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ローレン・ボウズ・バイアット、フセイン・タイブジー「小売業者に対する健康目標は不平等に影響を与えるか?」

PEP では、政策起業に関連した英語記事を翻訳して発信する翻訳コンテンツを定期的に発信しています。
今回は、英国のソーシャルイノベーションに関する研究機関 Nesta から、以下の記事をお届けします。
翻訳元:Lauren Bowes Byatt, Husain Taibjee, Could health targets for retailers make an impact on inequalities?, Nesta, 2024/7/23

 

pexels-pixabay-264636-1多くの人々は健康的な食事を望んでいますが、行動には移していません。

この理由として、実際に行動に移すことが難しいからだ、と私たちは考えています。私たちを取り巻く食品環境のために、より健康的な選択をすることが難しくなっているのです。

より健康的な選択をしやすくするためには、食品環境を変えることが必要です。イギリスの食品小売業者は、私たちの食品環境において重要な役割を果たしており、国民の食生活を改善する鍵となっています。

そのため、私たちは大手食料品チェーンに対する義務的な健康目標という新しい政策を発表しました。この政策により、食料品チェーンは買い物を取り巻く要因を調整するよう促され、消費者はより健康的な選択がしやすくなるでしょう。400万人の体重がより健康的なレベルになる可能性があります。

このブログでは、地理や人口統計におけるデータの変動を調査し、住んでいる場所に関わらず全ての人が健康的な食品にアクセスできるようにするために、この健康目標が果たしうる役割を明らかにします。

 

食品購入における所得のよく知られた影響

健康目標を設定する際に用いたKantar社のワールドパネル部門の家庭部門食品購入データを再分析し、所得グループ、貧困度、市区町村、地域別に食品購入の健康度合を分析しました。

経済的・地理的バックグラウンドに関係なくほとんどの人々は健康的な食事をしたいと思っていますが、地域と所得によって購入される食品の健康度合には測定可能な差があります。

予想通り、裕福であるほど、または裕福な地域に住んでいるほど、食品購入は健康的になる傾向があります。最も低い所得グループは最も不健康な食品購入をしています。

以下の図は、所得グループと貧困度(複数の貧困指標 (IMD) を使用)による平均健康スコア(栄養プロファイリングモデル (NPM) スコアを変換したもの*)の違いを示しています。この変化は一部線形ではなく、貧困層ではより大きな差が見られます。

しかし、これらの差は比較的小さく、平均健康スコア間の差は1〜3ポイントしかありません。これは、最も不健康な食品を販売している小売業(63ポイント)と最も健康的な食品を販売している小売業(68ポイント)の間にある5ポイント差よりも小さなものです。

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地域にも依存する?

人々の周りを取り巻く環境が人々の健康に影響を与えることは間違いないでしょう。この観察分析でも地理的パターンが見られたことは驚くべきことではありません。都市部では農村部よりも健康的な食品が購入されており、イングランド南部では英国全体よりも健康的な買い物が行われており、最貧困地域では最も不健康な買い物が行われています。

地域別で見ると、スコットランドの小売店が平均して最も不健康であり、その次にウェールズ、その後北イングランドが続きます。

ロンドン市民は最も健康的な買い物を行っていました。最も健康的な食品購入をしている地方自治体トップ10はすべてロンドンと南東部に位置していました。小売業者による食品販売データに基づいた最も健康的な地域の中には、必ずしも裕福とは言えないような地域もありました。比較的高い健康スコアを記録していた地域の中には、最貧困世帯の占める割合が最も高い地域(例えばタワーハムレッツやバーキング・アンド・ダゲナム)も含まれていました。

地方自治体別の家庭での食品購入の平均健康度

地域別の家庭での食品購入の平均健康度

 

健康的な購買を左右する要因は何か?

健康的な購買に最も影響すると私たちが考えている要因は4つあります。

  • 購入可能な食品
  • 食品とそのカロリー量(例:ジャンクフード)
  • プロモーションや広告、食品の配置
  • コストと利便性

しかし今回の分析では、確認された食品購入の健康スコアの差が何によって引き起こされていたのか完全に明らかにすることはできませんでした。

主に個人的嗜好によるものなのでしょうか?もしくは、地域内で何が販売されているかがより重要なのでしょうか?ある地域の住民が別の地域の住民と全く異なった食べ物の好みを持つ、ということは本当にあり得るのでしょうか?すべての人々が同じ食品群の中から選ぶことができるような状況になっているのでしょうか?低所得者層ほど店内広告によってターゲットされやすいのでしょうか?

所得や地域に関係なく、ほぼすべての人々が健康的な食事をしたいと考えていますが、何らかの理由によりその考えは買い物カゴの中身には反映されていないようです。

人々が望む選択肢を取ることができていないのはなぜでしょうか?

これは費用のせいだ、と考えることが一番簡単かもしれません。結局のところ、私たちの分析では高所得者層ほど健康的な食品購入をしていることが判明しています。しかし、「高級」スーパーが「廉価」スーパーと比べて必ずしも健康的な食品を売っているわけではない、ということも今回の分析から判明しています。初期の研究からは、小売業者の健康スコアと販売されている食品の平均費用との間に強い相関は見られないことが分かっています。

小売業者の責任

重要なのは、小売業者が需要に対してどの程度まで応答しており、逆にどの程度需要を形成しているのかを理解することです。

量的なデータはありませんが、主要な小売業者が地元の人口統計や市場に沿った商品提供を心掛けており、時には似たような人口統計を持つ店舗が何を仕入れているかに基づいて店舗の在庫を決定している、と聞いたことがあります。これが本当であれば、不健康な食品販売のパターンは破壊されることなく維持、強化されている可能性があります。

しかし、実際にはこれは私たちの食品環境の中でまだよく知られていない側面です。企業がどのような種類の決定を下しているのか、またなぜそのような決定を下しているのか知ることは困難です。そして、この意思決定において健康がどのように考慮されているのかも分かっていません。

このため、私たちは民間企業と提携し、商業的成功と並行して健康を優先する方法を明らかにしたいと考えています。Asdaとのパートナーシップからも分かるように、小売業者には消費者がより健康的な選択を行えるような施策を行う意思があります。

 

健康格差を縮小するために健康目標はどう役立つか?

私たちの主要スーパーマーケットに対する義務的な健康目標政策は、私たちへの食品販売方法を変革する可能性があります。この目標が全国のすべての人々に利益をもたらし、場所やその店の消費者層に関係なく全国のすべての店舗がより健康的になるよう促すことが重要です。

しかし、もしすでにある地域やグループが他よりも健康的な購入をしているのなら、全ての人々の購買行動を健康的なものにするのではなく、すでに健康的な買い物をしている人々にさらに健康的な食品を販売する、という形で全国目標を達成することも可能かもしれません。小売業者がそのような不正を働く可能性はないでしょうか?

理論的にはこれは可能ですが、私たちは企業がそのようなアプローチを取る可能性は低いと考えています。複雑で実施が難しいうえ、全国レベルで義務的な目標を達成する助けにはならないでしょう。

もし最も裕福で健康的な店舗だけをターゲットにするとしたら、その店舗をさらに健康的にする必要があります。これは実際には難しいでしょう。

そして、多くの消費者が健康的な選択肢を望んでおり、多くの小売業者がすでに健康的な販売を行うことにコミットしているのに、小売業者が積極的に消費者の健康を無視しようとするでしょうか?

とはいえ、そのようなリスクを避けるために、義務的な健康目標が採用される場合は社会経済データや地域データを監視して目標が不正に達成されないようにすることを私たちは推奨しています。

地域ごとの健康スコアの内訳データを監視し収集する要件を、より強力な措置によって補完することもできるでしょう。例えば、店舗間の最高スコアと最低スコア間の差が広がりすぎた場合、小売業者に罰金を課すといった措置です。

また、健康と食生活の改善に関して、個人の行動を必要としないアプローチが最も効果的であることもわかっています。

買い物カゴの中身の平均健康度について全国目標を設定することで、個人からスーパーマーケットへ責任の所在を移すことができます。これにより、所得や地域に関係なくすべての買い物客がより健康的な選択肢を選びやすくなるでしょう。住んでいる場所や収入に関係なく、誰もが最も健康的な食品選択の恩恵を享受することができるようになります。

私たちの提案した目標を小売業者が達成できれば、それは所得や地域に関係なく全員に影響します。すべての店舗がより健康的になるよう促されます。そして、小売業者が影響を監視しながら正しく目標を実施すれば、最も貧しい地域の人々へのメリットが最も大きく、購入できる食品の質が最も改善されるでしょう。


*: NPMスコアの変換の詳細についてはtechnical appendixを参照してください。この記事で言及されいてるNPMは全て変換済みのNPMスコアです。

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翻訳・監修:野澤