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今週の PEP Think: 「気候適応は国家能力のテストである」「新しい保守派経済学とは何か」「食料・農業政策の最新論点整理」

海外シンクタンクの議論を日本語で読み解き、日本のビジネスや政策への含意を考えるポッドキャストシリーズ 「PEP Think」
今週は3本のエピソードをお届けしました。1本目「気候適応は国家能力のテストである」では、米中競争・災害外交・財政リスクから適応を捉え直します。2本目「新しい保守派経済学とは何か」では、米国で進む保守派の思想転換を整理します。3本目「食料・農業政策の最新論点整理」では、食料安全保障・スマート農業・農業環境政策の3つのテーマをまとめます。

気候適応は国家能力のテストである ― 米中競争・災害外交・財政リスク

災害への備えは、防災予算の話にとどまらないのかもしれません。1 本目のエピソードでは、米中競争、災害対応と外交、気候災害の財政リスクという3本の記事を通じて、気候災害への適応が国家の実力を容赦なく試す「積み重ね型のテスト」であることを考えます。問われているのは危機のときの瞬発力ではなく、平時に制度を設計し、投資し、実行し続ける地味な能力、いわば国家の基礎体力です。

1本目では、適応の制度と投資を10年以上積み上げてきた中国と、一貫した国家戦略を持たない米国の対比を扱います。2本目では、このテストの採点者が実は国民自身であることを扱います。3本目では、欧州の事例比較から、制度設計の違いが復旧の速度と財政負担をどう分けたのかを見ていきます。

気候適応をめぐる米中競争 ― 発明する力より「止まらない力」(Foreign Affairs)

Foreign Affairs の「Extreme Weather Will Upend U.S.-China Competition」をもとに、異常気象が電力・水・交通・供給網・住宅・保険・労働生産性を同時に傷つけ、米中両国の経済力と技術力を支える物理的基盤を脅かしている状況を紹介します。適応の制度と投資を積み上げてきた中国と、政権をまたいで継続する国家戦略を持たない米国が対比されています。

エピソードでは、気候適応を電力網に組み込むことが実質的にAI政策になること、中国の計画や投資を成果と同一視すると優位を過大評価しかねないこと、州や都市による分散的な実験は米国の強みでもあることを議論しました。国家の適応力を測る指標は計画の数や投資額ではなく、災害後に電力・水・物流・保険がどれだけ早く戻るかです。日本は「計画のない国」ではないものの、気候変動影響評価を電力・都市計画・産業立地・企業投資の具体的な判断にどう接続するかが課題になることについても論じています。

災害対応と外交力 ― 採点者は国民自身(Carnegie Endowment for International Peace)

Carnegie Endowment for International Peace の「The Overlooked Link Between Disaster Response at Home and U.S. Power Abroad」をもとに、国内の災害対応を内政問題とみなす発想を問い直します。災害対応の不備が政府への信頼を損ない、対外援助や海外での軍事関与への国民の支持まで弱めかねないという論点です。

エピソードでは、災害予算を国内の福祉ではなく、同盟を維持し海外に関与し続けるための国家能力への投資として捉え直せることを議論しました。ハワイの山火事後に「ウクライナよりハワイを」と訴えたロシアの認知戦のように、災害直後は敵対的なナラティブが入り込みやすく、危機の広報は民主主義社会の情報防衛でもあります。州ごとの能力差が大きいなかで連邦の関与を縮小するには、能力基準や条件の設計が必要になります。日本でも防災を内政部門に閉じ込めず、重要インフラの復旧時間といった民生レジリエンスの指標を安全保障や経済安全保障の政策に組み込む視点が参考になることについても論じています。

気候災害と財政リスク ― 災害を財政危機にしない制度設計(Bruegel)

Bruegel の政策ブリーフ「Planning for the Rising Fiscal Costs of Climate Disasters」をもとに、EUの気候災害が構造的な財政問題になっている状況を紹介します。1980年から2024年の直接損失8,220億ユーロのうち4分の1が直近4年間に集中しています。保険カバー率が低いなかで政府が災害後の臨時予算で穴を埋め続ける構造は、税収・成長・金利・債務に波及します。

欧州の洪水では、事前に積み立てた基金を持つスペインは素早く支払えた一方、事後対応に頼った国では救済が遅れ、損失の多くが家計や農家に残りました。エピソードでは、予防、民間保険、国家基金、欧州共通プール、ガバナンスというリスクレイヤリングの考え方を議論しました。保険は損失を再分配するものであり、損失そのものは適応でしか減らせません。強制保険の逆進性や、無保険化が住宅金融や自治体財政に波及するリスクにも触れています。あわせて、日本の地震保険の官民リスク分担や流域治水の取り組みを、中期財政や保険設計にどう接続するかについても論じています。

新しい保守派経済学とは何か ― 市場は誰のためにあるのか

保守派の経済政策と聞くと、減税、規制緩和、自由貿易、小さな政府を思い浮かべるかもしれません。しかし現在の米国では、関税や産業政策を支持し、場合によっては労働組合も肯定する、新しい保守派経済学が存在感を増しています。

この考え方は、市場をできるだけ自由にすれば社会全体が豊かになるという、過去40年ほどの保守派の経済観を見直そうとするものです。経済政策の目的を、効率性や消費者価格だけで測るのではなく、労働者、家族、地域共同体、国内の産業基盤、国家安全保障まで含めて考えます。市場を否定するのではなく、市場をどのような目的に向けて設計するのかを問い直している点が特徴です。

このエピソードでは、Oren Cass とシンクタンクの American Compass を中心に、新しい保守派経済学の内容と歴史的背景を整理します。アメリカン・システム、社会保守主義、経済安全保障という思想的な源流から、共和党や米国の通商政策への反映、自由貿易を重視する保守派や左派の労働運動からの批判までを取り上げます。米国市場で事業を行う日本企業にとっても、この変化は無関係ではありません。品質や価格だけでなく、米国内の生産、雇用、産業基盤、サプライチェーンの強靱化、対中依存の低減にどう貢献するのかが問われつつあります。一方で、関税による物価上昇、政府による産業選別、同盟国との摩擦、行政能力の限界といった問題もあります。市場は誰のためにあるのかという問いを手がかりに、日本の市場と産業政策のあり方を考えます。

食料・農業政策の最新論点整理 ― 食料安全保障・スマート農業・農業環境政策

3 本目のエピソードでは、最近の海外シンクタンク・政策研究機関の論考を手がかりに、食料・農業政策をめぐる三つのテーマを横断的に整理します。食料安全保障とイラン危機、スマート農業政策、農業環境政策の評価という3つのテーマを取り上げます。

テーマ1:食料安全保障とイラン危機

国内生産や備蓄に加えて、肥料、燃料、物流など、食料供給を支える条件が崩れたときに、どのような影響が生じるのかを考えます。Chatham House の「The fifth food mega-shock in 20 years? How to stop these crises for good」、International Food Policy Research Institute(IFPRI)の「Iran war: From fertilizer to food crisis?」、Peterson Institute for International Economics(PIIE)の「Use the WTO to address global fertilizer supply constraints related to the Iran war」を取り上げます。

エピソードでは、輸入価格の上昇が、肥料価格、農家の投入判断、収量、食品価格へ時間差を伴って波及する過程を確認しています。あわせて、尿素の調達リスクや価格変化の把握、WTO、AMIS、G7などを通じた貿易情報の確保についても整理しています。

テーマ2:スマート農業政策

ロボットやドローン、センサー、AIを導入するだけでなく、研究機関の知見や農業データを、農家の判断や作業へどう還元するかを考えます。Research and Information System for Developing Countries(RIS)の「India's AI-Enabled Bharat VISTAAR Platform: Lessons for Bridging Agricultural Information Gap in Sub-Saharan Africa」、IFPRI の「Beyond the model: Evaluating AI agricultural advisory systems so they work in the field」、IPES-Food の「Digital agriculture is concentrating corporate power over food systems」を取り上げます。

エピソードでは、AIによる農業助言を、回答の正確性だけでなく、地域条件への適合性、利用しやすさ、運用中の監視、問題発生時の責任分担まで含めて評価する方法を整理しています。農家が提供したデータの利用権限や、データから生まれた価値を農家や地域へどう還元するかについても取り上げています。

テーマ3:農業環境政策の評価

参加面積や補助金額、実施された取組と、実際に生じた環境変化を区別し、評価結果を制度改善へどう生かすかを考えます。Agora Agriculture の「Less red tape, more results: How benchmarking and landscape coordination can make sustainable farming more competitive」、SYTRA / FiBL(ENFASYS)の「Result-based payments for behavioural change」、Institute for European Environmental Policy(IEEP)の「Strengthening the policy framework for ReCAP: barriers, enablers, and policy opportunities」を取り上げます。

エピソードでは、農場、流域、農業景観など、成果の種類に応じた評価単位の選び方を整理しています。あわせて、結果ベース支払いに伴う農家のリスク、測定精度と行政・農家の負担の関係についても論じています。