(Photograph / Ko Sasaki)
zooming PEP 2020/政策起業家シンポジウム 開催概要③(個別分科会Part2:「扉を開けた先の日本」)
(Photograph / Ko Sasaki)
「zooming PEP 2020/政策起業家シンポジウム」開催概要③
2020年7月15日、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が開催した「zooming PEP 2020/政策起業家シンポジウム」の個別分科会Part2の動画・レポートです。
セッション2-A:「過去最大の”政策の窓” テクノロジーの実装」
[モデレータ] 須賀千鶴 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長
工藤郁子 東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員
桑原祐 McKinsey&Companyシニアパートナー
馬田隆明 東京大学 産学協創推進本部 FoundX ディレクター
若林恵 黒鳥社コンテンツ・ディレクター
Session 2-Aでは、コロナ禍におけるオンライン診療、オンライン教育、マイナンバーカード導入などのテクノロジー政策がどう社会に実装されていったのか、またその実装過程で表出してきた課題は何かを中心に議論を行いました。テクノロジーの分野で活躍されている方々をお呼びし、社会実装過程での政策起業家の役割の重要性なども踏まえて意見を交えていただきました。
コロナ禍で見えた社会実装の課題
桑原祐氏は、今回のコロナ禍におけるオンライン診療などのテクノロジー政策は施行を余儀なくされた「受動的なテクノロジーの社会実装」であると述べられました。それらの政策は、以前から議論の俎上に載せられており、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、その議論が加速し、「政策の窓」が開き、実装に至ったのであると語られました。
若林恵氏は、マイナンバーカードや接触確認アプリの事例を基に、「受動的なテクノロジーの社会実装」の原因として、行政府と市民社会の間の信頼の崩壊を挙げられました。政府はテクノロジー政策の目的や内容についてあまり市民に説明せず、政策自体をキャンペーンとして使用しているため、政府と市民社会間の信頼が欠落しているのであると指摘されました。その信頼の欠落により、テクノロジーの社会実装が円滑に進まないという見解を示されました。
テクノロジーの社会実装の在り方と政策起業家の役割
しかし、その信頼をどのように回復し、社会実装を行なっていくのか。
馬田隆明氏は、テクノロジーの社会実装では4つのポイントがあると述べられました。政策の目的を説明してインパクトを示すこと、実装のリスクと倫理の考慮すること、企業なども含めたガバナンス、市民に理解してもらう為のセンスメイキング。これらの4つがなければ、テクノロジーと市民社会の関係は双方向にならず、人々からテクノロジーに対する信頼を得られないと語られました。
工藤郁子氏は、信頼回復の為の最初のステップとして、多様性を保った議論の場を作る必要があると語られました。そのような場で、様々なマルチステークホルダーの意見を集め、テクノロジー政策について議論をし、合意形成をする。このような過程を通じ、市民社会や利害関係者にも受け入れられるテクノロジー実装が可能になるのではないかと語られました。
須賀千鶴氏は、利害に裏付けされているロビイストではなく、当事者意識を持ち、公益のために活動する政策起業家が、積極的にテクノロジーの社会実装過程に参加することで、社会実装も円滑に進んでいくのではないだろうかと述べ、セッションを締め括られました。
セッション2-B:「ポスト・コロナの教育の形」
登壇者:
[モデレータ] 小林りん ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事
今村久美 認定NPO法人カタリバ代表理事
福武英明 株式会社ベネッセホールディングス取締役
牧島かれん 自由民主党衆議院議員
Session 2-Bではコロナ禍で様々な対応を強いられた教育政策と現場について、そして今後の日本に必要な教育政策のビジョンについて、民間企業、NPO、そして政策に携わる方々をお招きして議論しました。
コロナ禍での教育の変化と、顕在化した教育格差。求められる政策像とは。
牧島かれん氏はまず、政府による一斉休校処置の政治的責任と影響の大きさに言及し、民間や教育政策に関連する多くの方々の尽力が大きな役割を持ったということを述べました。同時に、政策面では特にGIGAスクール構想のスピードをかなり上げていく必要があるとし、かねてより問題となっていた、世界的に見てもかなり遅れている日本の教育のICT化の重要性を強調されました。また、現在行われているような、端末などのハード面を拡充する教育政策だけでなく、それに対応した個別評価・個別最適化型教育、そして共同生活を学ぶ場としての学校の役割を如何にして両立・実現させていくかが肝要であるとお話しされました。
今村久美氏は自身のNPOで行っているオンライン教育支援事業を紹介し、その経験を踏まえ、オンライン教育を実施する上で大きく3つの弊害があると述べられました。まず①家庭に充実した通信・端末環境が整備されているか、②家庭内にテクニカルサポートができる大人がいるか、③きちんと子どもを教育コンテンツへと誘導・接続できる「学びのナビゲーター」としての大人が介在しているかどうか、という点が指摘されました。ハード面だけでなく、家庭環境や周りにいる大人のスキルによってオンライン教育の可能性は大きく左右されるとお話しされました。
また、オンライン教育支援を行い、いかに学校が子どもたちにとって大きなセーフティネットだったかを実感したと述べられました。多くの家庭が「学びの遅れ」に対する不安から声を上げる中、その声を上げることができない家庭も多く存在し、そういった家庭の子ども達にとっては学校は唯一のセーフティネットであったと指摘し、教育だけでなく人との繋がりを保障し、健康を促す役割としての先生方と学校という空間について強調されました。
子ども達の居場所を確保するには、学校という概念を拡大解釈し、地域の中で誰が教育を担うのかを明確して、学校に行かなくても学びを保障する仕組みが重要と述べられました。
福武英明氏からは、未就学児から高校生までの幅広い民間教育サービスに携わった経験からコロナ禍での教育についてお話しされました。福武氏はまず、コロナ禍で残念ながら教育格差は拡大したと言わざるをえないとした上で、教育サービスを提供するときにパソコン端末を持っていない家庭が数多くあり、冊子による教材提供も行う必要があったという事例をご紹介されました。ポスト・コロナの教育は、似たような状況になった時に対応できるような、抜本的な制度改革が必要と指摘し、また、コロナ禍の未就学児から高校生までの多様なニーズに応える教育サービスを構築・提供するのはかなり大変だったと語られました。
個別化、オンライン化など、新しい教育政策はどのようにして可能か?
牧島氏は、教育政策は比較的地方分権が進んでいる分野であると述べたうえで、地域の特性に適応した政策や、先駆的な教育政策を地域レベルで提言・実装していくことの可能性を強調されました。埼玉県の「埼玉方式」といったような個別最適化型教育の先進的な例があると、政府側としてもこれを全国化しようといったインセンティブや、教育のICT化といった教育の次のステップへと繋がりやすいとお話しされました。
今村氏はNPOの視点から、エビデンスの利用に疎いという日本のNPOの弱点を指摘し、自身が今回政策提言をするうえで利用した統計調査の活用やその手法などをご紹介されました。民間・NPOの側から政策提言をするうえで、こういった統計データ・エビデンスがないと相手にされないという現状を指摘したうえで、NPOの支援事業といったスモールスケールでのエビデンスが、もっと大きな変化につながると述べました。
福武氏は、オンライン教育サービス提供時に自治体によってかなり対応に差があったという点を指摘されました。地区によっては教育のICT化で先駆的な政策事例を出している場所もあれば、学校の授業配信自体が禁止されている自治体もあるなど、自治体がとるリーダーシップの差が、オンライン教育の導入を大きく左右すると強調されました。また、教員のデジタルスキルによっても差が生まれ、同じ学校でも担任の対応によって差が生まれることがあると指摘。この格差を埋めたとしても、親のデジタルスキルやリソースなどによって、オンラインでの教育環境に子ども達が順応できるかに大きく影響すると述べました。
教育制度に大きな影響力を持つ自治体の意欲やリーダーシップ、そしてそれを支援するような、例えばオンライン授業の単位認定の標準化、といった国の政策の必要性を強調されました。
セッション2-C:「政策の未来とメディアの役割」
[モデレータ] 林香里 東京大学大学院情報学環教授
治部れんげ ジャーナリスト
竹中治堅 政策研究大学院大学教授
山脇岳志 スマートニュース メディア研究所・研究主幹
Session 2-Cでは、コロナ禍のもとでの政策報道のあり方と、政策起業家が活躍する将来のメディアの役割について、ジャーナリスト及びジャーナリズム研究に携わる方々をお招きして議論しました。
コロナ禍における政策報道のあり方
セッション冒頭、林香織氏より、コロナ禍で浮き彫りになった日本のメディアの3つの課題点として、①全国紙・東京キー局優位体制、②ソーシャル・メディアの台頭によるメディア市場全体の商業主義の加速、③(特に諸外国で顕著だが)ポピュリズムをはじめとする意見の分極化、の3点が指摘されました。
これを受け山脇岳志氏は、ソーシャル・メディアが政策起業家にとってのチャンスである一方、コロナ禍でデマやフェイク・ニュースのような真偽不明の情報が見られたことも指摘しました。また山脇氏による、提言やアジェンダ・セッティングなど報道以外のメディアの役割を踏まえて、ジャーナリズムとアクティヴィズムの区別の指摘を受け、治部れんげ氏は、DV被害者に対する10万円給付金の解決をコロナ禍におけるメディアの改良点として挙げると同時に、休校中及び学校再開後の子どもの状態が十分注目されていないことを課題点として言及しました。
竹中治堅氏は、コロナ禍における政策報道のあり方について述べ、国レベルや都道府県ごとの政策報道は充実している一方で、コロナ対策を前線で担う都道府県や基礎自治体の施策を横のレベルで比較・検証する報道が不足していることを指摘しました。
保健所行政の報道に見る既存の報道の限界
コロナ禍の政策報道を踏まえ、林氏は保健所が政策アクターとしてクローズアップされたことに言及しました。こうした中、メディアや社会の保健所に対する注目の稀薄さを山脇氏・治部氏が述べ、竹中氏は戦後日本がパンデミックを経験せず、また地方分権改革によって保健所が基礎自治体に移管されたことを述べた上で、パンデミック対策と現状の保健行政の齟齬について指摘しました。
今後のメディアと政策報道のあるべき方向性
山脇氏はソーシャル・メディアの仮説的報道の新鮮性と伝統的メディアの慎重な姿勢について言及しつつ、情報の受け手のリテラシー向上の必要性を述べるとともに、情報の信頼性は今後とも重要であることを指摘しました。これを受け治部氏は、ソーシャル・メディアで目にした新聞記事を肯定的に評価すべきことを強調し、林氏・竹中氏は国―都道府県―基礎自治体という政府のレイヤーを超えた視野でコロナ対策を捉えることの重要性を述べました。