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気候変動と科学技術:超高温地熱エネルギー

はじめに
気候変動は人類が直面する喫緊の課題であり、その解決には、単なる政策や行動変容だけでなく、革新的な科学技術の社会実装が不可欠です。国際エネルギー機関(IEA)が 2023 年に出した「Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach」によれば、2030 年までの CO₂ 削減の大半は既に利用可能な技術で達成可能である一方、2050 年時点の削減量の 1/3 は、現在は実証・試作段階にある技術に依存するとされます。
電力分野に目を向けると、太陽光・風力などの再エネ導入が進むほど、需要の電化やデータセンターの増加も相まって、「いつでも使えるクリーン電力」の確保が重要になってきます。こうした文脈で、地熱は低排出であることに加え、天候や時間帯に左右されにくいという特性から世界的に再評価が進んでいます。
もっとも、従来型の地熱は、条件の揃った場所があるかどうかに強く依存しており適地が限られます。そこで近年、EGS(Enhanced Geothermal Systems)やクローズドループといった「次世代型地熱」が注目され、さらにその先として温度 375℃ 以上の超高温地熱(superhot geothermal)への期待も高まっています。
こうした地熱発電領域のブレークスルーは、技術的・経済的リスクが大きく、民間投資だけでは進みにくい領域でもあります。そこで米国では、2025 年に米国エネルギー省(DOE)傘下の ARPA-E が、SUPERHOT という超高温地熱に特化した R&D プログラムを立ち上げました。ARPA‑E は、民間だけでは投資されにくいハイリスク・ハイインパクトなエネルギー技術を支援する、DOE 傘下のファンディング機関です。
本稿では、超高温地熱(superhot geothermal)を中心に、技術の全体像や関連スタートアップの動きを整理します。
地熱発電の優位性
地熱発電は、気候変動対策(脱炭素)とエネルギー安全保障(安定供給)という現代社会が抱える二つの課題を同時に解決し得る電源として、世界的に注目が高まっています。
第一に、地熱発電は化石燃料火力と異なり、発電プロセスにおいて温室効果ガス(GHG)をほとんど排出しません。ライフサイクル全体の CO₂ 排出量で見ると、風力の半分、太陽光の 1/3 との試算もあり、非常に低い排出強度の電源と評価されています。
第二に、地熱は太陽光・風力と違って天候や時間帯に左右されにくく、高い稼働率で運転できる点が特徴です。AI・データセンターや電化の進展により、常時稼働するクリーン電源への需要が急増する中で、次世代地熱は「クリーンなベースロード電源」の有力候補として位置づけられています。(注1)
第三に、地熱は基本的に国内資源です。開発が進めば燃料輸入への依存度を下げ、エネルギー安全保障の強化につながります。日本は火山が多く、従来型地熱だけでも約 23.5 GW のポテンシャルを持つとされ、世界第 3 位の地熱資源国と評価されています。
こうした背景から、日本では 2025 年に「次世代型地熱推進官民協議会」が立ち上がり、超臨界地熱やクローズドループ地熱、EGS などを組み合わせて、より広い地域で地熱を活用するためのロードマップづくりが進められています。
注1:本文では読みやすさのため「ベースロード電源」という表現を用いていますが、ここで意図しているのは「常に一定出力」という意味というより、天候・時間帯の影響を受けにくく、高い稼働率「24/7 に近いクリーン電力」を供給し得るという性質です。近年は、再エネの大量導入や蓄電池等の調整力の拡大に伴い、電源の価値を「柔軟性」や「確実性(firmness)」といった観点で整理する議論も増えています。読者が想起する「ベースロード」の含意が文脈により異なり得るため、ここでは用語上の注意として補足しています。
注2:文献や機関によって、温度 375℃ 以上・圧力 22 MPa 前後(概ね水の臨界点付近)を「超高温地熱(superhot geothermal)」「超高温岩体(superhot rock)」「超臨界地熱(supercritical geothermal)」など様々に呼びます。本稿では ARPA‑E のプログラム名に合わせて「超高温地熱(superhot geothermal)」を総称として用い、流体が臨界点付近〜超臨界の状態になる点を説明する場合にのみ「超臨界」という語を補足的に用います。
地熱発電の方式:従来型と次世代型
地熱発電の方式は、大きく「従来型」と「次世代型」の 2 つに分けられます。両者の違いは、地下に自然にそろっている資源条件に頼るのか、人工的な“熱交換システム”をつくり出すのかという点にあります。(資源エネルギー庁「次世代型地熱の推進に向けて」などに詳しく書かれています。)
1. 従来型地熱
従来型地熱発電は、地下に元々存在する高温の熱水や蒸気を汲み上げて発電する方式で、地下に自然に存在する
- 十分な温度の熱
- 地下水や蒸気といった流体
- 水が流れる亀裂(透水性のある岩盤)
という三要素がそろっている場所でのみ、開発が可能です。
しかし、この三要素がそろうのは火山周辺など特定の地域に限られており、開発可能な地点は地理的にかなり限定されます。
2. 次世代型地熱
次世代型地熱は、地下にある高温の岩盤(熱源)を対象に、自然の地熱貯留層に頼らず、人工的に設計した地下システムを通じて熱を取り出す方式です。天然の流体や亀裂が乏しい場所でも利用できるため、「火山周辺に限られる」という地熱資源の地理的制約を大きく緩和し得る点が特徴です。
日本では、EGS(Enhanced Geothermal Systems)やクローズドループなどの技術を組み合わせることで、導入ポテンシャルが従来型の約 23.5 GW から少なくとも 77 GW 程度まで拡大し得ると官民協議会が試算しています。 さらに、超高温地熱(臨界点付近〜超臨界)を含む次世代型地熱だけで、理論的には数テラワット(TW)規模のポテンシャルがあるとする分析もあり、広範な地域で利用可能な基幹電源になり得る可能性が指摘されています。
代表的な次世代型のアプローチには、例えば次のようなものがあります。
- EGS(Enhanced Geothermal System)
高温だが水が通りにくい岩盤に井戸を掘り、水圧などをかけて人工的な亀裂のネットワーク(水の通り道)を作って、水を循環させて熱を取り出す方式です。 - クローズドループ
岩盤を割らずに、地下深くまで掘った井戸の中に配管(ループ)を入れ、その中だけで作動流体を循環させる方式です。配管の周りの岩盤がじわじわと熱を伝え、その熱をもらいながら流体が温まり、地上でその熱を取り出します。「地中に長いパイプを埋めて、その中の液体だけをぐるぐる回して温める」イメージです。
次世代型地熱の次の一手:超高温地熱資源(superhot geothermal)
次世代型地熱の中でも、とくに温度そのものを一段引き上げ、井戸あたりの出力を飛躍させようとするのが、「超高温地熱貯留層(super-hot reservoirs)」を対象にしたアプローチです。
対象としているのは、地下おおよそ 4〜10 kmに存在する、温度 375℃ 以上の超高温地熱資源です。SUPERHOT では、これに加えて圧力 22 MPa 以上といった条件も重視しています。このような温度・圧力条件では、貯留層に存在する流体は超臨界状態、あるいはその臨界点近傍の状態になり、通常の 200℃ 前後の地熱流体と比べ、単位質量あたりに運べる熱が大きくなります。このような高温の岩体と流体を組み合わせて利用することで、現在の商業用地熱井と比べて、1 本の井戸から取り出せるエネルギーを理論的には 5〜10 倍程度まで高められると試算されています。
一方で、この領域は技術的にはほとんど未開拓です。アイスランドや日本・イタリアなどで 400〜500℃ 級の超高温・超臨界条件に到達した試験井の事例はあるものの、掘削ビットやケーシングの損耗、セメントや鋼材の熱疲労・腐食による井戸寿命の短さ、地下の亀裂ネットワークや貯留層挙動の制御の難しさといった課題から、商業運転レベルのプロジェクトには至っていません。
SUPERHOT プログラム
SUPERHOT(Stimulate Utilization of Plentiful Energy in Rocks through High-temperature Original Technologies)は、超高温地熱(superhot geothermal)に特化した ARPA-E の研究開発プログラムです。SUPERHOT は、温度 375℃ 以上・圧力 22 MPa 以上の条件にある「超高温地熱貯留層(super-hot reservoirs)」から、持続的に地熱エネルギーを取り出す技術の開発を目的としています。
SUPERHOT は、主に次の 2 点に焦点を当てています。
1. 超高温・高圧環境でも 15 年以上もつ「頑丈な地熱井戸」をつくる技術
- ケーシング(鋼管)・セメント・仕上げ材などを、400℃ 以上でも壊れない設計にする
- 熱疲労や化学腐食、機械的な応力などを受け、井戸の寿命が数年と短くなってしまっているという課題を解消する
2. 周囲の超高温岩体から井戸内に効率よく熱を取り出す技術
- 超高温岩体の中に、長期的に安定して熱を取り出せる流路(人工貯留層や閉ループ配管)を形成する
- 井戸 1 本あたり 30〜50 MWe 級の出力を目指し、井戸 1 本あたりの熱回収量を最大化する
まとめると SUPERHOT は、理論的には 1 井戸あたり 5〜10 倍のエネルギーが眠っているが、技術的・経済的リスクが高すぎて誰も本気で開発できていない領域に対して、リスクマネーを投じ、“未開拓のポテンシャル”と“現実の技術”のギャップを埋めることを目的としたプログラムだと言えます。
次世代型地熱が直面する課題
一方で超高温地熱の実用化には、従来の地熱・次世代型地熱よりも厳しい条件が重なります。ここでは SUPERHOT との関係が大きいものを 3 つ取り上げます。
1. 温度設計の限界と経済性
EGS やクローズドループ地熱は既に実証・商用の例も出てきていますが、地質条件と機器の温度耐性の両面から、実際に利用している温度帯は 150〜220℃ 前後にとどまっています。ARPA-E のワークショップ資料でも、現状の EGS はおおよそ 250℃ 未満・10 MWe/井戸程度が上限だと整理されています。
この温度帯では、深い井戸を掘るコストに対して 1 井戸あたりの発電量が十分とは言えず、発電コスト(LCOE)も高止まりしがちです。SUPERHOT は、こうした「220℃・10 MWe/井戸」程度の前提から一段ジャンプし、375℃ 以上の超高温域で 30〜50 MWe 級の出力を狙っています。
そのためには、既存の EGS/AGS 用機器や設計思想をそのまま延長するのではなく、当初から超高温を設計条件に据えた井戸構造・設備・発電システムを新しく作る必要があります。
2. 極限環境での井戸・材料の耐久性
温度が 375℃ を超える超高温岩体では、従来の地熱井戸に使われてきた各種ツールが、熱疲労や腐食、急激な温度変化によって短期間で劣化しやすくなります。先述の通り、400〜500℃ 級の試験井が掘られた事例もありますが、長期的な発電運転に耐えた事例はほとんどありません。
SUPERHOT は、「375℃ 超・22 MPa 超の環境で 15 年以上もつ井戸」を明示的な目標として掲げていますが、その実現には、耐熱合金・セメント配合・コーティング材の見直しだけでなく、熱サイクルを考慮した井戸設計や、パッカー・バルブなどダウンホールツールの再設計まで含めた、井戸建設全体の再構築が求められます。
3. 超高温貯留層のふるまいとモニタリング
超高温岩体の内部では、流体が超臨界に近い状態になり、岩盤も高温高圧下で通常とは異なる変形挙動を示します。そのため、
- どのように亀裂が広がるのか
- どの程度の流量と温度を長期的に維持できるのか
- 誘発地震や地化学反応のリスクをどう抑えるか
といった点の予測が難しく、不確実性が大きい領域です。
加えて、現在広く使われている井戸内センサーや電子機器の多くは 200〜250℃ 程度までしか対応しておらず、375℃ 級の環境で貯留層内部をリアルタイムに計測・監視する手段そのものが不足しています。
こうした課題認識は、Clean Air Task Force という非営利組織による報告書でも共有されています。同報告書は、超高温岩体地熱の実現に必要な技術そのものは「手の届く範囲にある」としつつも、掘削・井戸設計・熱回収・発電・サイト評価の各段階で、超高温条件を再現できる実験施設と現場試験を含む集中的な R&D 投資が大きなボトルネックになっていると指摘しています。
地熱領域のスタートアップの例
期待の一方でまだまだ課題も多い地熱領域ですが、こうした課題に挑むスタートアップも現れています。ここでは、代表的な 3 社を簡単に紹介します。
1. Quaise Energy
Quaise Energy は、従来の機械掘削では到達が困難だった地下深く(10〜20 km)の超高温地熱資源を世界中どこでも利用可能にすることを目指す、MIT 発のスタートアップです。核融合研究で培われたジャイロトロン技術を応用し、高出力ミリ波(millimeter wave)で岩石を溶融・蒸発させて掘進する「ミリ波掘削」を開発しています。
同社は、地表近くは従来の回転掘削を用い、硬くて高温な深部に到達した時点でミリ波掘削に切り替えるハイブリッド方式を採用しています。これにより、超深度までの掘削コストを抑えつつ、深度 10〜20 km・温度 400〜500℃ 級の超高温岩体にアクセスし、1 井戸あたりのエネルギーを従来比 5〜10 倍にすることを狙っています。
2. Fervo Energy
Fervo Energy は、EGS の開発を通じて 24 時間 365 日稼働するカーボンフリー電源の提供を目指すスタートアップで、2017 年に米国で設立されました。横方向坑井やマルチステージ水圧破砕など、シェール開発で培われた技術を応用し、「熱はあるが透水性がない岩盤」に人工的な貯留層を作り出す点が特徴です。
同社のもう一つの特徴は、井戸内に分散型光ファイバーセンシングケーブルを設置し、Distributed Acoustic Sensing(DAS)や Distributed Temperature Sensing(DTS)を用いて、流量や温度、微小地震など地下の挙動を高解像度でモニタリングしている点です。これにより、貯留層のふるまいを「見える化」しながら運転条件を最適化することが可能になります。
Fervo Energy は既に米ネバダ州でフィールド規模の EGS 実証プロジェクトを成功させ、24/7 カーボンフリー電源としての地熱の可能性を示したと報じられています。
3. Mazama Energy
Mazama Energy は、地下深部の岩盤内に熱交換効率の高い緻密な流路ネットワークを構築する独自技術や、超高温環境下での掘削・施工に耐えうる堅牢なシステムを開発しています。これらを用いて熱回収を最大化することで、従来の地熱発電と比較して最大 10 倍ものエネルギー出力を目指しています。
2025 年には、米オレゴン州のニューベリー火山において、坑底温度 331 ℃ という世界最高レベルの高温地熱実証に成功しました。これは、現在一般的な地熱発電の温度域を大きく超える成果であり、SUPERHOT プログラムがターゲットとするさらに高温の「超臨界」領域への到達を現実のものとする、重要なステップとして注目されています。
終わりに
本稿では、地熱エネルギーの新たなフロンティアである「超高温地熱(superhot geothermal)」について、技術的ポテンシャルと実現に向けた動向を概観しました。
超高温地熱は、従来の地熱開発が抱えていた「立地の制約」と「経済性の壁」を突破し、地熱を「一部の火山国のニッチな電源」から、世界中で利用可能な「クリーンな基幹電源(Clean Firm Power)」へと変革しうる技術です。その実現には、ARPA-E SUPERHOT のような公的支援による基盤技術の底上げと、Fervo Energy や Quaise Energy、Mazama Energy といったスタートアップによる社会実装への挑戦という両輪が欠かせません。
特に、世界第 3 位の資源量を持ちながら、エネルギー安全保障と脱炭素の両立に課題を抱える日本にとって、この領域の進展は極めて重要な意味を持ちます。官民協議会等ですでに議論が始まっているこの分野において、日本の技術力やスタートアップが参画を深め、グローバルな開発競争の一翼を担っていくことが、日本のエネルギー産業の未来を拓く鍵となるでしょう。
連絡先: pep@ihj.global