしたい政策の担当者や担当課の方に興味を持って動いてもらう必要があります。しかし、彼ら彼女らには既にたくさんの仕事があります。その中で、あなたの提案に耳を傾けていただき、検討したいと思ってもらえるようにしなければ物事は進みません。
そこで、「なぜその課題に取り組む必要があるのか?」という点の説明が重要になってきます。「その課題にこのように困っている人がこのくらいいるので、解決されるとこのくらいの良い影響がある」ということを理解し、納得していただければ、検討を進めていただける可能性は高くなります。
課題の大きさを人に伝える際に、もう一つ意識していただきたいことがあります。それは、「あなたの考えている社会課題が、他の人にとっても同様に重要な社会課題であるかどうかはわからない」という点です。例えば、高校や大学で起きている課題は、同級生同士であれば詳しく話さなくても状況を理解し合えるかもしれませんが、社会人にはすぐにはピンと来ないかもしれません。
実際に政策起業を進める際にも、あなたが巻き込みたい人が必ずしもその社会課題に極めて詳しい人ばかりではありません。また、今回の審査においても、残念ながら審査員はすべての社会課題を事細かに知っているわけではありません。
そんなときに、今回述べた「こういう社会の中で、その課題にこのように困っている人がこのくらいいるので、解決されるとこのくらいの良い影響がある」と説明してもらえると、聞き手が課題に取り組む意義を見出しやすくなるかもしれません。コンテストにおいても、ぜひしっかりと説明していただけると嬉しいです。
課題の根本原因が特定できているか?
社会課題の多くは症状です。とはいえ、これでは分かりづらいかもしれません。
私たちの身体を例にしましょう。熱が出た、おなかが痛い、というような状態をイメージしてみてください。
熱が出ているときは、多くの場合原因があります。そのため、病院では問診や検査をして原因を突き止め、適切な処置をすることで健康な身体に戻すことができます。熱が出たからと言って問診もろくにせず解熱剤を渡してくる医者では、信頼は得られないですし、もしかすると重大な病気を見落としてしまうかもしれません。
社会課題もこれと同様です。つまり、課題がある=社会が不調をきたしているということです。
政策起業家にとって、この不調の原因を掘り下げ、根本原因を特定することは極めて重要です。逆に言えば、根本原因をよく考えもせず、課題をひっくり返したような政策をしてもなかなか効果は得られません。
例えば、「地方の活力低下」という課題があります。
この課題を政策で解決したい、と思うと、すぐに「活力を向上させるにはどうしたらよいか?」と、解決策を考えてしまうかもしれませんが、少しだけ立ち止まってみましょう。
「地方の活力低下」。比較的よく聞く話題かもしれませんが、なぜ起こってしまっているのでしょうか?
ここでよく挙げられる原因の1つに、「地方の少子高齢化が深刻だから」というものがあります。ではこれが根本原因なのでしょうか。
地方の高齢化が深刻である理由も様々あるかもしれません。例えば、そもそも若年層が少ない地域なのかもしれないし、子供はいても進学や就職のタイミングで地域を離れてそのまま戻ってこないのかもしれません。更に、地域を離れて戻ってこない理由もいろいろと考えられます。地方で魅力的な職に就けないからかもしれないですし、医療サービスや教育サービスが不十分だからかもしれません。
このように、課題を掘り下げていくと様々な原因が考えられます。ただ、その中でも「この原因がなくなれば一気に良い方向に回り出しそう」という根本原因があるはずです。
政策はこの根本原因に作用して課題を解決に導く手段です。ですので、この根本原因を正しく特定することが重要です。
課題の原因の掘り下げ方については、社会変革推進財団が作成している課題構造マップが大変参考になります。
このマップは、ある社会課題について、調査やヒアリングを通して情報収集をし、その構造を図示したものです。(2024年8月現在、機会格差、地域活性化、ヘルスケアの 3 分野のマップが公開されています。)
このマップの作成過程からも分かるように、課題を深く掘り下げるには文献やインターネットリサーチの他、関係者へのインタビューが大変有用です。
政策提言、というとどうしても政策作りに着手してしまいたくなってしまいますが、本コンテストでは課題を深く掘り下げ、根本原因を特定できているかどうかも重視しています。ぜひ丁寧に分析してみてください。
提案する政策が課題に対して妥当か?
根本原因が特定できたら、いよいよ解決策となる政策を考える段階です。
前項でも記載しましたが、政策は課題を引き起こしている根本原因を解消するための手段です。ですから、実行することで課題が解決する政策を考える必要があります。
すごく当たり前のことを言っているようですが、現実には課題の構造化や根本原因の特定はできていても、解決策が不十分なものとなってしまっている場合も散見されます。これを解消する方法として、解決策である政策に関するヒアリングとそれを踏まえた政策のブラッシュアップを行っていただけるとより良い政策アイデアになるかと思います。また、審査側としても、その政策に対するニーズや関係者からのコメントなどがあると、政策と課題がマッチしているという納得度が増すかもしれません。
以下は、東京大学 FoundX が参考資料 『Running Lean』 をもとに作成した、解決策の探索&検証インタビューに使える質問集を、政策向けに一部改変したものです。こうしたワークシートも参考にしながら、アイデアの検証をぜひ行ってみてください。
また、審査のポイントとは少しずれますが、実際に政策を考える場合には 1 つの政策案だけを考えるわけではなく、複数案を並べて比較しながら政策案を練り上げていくものです。そして、そのためには多くの政策の実例を知っておくことも重要になってきます。
他の地域や海外の類似の政策事例やその背景も調べて参考にしながら、政策を考えてみてください。
コスト、実現性の面で実行可能な政策か?
課題の項目でも記載しましたが、何かの活動をする際には、多くの場合常にリソース(資源)の制約があります。お金も時間も人手も、無限に使えるわけではありません。
政策起業の場合、繰り返しになりますが、あなたの政策案を実現するためには、行政機関等の担当者や担当課を動かす必要がありますが、彼ら・彼女らにしてみれば、そのような時間や予算は現状確保されていないかもしれません。
課題の項目では、そのような中でも取り組むべき社会課題である、という認識を持っていただくことが重要だという話をしましたが、どれだけ大きな課題であっても、提案される政策案が莫大な費用を要するものであったり、一部の人々に大きな負担を強いるものだったりする場合には、とてもではないかもしれませんが政策として実行することは難しいでしょう。そのため、あなたの政策案が実行可能である、ということを示すことも重要です。
例えば、既存の対応でかかっているコストを計算し、その政策を導入した方が安く済むのであれば、コスト面での納得感は得られやすいでしょう。また、多少のコストがかかっても、その地域や国全体で類似の政策にかけているコストと比較して一桁も二桁も違うというわけでなければ、「まあ妥当かな」と思ってもらえるかもしれません。
また、実現性の面では例えばある政策を実行したときに、不利益を被ってしまう人が発生したり、慣れ親しんだやり方を大きく変えたりしないといけなくなる場合に、「さすがにそれは無理だろう」と思われてしまう可能性があります。そうした反応が考えられる場合には、不利益をなくす もしくは 緩和する方法や、政策を普及するためのステップなどをあらかじめ考えておくのも良い手立てかもしれません。
プロジェクト期間の行動
十分な量・質の行動を伴っているか?
本コンテストは政策起業コンテストです。政策起業については、PEP のホームページもご参照いただければと思いますが、政策起業家は政策を立案し、その政策が採用されるように働きかけ、更に政策として取り入れられた後にも普及・活用されるように尽力することで、社会課題を解決していく存在です。そのため、頭で考えるだけでなく、行動力が必要です。
今回のコンテストにおいても、机上だけで考えた政策案ではなく、実際にインタビューや見学をして現場のリアルな状況を集めたり、実際に考えた政策に対する意見を募ったり、更にはその政策の実現に向けた働きかけをしていたりするようなプロジェクトを高く評価します。
特に、政策を実現するためには、行政職員や政治家へ意見を述べることも重要です。そして、政治家、というとなかなか遠い存在のようにも思いますが、そもそも政治家は、人々の意見を政治に反映させることが仕事であるため、自分の担当範囲の人々の声はむしろ知りたいものであり、あなたが思っているよりも話を聞いてもらえるものです。試しにあなたの住んでいる地域の担当議員を検索してみてください。多くの場合、お問い合わせフォームや連絡先が書いてあるはずです。こうしたところから丁寧に連絡することで、意外と話を聞いてもらえるものです。
もちろん、最初の連絡も含めてしっかりとした準備をすることは大前提ですが、せっかく社会課題を見つけて政策案を考えたのであれば、ぜひ実現に向けた行動をしてみましょう。(学生の政策起業プロジェクトでも政治家に会いに行っている例がいくつもあります。)
成果・トラクションがあるか?
成果とは、あることをして得た良い結果のことです。つまり、あなたのプロジェクトを実施することで得られた良い結果のことを指します。
次に、トラクションは、「牽引力」と訳されます。牽引とは、ものを引っ張ることであり、牽引力とはその力のことです。転じてビジネスでは、あるプロダクトやサービス等に対する関心や支持のことを指します。本コンテストにおいても、これと類似した意味、つまりあなたの政策案や活動に対する関心や支持があることとして考えます。
では、成果やトラクションはどのようにして得ることができるのでしょうか?
そもそも、政策起業の目的は社会課題の解決です。あなたの政策が採用され、それによって社会課題が解決されれば、それは紛れもなく成果です。しかし、実際のプロジェクトがとんとん拍子にそこまで進むことは極めて稀だと思います。ですので、「今後の目的の達成可能性」を示す、つまり、「今後、あなたの政策が実現され、社会課題を解決できそうである」という裏付けを示しましょう。
例えば、あなたの取り組む社会課題の関係者からの政策案に対する好意的なコメントや、政策担当者から「これは実現できそうだ」といった意見などがあると、あなたの政策の実現可能性がぐっと高くなります。こうした成果やトラクションを得るためにも、十分な行動は重要です。
ピッチ
分かりやすいピッチができているか?
今回のコンテストでは、書類審査を通過した方々にはピッチ審査に参加していただきます。
とはいえ、ピッチ審査ではエントリー時に提出していただく資料をもとにピッチを行っていただくので、応募するみなさまにピッチ資料を作成いただくことになります。
まず、ピッチとは、「短い時間・簡潔な言葉で相手に提案を伝えること」を意味します。プレゼンテーションと同じものだと認識されがちですが、いくつか意識していただきたい違いがあります。
プレゼンテーションは、特定の相手や顧客に対して、時間をかけて詳しい説明や提案を行います。プレゼンテーションの目的は、相手にあなたが話した情報や要点を理解してもらい、そのうえで契約や投資などの次のアクションを引き出すことです。
一方ピッチでは、短い時間で特定の分野の知識のない人に対して、あなたのアイデアを売り込みます。ピッチの目的はあなたのアイデアに興味を持ってもらい、次の機会やアドバイスをもらうことです。そのため、自分の取り組んだ全てのことを伝える必要も、聴き手に取り組みにまつわる全ての情報を理解してもらう必要もありません。重要なのは、聴き手に「あなたの取り組みをもっと聞いてみたい」「あなたの取り組みに対して何か協力したい」と思ってもらうことです。
そのためには聴き手にとって分かりやすいピッチであることが必要です。
では、分かりやすいピッチとはどのようなものでしょうか?ここでは 4 点挙げてみます。
1 点目は聴き手を意識した内容にすることです。 みなさんは、それぞれの活動の中で、テーマや課題についての理解が進んでいると思います。しかし、ピッチの聴き手はみなさんの政策領域や課題に精通しているとは限りません。課題の前提知識を飛ばしてしまったり、専門用語が飛び交ったりすると、せっかく良い提案をしても理解をしてもらえない可能性もあります。ですから、聴き手に何を伝えれば理解を深めてもらえるのか?をぜひ意識してみてください。
2 点目は聴き手が理解しやすい構成にすることです。政策ピッチの場合は、
- ○○という課題があり
- △△がその根本原因であり
- □□という政策(解決策)を実施することで解決する
というような流れで話すと、聴き手は理解しやすいです。
3 点目は言葉を明確 かつ 簡潔にすることです。制限時間の存在もあり、大量の情報が記載された資料を早口で説明するピッチも見たことがありますが、多すぎる情報は相手に伝わらないものです。ピッチはそもそも「短い時間で相手に伝える」ことなのですから、常に聴き手の立場に立って「この表現、この話し方はわかりやすいか?」を考えるようにしましょう。
4 点目は ask、つまりあなたのお願いごとをピッチ自体に盛り込んでおくことです。例えば、「○○について知りたい」「○○な人を紹介してほしい」というようなお願いごとなどが挙げられます。
繰り返しになりますが、ピッチの目的は次の機会やアドバイスをもらうことです。ask が入っていると聴き手側は反応をしやすいですし、あなたが次のステップに進むために何が必要かを認識して活動しようとしているということのアピールにもなります。また、「このお願いであれば自分にも何かできるので協力してあげようかな」と思うケースも多いような気がします。つながりのない方への接点を作るきっかけにもなる場ですので、積極的に ask するようにしましょう。
最後に、PEP では、本日 9/2(月)に学生向けの政策起業オンラインゼミを開催します。
「PEP 政策起業コンテスト」にも参考になる内容となっておりますので、お気軽にご参加ください!