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サイモン・ライト「地域社会の支援なしでは、グリーンエネルギーへの移行は失敗に終わります。地域社会を巻き込む方法とは」

PEP では、政策起業に関連した英語記事を翻訳して発信する翻訳コンテンツを定期的に発信しています。
今回は、非営利のオンラインメディアサイト The Conversation から、以下の記事をお届けします。
翻訳元:Simon Wright, Without community support, the green energy transition will fail. Here’s how to get communities on board, The Conversation, 2024/4/4

logo-horizontal-en-df7faf4238d541b16db76bba081fdd73Photo by Abby Anaday on Unsplash

安価でクリーンな再生可能エネルギーを利用するには隠れたコストと課題があります。それは、(訳注:オーストラリアでは)この10年間で5,000キロメートルの新しい送電線を建設し、その後さらに5,000キロメートルを建設することです。これは大変なことのように聞こえますが、5,000キロメートルは既存のグリッドネットワークの約10%に過ぎず、2030年までに32ギガワット以上の新しいクリーンエネルギー容量を確保することができます。

問題は、多くの場合地域社会が新しい送電線の受け入れに納得しないことです。これは、最近の再生可能エネルギー事業者と送電事業者による地域社会への関与に関するレビューが示すように、なぜそれが必要であり、どのように地域社会の利益になるかが十分に説明されていないためです。

私たちはすでに、不確実性のある大規模な計画は世間からの支持を得られにくいことを知っています。そして、国の政策を地元への影響へと反映させるためには、市民への関与が不可欠であることも分かっています。

私の研究では、地域社会がエネルギー転換の恩恵を実際に受けられるようにする活動を行っているRE-Allianceという地域組織と協働しています。この研究の過程で、地方の住民はしばしば自分の土地に風力タービンを設置したいと言います。しかし、同じ住民が新しい送電線敷設の計画には反対することを目にしてきました。送電線というインフラがなければ風力発電所が成り立たないことに気づいていないのです。

このような計画の成功は、開発業者が早い段階から頻繁に地域社会と関わり、そのプロジェクトが地域社会にとって、そして住民にとって重要である理由を示しているかどうかに左右されます。

地域社会が計画を自分たちのものだと感じたり、計画の一員として含まれていると感じたりする場合には、計画はより成功しやすくなるでしょう。

 

地域社会の反発がグリーン移行を妨げる可能性

地域社会の懐疑的姿勢はオーストラリア特有のものではありません。

アメリカ人の3分の2以上が化石燃料よりも再生可能エネルギーを支持しています。しかし、実際に再生可能エネルギーを建設するとなると、多くの人が反対します。約300の風力、太陽光、送電線敷設計画が地元の反対によって遅延しており、1320億オーストラリアドルの投資と74,000の雇用が停滞しています。

これはある意味では理解できます。地域社会は、プロジェクトが自分たちに押し付けられていると感じる場合、特に自分たちには利益がないと感じる場合には反発することがあります。

最初から地域社会と関わり、地域の不安や問題に一緒に取り組む開発業者は、成功する可能性が高くなります。利益の公平な分配が助けになることもあります。

 

地元の利益に焦点を当てる

グランピアンズに近いビクトリア州のウィメラ・サザン・マリー地域では、約20の新しい再生可能エネルギープロジェクトが計画されています。これまで、この平坦で日当たりの良い地域の太陽光発電所は送電線の不足に悩まされてきました。しかし、一部の地元住民は送電線の敷設計画に強い懐疑心を抱いており、そのために一部の再生可能エネルギープロジェクトが進行できていません。

それでも、地域開発組織であるウィメラ・サザン・マリー開発が地域社会と開発業者の間を取り持つために尽力したこともあり、計画には進展が見られています。同組織のCEOであるクリス・スーネス氏は次のように私に話してくれました。

開発業者と地域社会が協力し、農村コミュニティや地方の町の利益がサポートされ、その利益が地域社会に還元されれば、再生可能エネルギーは(この地域で)成功するでしょう。

 

この地域には雇用、多様な産業、労働力の再訓練、そしてより良い物件が必要です。これらはすべて、再生可能エネルギーと送電線の敷設計画が提供できるものです。

同様の話は、ニューサウスウェールズ州の南西再生可能エネルギーゾーンでも見られます。これは大規模な太陽光発電や風力発電プロジェクトを既存または新規の送電線とグループ化し効率を高めるために、オーストラリア州政府が計画した地域のひとつです。

この地帯では、開発業者が良い設置場所を我先にと探し求める再生可能エネルギーのゴールドラッシュのようなものを引き起こしました。しかし、それは住民にとってどんな意味を持つのでしょうか?昨年、ヘイ市の委員会は3,000人の住民に意見を聞きました

委員会は、地域社会の影響力を高め、地域社会が何を望み、何を望んでいないのかを再生可能エネルギー開発業者に明確にするために、住民へのヒアリングを主導しました。代わりに、多くの開発業者がそれぞれ独自のヒアリングを行う可能性もありました。

ヒアリングの結果、開発業者からの関心に圧倒されていると感じている住民が一定数いることが明らになりました。風力および太陽光発電所が地元の環境に損害を与えるのではないかと心配してた住民もいました。「既存の住宅危機を考えると、労働者のための十分な住宅があるのか」「大型送電線が景観にどのような影響を与えるのか」といったような不安を住民は抱えていました。ヒアリングに関する文書で、委員会のメンバーは次のように述べています。

ヘイ市での再生可能エネルギープロジェクトの開発が、私たちの地域社会に「対して」ではなく、私たち「と共に」行われることが非常に重要です。

 

時間が限られている中で、どのように手法を洗練させるか?

送電網をグリーン化する洗練された手法が必要だと分かってはいるが、そのための時間は限られている、というのが私たちが直面している難問です。

一つの方法は、これらの計画に土地を提供する土地所有者と、より広範な地域社会の両方にとっての長期的な繁栄に焦点を当てることです。クリーンエネルギーにおけるオーストラリア先住民の意見とリーダーシップが不可欠であるのと同様に、地元のリーダーシップもここでは不可欠です。

気候変動の影響でますます不安定になる栽培および放牧条件に直面する農家にとって、再生可能エネルギーは新しい収入源を提供します。風力発電会社による典型的な支払いは、現在、タービン1基あたり年間40,000オーストラリアドルを超えています。

多くの畜産農家は、羊や牛を飼育しながら数十基のタービンを所有しています。太陽光プロジェクトの場合、農家は年間1ヘクタールあたり約1,500ドルの賃料を得ることができ、パネルの下で羊を飼育し続けることができます。高電圧送電線の新たな敷設を希望する土地所有者は、州によっては1キロメートルあたり200,000ドルから300,000ドルの支払いを受けることができます。

しかし、国家的な行動も必要です。

連邦政府は、計画を地域レベルでよりよく伝える方法を見つける必要があります。なぜこれを行う必要があるのか、地域社会にとっての利益は何か、そして送電がなぜ重要なのかを説明する必要があるでしょう。

政府は、エネルギー移行における環境、技術、社会的成果に焦点を当てたCSIRO(訳注:オーストラリア連邦科学産業研究機構。オーストラリア政府の科学研究機関)ベースの研究センターを検討してもよいでしょう。

また、政府は、エネルギーに関する地域施設に投資して、住民が質問をしたり、情報を得たり、利益を共有する方法を見つけたりすることができるような場を提供することもできるでしょう。これらの施設は、ヘイにあるENGIEハブのような既存のプロジェクトの窓口機関と連携することも可能です。

ジェイムズ・ジョイスが書いたように、失敗は発見の扉です。失敗を繰り返さないためにも、初期の反対運動から素早く学ぶ必要があります。

この記事の翻訳にあたり、翻訳許可を本記事の著者から取得しています。
 
著者:
サイモン・ライト (Simon Wright) 、チャールズ・スタート大学シニアリサーチフェロー
 
翻訳:児玉( PEP インターン)
監修:野澤
The Conversation