海外シンクタンクの議論を日本語で読み解き、日本のビジネスや政策への含意を考えるポッドキャストシリーズ 「PEP Think」。...
今週の PEP Think: 「炭鉱メタンと鉄鋼の脱炭素」「再工業化とは何か」「AIで行政は良くなるか」
海外シンクタンクの議論を日本語で読み解き、日本のビジネスや政策への含意を考えるポッドキャストシリーズ 「PEP Think」。
今回は3本のエピソードをお届けします。1本目「炭鉱メタンと鉄鋼の脱炭素」では、原料炭の採掘時に出るメタンを、調達や投資の判断にどう結びつけるかを考えます。2本目「再工業化とは何か」では、工場の誘致にとどまらない産業能力の再建という観点から、再工業化の論点を整理します。3本目「AIで行政は良くなるか」では、行政へのAI導入の成果を何で評価し、組織や人の関与をどう設計するかを考えます。
炭鉱メタンと鉄鋼の脱炭素 ― 排出の把握・削減投資・低排出鋼の市場設計
鉄鋼の脱炭素では、水素を使う製鉄や電炉への転換など、製鉄所の技術が主に議論されてきました。一方、その原料となる石炭を採掘する段階でも、温暖化への影響が大きいメタンが放出されています。1 本目のエピソードでは、海外の炭鉱で生じるこの排出を、石炭を買う企業や鉄鋼を使う企業の判断にどう結びつけるかを考えます。
日本が輸入する石炭に伴うメタンの把握、オーストラリアの炭鉱での削減投資、低排出の鉄鋼を支える証書市場という3つの論点を通じて、排出の情報を集めること、削減に投資すること、その成果に対価を払うことをどう結びつけるかを議論します。
輸入炭のメタン管理 ― 海外の採掘現場に日本の買い手はどう関われるか(Ember)
Ember の「Methane doesn’t read the label」をもとに、日本が輸入する石炭の採掘時メタンが、排出の把握や管理から抜け落ちる問題を紹介します。報告書は、日本の商社や鉄鋼企業が持つ取引関係を通じて炭鉱の情報を求め、その情報を調達、金融、削減計画につなげることを提案しています。
エピソードでは、製鉄用の石炭をすぐに代替しづらい事情と、採掘時のメタンを測定・削減できるかという問題を分けて考えました。継続的な取引は、情報提供や削減投資の費用分担を話し合う機会にもなり得ます。また、排出の少ない炭鉱へ購入先を変えることと、世界全体の排出が減ることは、同じ成果とは限りません。測定の改善によって報告値が増える場合も含め、買い手の調達実績に加えて、供給者の設備や操業がどう変わったのかを確認する必要性について議論しています。
炭鉱メタンの削減 ― 低コストの対策を実際の投資に変えるには(IEEFA)
IEEFA の報告書「Not so hard to abate」をもとに、オーストラリアの炭鉱メタン対策を紹介します。報告書は、採掘前のガス回収や換気で排出されるメタンの処理に削減余地があると指摘し、測定の改善、外部クレジットの利用制限、メタン回収の義務付けなどを提案しています。施設ごとに排出基準を設けるセーフガード・メカニズムの下で、現場の削減をどう促すかが論点です。
エピソードでは、安全のためにガスの濃度を下げることと、大気に出るメタンの量を減らすことを区別しました。また、設備の使用期間全体で削減費用が安くても、初期費用や人材の確保、稼働率の不確実性によって投資が進まない可能性を考えました。製鉄法の転換と炭鉱のメタン対策を並行して進める際には、予定された操業期間に合う設備を選ぶことも重要です。設備費を回収するための操業延長とは区別し、日本向けの原料炭を供給する既存の炭鉱で、当初の操業計画を延ばさずにどれだけ削減できるかを検討する必要性について議論しています。
低排出鋼の市場設計 ― 証書への支払いを生産能力の拡大につなげるには(RMI)
RMI の報告書「Shaping a credible market for low-emissions steel」をもとに、鉄鋼の現物と環境価値の証書を分けて取引する「ブック・アンド・クレーム」を紹介します。報告書は、調達先の制約によって低排出の鉄鋼を直接買いにくい企業も、その生産を支えられるよう、証書の検証と報告のルールを提案しています。現物に基づく排出報告と、証書を反映した報告を区別することも、その設計に含まれています。
エピソードでは、地域や用途の異なる企業の需要を上流の生産設備に集め、複数の企業が費用を分担する可能性を考えました。その際、既にある低排出の材料の購入先が変わることと、新しい製法による生産能力が増えることは区別する必要があります。また、長期的な購入の約束で投資を支えることと、生産後に確認できた成果を報告することには、時間の違いがあります。証書の基準を満たすことに加えて、その支払いが投資や生産を実現させたかという追加性にも注目し、低排出の鉄鋼をどれだけ生産し続けられるようになったかを評価する必要性について議論しています。
再工業化とは何か ― 産業能力の再建から考える
工場への大型投資が発表されても、材料、電力、人材、保守、買い手が揃わなければ、生産を続けることはできません。2 本目のエピソードでは、「再工業化(Reindustrialization)」を、産業能力の再建という観点から考えます。国内に工場を戻すことや製造業の雇用を増やすことに加えて、必要なものを作り、工程を改善し、技能を引き継いでいく力を、どう支えるかがテーマです。
まず、雇用・生産の回復、産業共有基盤の再構築、経済安全保障という、再工業化の三つの使われ方を整理します。その歴史的な背景を確認したうえで、安全保障、技術による産業の変革、良い雇用と地域社会、先端産業の国際競争力を重視する立場の違いを取り上げます。同じ工場への投資でも、何を目的にするかによって成功の評価は変わります。また、スタートアップによる技術開発を量産につなげる際には、購入契約や認証、設備資金なども課題になります。
後半では、米国・EU・中国の政策を比較し、市場の失敗と政府の失敗、国内自給と同盟国との分業、目に見える成果と実際の能力、脱炭素とエネルギー費用という論争軸を検討します。日本については、既存の製造基盤を踏まえ、足りない工程や能力を特定する「選択的再工業化」を議論しています。投資額や工場数に加えて、平時に生産と技術更新を続けられるか、危機の際に必要な量を必要な時期までに供給できるか、その能力を社会が受け入れられる費用で維持できるかを考えます。
AIで行政は良くなるか ― 成果の評価・政府全体の統治・人の関与
行政や公的機関では、大量の資料を調べたり、政策の進み具合を把握したりする作業に、AIを役立てることが期待されています。ただ、処理が速くなっても、判断の質や公共サービスが良くなるとは限りません。3 本目のエピソードでは、導入の成果を何で評価し、政府の組織や人の関与をどう設計するかを考えます。
英国の公的機関NICEの文献選別、省庁間の情報共有、暮らしへの影響を基準にしたAIガバナンスという3つの論点を通じて、何を改善と呼び、その改善を続けるための情報、権限、職員の能力をどう整えるかを議論します。
文献選別へのAI導入 ― 判断の質と職員の能力をどう評価するか(Ada Lovelace Institute)
Ada Lovelace Institute の報告書「Care and consideration: Lessons for AI adoption in the public sector from a research collaboration with NICE」をもとに、英国で医療の指針などをつくる公的機関NICEが、文献選別にAIを導入する際の評価を紹介します。報告書は、技術の性能に加えて、職員の仕事や責任、組織や社会への影響を含めて評価する必要性を指摘しています。
エピソードでは、見落とした文献の件数と、判断に必要な情報が失われることを分けて考えました。全体の推定値がほとんど変わらなくても、特定の患者層について判断する根拠が抜け落ちる可能性があります。また、導入時に熟練した職員がAIの誤りを発見できることと、将来の職員もその能力を身につけられることは、別に確かめる必要があります。短縮できた時間を重要な研究の反映や指針の更新にどう使うかも含め、必要な根拠を集め、確かめ、適切に見直し続ける能力として導入の成果を捉えることについて議論しています。
政府全体のAI活用 ― 省庁間の情報共有を実行力につなげるには(Tony Blair Institute for Global Change)
Tony Blair Institute for Global Change の「Leading in the Age of AI: How to Build an AI-Enabled State」をもとに、AIを活用する政府の組織と運営を紹介します。論考は、各機関の専門性を保ちながら課題に応じて連携すること、共通のデータ基盤を整えること、政治的な判断を人が担い、各機関が実施を進めることを提案しています。判断の根拠を追えることや、市民が異議を申し立てられることも、その設計に含まれています。
エピソードでは、政府が詳しい状況を把握できることと、その情報を使って政策を実行できることの間にある仕事を考えました。情報共有が現場の判断を助ける場合もあれば、承認を求める案件が中央に集中し、決定までの待ち時間が長くなる場合もあります。また、データや業務手順を整える仕事を目先の処理件数だけで評価すると、将来の実行を支える能力の形成を見落としかねません。個別の異議申し立てや審査で分かった問題を、他部署の判断や制度の修正へ反映する仕組みも含め、情報が誰の仕事を変え、次の案件にも使える能力として残るかについて議論しています。
暮らしのためのAIガバナンス ― 効率化を公共サービスの改善につなげるには(Carnegie UK)
Carnegie UK の報告書「Governing AI for Collective Wellbeing」をもとに、人々の暮らしへの影響を基準にしたAIの管理と監督を紹介します。報告書は、生活への影響を調達や事業評価などの行政判断に組み込むことを提案しています。また、人がAIを監督するには、訓練に加えて、判断を覆せる権限や必要な情報を持つことが重要だと指摘しています。
エピソードでは、医療費を支援の必要性の目安に使った研究などをもとに、予測の正確さと、支援を必要とする人を見つけることの違いを考えました。効率化によって生まれた時間や対応能力も、待ち時間の短縮、複雑な相談への対応、ほかの業務への配分など、使い方によって利益を受ける人が変わります。さらに、AIの提案を承認するだけの使い方と、根拠を検討しながら判断する使い方では、職員が経験を積む機会も異なります。現場で実際に提供できるサービスと比較しながら、住民への効果と、将来も誤りを発見して修正できる能力を継続的に確かめる必要性について議論しています。